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森の中 二つの脅威

 日が傾き初めて少し経った頃、王都を囲う外壁の扉近くに冒険者達が集合し始めていた。

 『表』ギルド本部に集まっていた冒険者の人数とは比べものにならない位すくないが、それでも今回の依頼の重要性を理解して集まってくれたのだろう。それとも、多額の報償金がきいたのか。

 集まっている冒険者のなかには、俺がよく見る高ランクの顔ぶれがチラホラ見受けられた。

 今回は万全を期してカオス=イレを討伐する為、食料や水の物資は多めに用意してある。相手は災厄と呼ばれている魔物、事を急いて失敗すればどんな結末が待っているか分からない。

 カオス=イレではないが、他に災厄と呼ばれている魔物で一番有名なドラゴンなんて、一夜にして国を滅ぼしたという逸話すらあるほどだ。慎重になってなりすぎる事はないだろう。


「まずは、この困難な依頼を受けて頂き有り難うございます」


 ミラが慇懃に礼を述べた。


「集まって頂いた十数名の冒険者の方々には、この依頼の成功、失敗に関係無く約束の報奨金を出します。なお、成功すれば特別報奨金もお出しします」


 ミラの言うことを真剣に聞いている冒険者達。報奨金が必ず貰える、成功報酬も貰えると聞いても誰一人舞い上がる事は無かった。

 裏を返せばそれがどういう事が、分かる冒険者だけが集まっているということだ。


「俺たちは高ランク冒険者の義務ってやつを果たすために此処にいるんだ。ここまでお膳立てしてもらっていまさら金でどうこうはねえさ」


 名前までは知らないが、確かランクAの冒険者が皆の意思を代弁するように語った。


「だが、俺たちやギルドのお偉いさんはいいんだがよ」


 男は視線をミラから俺に向けてきた。


「自殺志願者はこの場所にはいらないはずだろ」


 まあ何を言いたいのかは分かるけど。しかも俺がナイトメアじゃなくてカオス=イレを倒そうとしてるなんて知ったら激高しそうだ。


「ナイトメアを倒してカオス=イレの情報を持ち帰ったマルさん――その相方の冒険者です。ランクはEと低いですが、ナイトメアにとどめを刺したのは彼だと聞いています」


 何を思ったか、ミラは俺が冒険者ギルド関係者ということを伝える気は無いようだった。

 セリスは何か知っているのか動揺も何も見せていない。狼狽えているのは、マルだけだった。


「おいおいマジかよ。ランクEでナイトメアを仕留めるって、ギルドは仕事をしてるのかよ」

「それについては弁明のしようがありませんね。今回の件で彼の活躍を確認できれば、しかるべき対処を行います」

「だとよ坊主。ここで気張って今度俺達といっしょに依頼受けようぜ」


 言葉使いは悪かったが、高ランクになるには品位も問われる。さすがランクAの冒険者だけあるな。どっかのスキルだけもらってなし崩し的にランクS相当として働いてる男とは別次元だな。


「他に意見のある者が居なければ、これから出発します。各自パーティごとに馬車に乗って下さい。先頭は私達ギルド職員と道案内の彼女たちが行います。殿は――」

「まかせろ。色々言った詫びだ、それぐらい引き受けるぜ」

「では、お願いします」


 やっばいな。あのランクAの冒険者のおっさん、イケメンすぎるだろ。

 俺達が乗る馬車を先頭に、冒険者が乗った馬車が二台続き、その後に物資を乗せた馬車と殿の冒険者が続いていった。

 馬車で移動したため、日が落ちる前には森に辿り着くことができた。

 すでに途中襲ってきた獣や魔獣を捌いて冒険者達が夕餉の準備を行い始めている。

 馬車に一応積んできた資材もあるが、しばらく出番は無さそうだった。

 森の外で日が落ちきるまで待ち、日が落ちたら馬車の護衛のみ残し、夜目のポーションを利用して俺達は再び森へと入っていった。


「どうだマル」


 周囲を伺いながら臭いを嗅いでいるマルに声をかけると、ゆっくりと首を縦に振った。


「何でもかんでも敵味方を識別できるより、特定の相手がわかるって便利ね」


 マルに先導をまかせ、無駄な戦闘をしないようにセリスに細かい調整をしてもらう。こうすることで、森に入ってからの戦闘は数えるほどで済んでいた。

 それに、例え戦闘になっても高ランク冒険者の群れだけあって、見つけた途端に物言わぬ死体に様変わりするという頼もしさだった。


「先日と同じ臭いだからナイトメアかな………それが五つ。それと、一際強い臭いが……二つ」


 このマルの報告に、いまままで頼もしさしか感じなかった冒険者達からはじめて動揺が感じられた。


「マルさん。それは確実ですか」

「はい。臭いが左右に分かれて一つずつあります。間違いは無いと思います」

「セリス」

「了解」


 セリスの能力で近場にいる存在の敵意が可視化されて眼に前に浮かび上がった。初めて見るマルや冒険者達からは驚きの声があがり、コレはいったい何だと質問が飛び交うまで時間はかからなかった。


「これは副ギルマスであるセリスのスキルです。付近にいる存在が敵意を持っているか居ないかを判断する事ができるスキルです」


 このスキルがどれだけ破格で有用なのか、瞬時に理解したのかギラつく眼をセリスに向けてくる冒険者もいるが、理性は残っているようで何かあったりはしなかった。


「マルさん。近くにいる敵意を持った者をナイトメアとカオス=イレに分類できますか」


 セリスのスキルに驚いていたマルは我に返ったのか、食い入るように見つめた後、小さく頷いた。


「これよりどのパーティがどの敵と戦うか割り振ります。基本的に冒険者の皆さんはナイトメアの相手をお願いすることになります」

「な!」


 この土壇場になったからのミラの告白に、幾人かの冒険者が目の色を変えた。


「俺達は雑魚……と言えねえが露払いに集められたってことなのかよ」

「では聞きますが、災厄と呼ばれている魔物に勝つ自信のある者はいますか」

「「「「……」」」」

「勇敢と蛮勇を間違えない方々で安心しました」


 キツい言い方だが、いくら高ランクの冒険者でも見た限りナイトメアに何とかって感じな気がするから正解だろう。


「ギルドが冒険者を纏めるだけでは無いところをお見せします。悔しいと感じるなら、自分の力でここまで来て下さい」


 悔しそうにする冒険者達。でも、だれも怒りを爆発させることなく誰が何をしなければいけないのが理解しているようで、武器の再点検など戦闘の準備を始めていた。


「ごめん、引けなくなった」


 バツが悪そうにミラが俺達に謝ってきてた。


「さっさと倒さないと王都に何があってもおかしくないんだろ。だったら気にすることじゃない。気にするんなら結果をだせばいいだけだ」


 となりで一緒に頷くセリスとマルを見て、ミラはちょっとだけ泣き笑いの様な顔を見せた。


「それじゃマルさん。カオス=イレが二体になったのは計算外だけど、離れているなら一体ずつ倒していこう。案内をお願いします」


 俺達は冒険者達を残し、一足先に森のさらく奥へと脚を踏み入れていった。

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