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エスレクの街

 エスレクの街に着いたころには、日が落ちかけていた。

 レンザのおっさんはサインした依頼達成書をトーラに渡すと、そのまま商人ギルドへと向かっていった。

 冒険者ギルドとは違い、犯罪から身を守るために冒険者以外のギルドは深夜には門戸を閉めてしまう。戦闘集団といっても過言ではない冒険者ギルドに殴り込む馬鹿はいないからな。

 そんなわけで、閉められてしまう前にこの街で商いを行う許可を取らないと、行商で運んできた荷を今日中に売りに出せないわけだ。荷物満載の馬車が宿屋に停泊していることなんて知られたら、そりゃ喜ぶ奴らも出るだろうから。

 レンザのおっさんが大通りを曲がって見えなくなるまで見送っていていた俺達は、まずは冒険者ギルドの前に憲兵所に向かった。

 さっきからジロジロ周りから見られているが、ロープで縛った男三人を連れた男女が一組。目立たない方がおかしかった。

 すでに三人からは冒険者証を接収してある。地方になると冒険者証が身分証明の代わりになる所もあり、エスレクも例外ではなかった。身分証明となる物がなければ逃げ出したとしても街の外へすら出て行けない。三人は大人しく俺達に付いてくるしか道はなかった。


「これが報奨金だ、確認してくれ」


 償金首だったというわけもなく、高くも安くもない金額を貰った俺は全額をトーラに押しつけるようにして渡した。


「え、ちょっとシュウさん」

「全額やる代わりに、この街の案内と知り合いがいないか調べる手伝いをしてくれないか」


 初めてくる街で土地勘がない俺を、迷うことなく憲兵所まで連れてきたトーラだから、この街に詳しいと思った上での行動だった。

 トーラは袋に入れられた貨幣の重さを確かめながら、うんうん唸っていたが俺がそれでいいのならと、最後には喜んで依頼を受けてくれた。


「エスレクの街の冒険者ギルドは、レンザさんが曲がった通りを逆に行けばあります!」


 ご機嫌になっているトーラに引きづられる用に手を引かれ、俺は元来た道を戻っていく。

 エスレクは王都に比べるのはさすがに可哀想だが、それでも往来を多くの人や馬車が通り、活気に溢れているようだった。

 屋台も所々にあるようで、美味しそうな臭いを漂わせている。串に刺した肉を焼いている店、多くの具材が入ったスープを売っている店など、見るだけでも楽しい。


「シュウさん買い食いはだめですよ。僕が案内するって事になったんですから、夕食と宿はとっておきの所を紹介しますからね」


 悪戯っぽく笑うトーラを見て、昨日の夜の出来事を思い出しそうになったが首を振って振り払おうとする。

 何をしているのかと不思議な眼をトーラに向けられるが、人が多くて少し酔っただけだと誤魔化すとクスクスと笑われた。

 誘惑に勝ちながら辿り着いた冒険者ギルドはさすがに王都のものよりは小さかったが、冒険者ギルド発祥の『闇』ギルドほどの大きさを誇っていた。これなら、中に百人近くいても混雑というほど混雑はしないだろう。

 トーラは勝手知ったる足取りで受付の前の列に並ぶ。


「シュウさん。少し時間がかかりそうですから、気になる依頼があるなら見てきても大丈夫ですよ。それにお知り合いの方が見つかるかもしれませんし」


 お言葉に甘えさせて貰い俺はクエストボードの前に移動した。

 時間が時間なので、依頼の数は多くなく、見ている人も俺以外には数人といった所か。

 まずは自分のランクで受けられるランクDからFまでのクエストボードを流し見する。こっちでも王都と同じくDは討伐系が多いな。それに、出現する魔獣の種類や出現場所が大分違うようだ。


「へえ、遺跡ねえ」


 王都では周辺に草原や森、荒れ地といった所があるだけで、それ以外の遠い場所はランクが高くて『表』では受けた事がなかった。『闇』は『闇』で毛色が違うから、ただの魔獣討伐なんてほとんどなかったし。

 エスレクの街の周囲には、いくつか遺跡があるらしくランクDでは常駐依頼という形で、遺跡内の魔獣の駆除がクエストボードの一番上に張り出されていた。大柄な男なら手が届きそうだが、常駐だから剥がす必要がないからあんな所に貼ってあるのか。

 ランクEとランクFはこちらでも相も変わらず採取依頼が多いようだったが、ランクEだと遺跡周辺の採取依頼がちらほら眼についた。


「お待たせしました。お知り合い方は……見つかってないようですね」


 最初は元気よく、最後は遠慮がちに話しかけてきたトーラが俺の横に並んだ。

 俺が何を見ているのが気付いた彼女は「遺跡に興味があるのですか」と輝いた眼で聞いてきた。


「興味というか、初めて見たから珍しいなってな」

「シュウさんなら遺跡関係の依頼は、気をつければとっても実入りがいいと思いますよ」


 遺跡とはいっているが、実のところはダンジョンであり外から入り込んだ魔獣達が、中でどんどん繁殖して増えていっているらしい。

 それを根絶やしにしない程度に狩ることで、安定した資源と報酬を得ることが出来るようになっているらしい。


「遺跡の中で魔獣が増えすぎると、追い出された弱い魔獣達が外に出て住処を求めて彷徨い始めるんですよ」


 一般的にスタンピードと呼ばれている現象で、住処を追い出され飢えている魔獣は弱い生き物が大量の餌を食って生活している場所を一斉に目指すそうだ。

――つまりここ、エスレクの街か。


「常駐依頼になっていますが、一定期間の魔獣の討伐数が少ないと高額の遺跡の調査依頼や、緊急の討伐依頼が出るんです」


 トーラはここからが本題とばかりに、俺をクエストボードの前から引っ張りギルド内の端へと誘う。


(ここからは大声じゃ言えないんですけど、実入りがいいので低ランクの人達はよく遺跡にいくんですが、高ランクになるほど遺跡にはいかなくなるんです)

(魔獣が弱いってことか? 金にならないのか)


 釣られて小声になる俺に、トーラはゆっくりと首を振ってニヤッと一瞬暗く笑った。


(高ランクの遺跡の討伐依頼は、深い階層に生息する魔獣が相手なんです。あ、エスレクの遺跡は地下に深くなっていく構造なんです)


 さらに注意深く周囲を確認するトーラに先を促すと、さらに小声になって語ってきた。


(地下深くの魔獣の討伐数を絞る事でスタンピードが起きやすくなるんですが、スタンピードが起こらない境界を狙って魔獣の数を調整するんです。そうすれば、ギルドは警戒して討伐依頼の報酬をつり上げざるを得なくなる。そして冒険者達はって算段です)


 なんつーか、言ってることは分かるが腐ってんな。


(ギルドが討伐数を管理しているから、依頼が美味しく熟すまでは手を出さないってか。金には余裕がある高ランクだから出来る方法って事か)

(です、です)


 さすがに表に出るのが嫌いな俺でも、ギルドマスターの権限でどうにかって思える程だぞこれは。

 この街の冒険者が街の人々の身の安全と引き換えに、金を要求しているクズにしか見えなくなってきたわ。


(でも、そこが本題じゃないんですよ)


 ん? 本題じゃない?


(低ランクでも実力のある者は、遺跡の深くまで潜って溜まりに溜まった強い魔獣を狩って狩って狩って狩りまくって、依頼料はないけど売った魔獣の素材で一財産築いていけるんです)


 なるほどねえ。せっかく育てている遺跡の魔獣が才能ある低ランクに荒らされるから、高ランク冒険者の思い通りには必ずしもならないって事か。


(だからですね)


 真剣な表情で見てくる俺を見上げてくるトーラ。その目には今までで一番の真剣さが込められていた。


(このエスレクの街では実力のある低ランクは高ランク冒険者に嫌われます。シュウさんの実力がばれると絶対にいざこざに巻き込まれるので注意してください)


 俺は自然と俺より一つ分頭が低いトーラの頭を撫でていた。こんな真っ正直に生きているなんて地球はもとより、この弱肉強食の世界でも行きにくいだろうに。

 真っ赤になって狼狽えているトーラをみて「悪い」とすぐに俺は手を引っ込めた。

 ちょっと何を言っているか分からない位の声量で文句をいっているようだが、嫌われるまではいっていないだろう。ちょっと恨みがましい眼で見られはしたが。

 だが、せっかく忠告してもらって悪いのだが、クエストボードの遺跡関連の調査依頼にちょっと気になるのが見つかったのだ。

 幸いランクDの依頼だったので、ランクEの俺でも受ける事が出来る。

 それを伝えると、言ったそばからとトーラは不機嫌になったが、調査ということなら道案内くらいは出来ると協力を申し出てくれた。

 恐らく地下深くまで潜ることになるだろうから、その事を隠して遺跡までの道案内だけをお願いすると、トーラは喜んで引き受けてくれた。

 依頼の内容からすると、もしかして一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなりそうで、俺はうきうきとしながら遺跡調査の依頼票を剥がして受付に持って行った。

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