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討伐準備

「どうやったら、あの状態からすぐ回復できるんかねえ」


 これじゃ、医者なんていらないじゃないかと呆れているのは、冒険者ギルドに常勤している年配の女医だった。

 この女医が俺がここに担ぎ込まれた際、出来る限るの手を尽くしてくれたおかげで、早く目を覚ますことが出来たのだと思うと感謝の念に堪えない。


「冒険者のスキルをいちいち詮索する気はないが、それだけ強力なスキルならあまり言いふらさない方がいいかもね」


 さすが診療所を持たずに、定額で冒険者ギルドに雇われるような医者だと思った。良い意味で人が良いな。


「それじゃ退院でいいかな」

「ああ。ここの使用料は受付で支払いな。たいした金額でもなし、あんたなら困らないだろ」


 ぶっきらぼうだが、どこか不思議と愛嬌がある女医へ再度礼を述べると、俺は冒険者ギルドへと繋がる扉をくぐった。

 冒険者ギルドの中では、自由を謳歌する冒険者達が真剣な表情で大勢集まっていた。

 その冒険者達の集まりの先頭では、ミラ、セリス、マルが一同の視線を集めている。


「この街に寄り添うように広がる森。この森には採取や狩猟などで我ら冒険者以外の民にも恵みをもたらしている」


 堂々と演説をするのはミラ。ミラは『表』ギルド本部でも仕事をまめにこなしている為、多くの冒険者はミラの見た目で侮るような事はないようだった。


「だかしかし、昨日、森の奥にナイトメアが出現した事が確認された」


 ざわめき出す冒険者達。それもそうだ。ランクBの依頼になるような魔物が、街に近い森の中に奥地とはいえ出現したのだから。


「ここで、ナイトメアと聞いて二の足を踏んだ者がいたら、ここで退場して欲しい」


 ミラの挑発ともとれる言葉に、幾人かの冒険者が声を荒らげて抗議をしはじめた。

 俺たちを舐めるな、馬鹿にするな、現場は俺たちの方が詳しい。

 様々な言葉が飛び交い始め、収集がつきそうにならなくなったとき、ミラは再度声を張って衝撃の事実を語った。


「何故なら! ナイトメアのさらに上位種。災厄と呼ばれる魔物の内の一種である、カオス=イレの存在がほぼ確実となっているからだ」


 カオス=イレという名前を聞いて、知らない者達は情報交換を始め、知っている者は言葉をなくすか冒険者ギルドから出て行く。


「今回の特別依頼について、必要な物資や森までの移動手段は全てギルドが用意します。カオス=イレが出現するのはナイトメアと同じで夜のみ」


 ミラは集合場所と時間、そして報奨金の額を告げるとセリスとマルの二人を連れて裏へと引っ込んでいった。

 報奨金ははっきり言って『闇』ギルドによせられる依頼に匹敵するほどの破格の金額だった。

 冒険者が動転しているのをいいことに、俺も受付から裏側へと入っていく。


「お疲れ」

「シュウ! もう大丈夫なの」

「ああ。ちょっとスキル使ったからもう大丈夫だよ」

「まさか……また」


 じとめのミラに、すぐに否定の意味で首を横に振った。

 クスリと笑ったミラに、からかわれたと理解した俺は腹いせとねぎらいを兼ねてミラの頭をぐちゃぐちゃにしてやった。

 文句は言えど、本気で嫌がっていないのか手から逃れることはせず、ミラはしばらくなすがままでいた。


「いいなあ」

「あら。割と朴念仁だから頑張った方がいいわよ」

「え? いやそんなつもりじゃ」

「二人ともなんか言ったか」

「い、いやいや。何でも」


 そっぽを向いたマルと、面白そうに笑っているセリス。いつのまに仲が良くなったんだろうか。


「そういや、ガイラスは居たのか」


 首を振って否定するミラ。どうやら一足違いで他の街へと旅だった後らしかった。


「ガイラス……さんって誰ですか」


 誰と言われても。正直に女神の弟子で仙人の化け物ですと言っても信じられないだろうし難しいな。


「ランクSの冒険者よ」

「S? 冒険者のランクはAまででは」


 首をひねるマル。ランクSを説明するには『闇』ギルド本部の事まで説明することになるが、今はそんな場合ではないと思う。


「マル。非公式だが、ランクS冒険者というのがいるんだ。ガイラスは昨日までこの王都のとどまっていたランクS冒険者なんだ」

「皆さんは一体どんな方なんですか。ギルドにあれだけ影響があって、ギルドの事務所側に普通に入れるなんて」


 『表』ギルド本部の会議室を貸し切っている今の状態と、先程のミラの演説。マルは俺たちがいったい何なのか、警戒はしないまでも色々な想像をしているようだ。


「三人とも、そこまで。今からカオス=イレの討伐作戦を考えるわよ」

「ミラさん。でも外に冒険者さんが集まってるのに私達だけで作戦を考えるんですか」

「正直、今居る冒険者でナイトメアはともかくカオス=イレに対抗できそうな者はいないわ。外にいる冒険者にやって貰いたいのは正直、私達がカオス=イレとの戦いに集中できるようにナイトメアやダークエレメントの相手をして貰いたいの」


 つまりミラは俺たちだけでカオス=イレを倒すつもりなのか。『チュートリアル』スキルの低ポイントで倒したといっても、ナイトメアは強かった。物理耐性がまさかあそこまで高いなんて思わなかった。

 マル、セリスの探査、ミラの狂戦士は物理寄りだ。

 チャンスがあるとすれば俺のスキルで有効な項目を探すことだが。いつのまにかポイントが増えていたとはいえ、残りは20,000ポイント。

 これで倒せるかどうか。


「シュウさん」


 どうしたらカオス=イレを倒せるか俺たちが無い知恵を絞っているなか、マルが意を決したかのように声を出してきた。


「いえ、皆さんに聞いて欲しいんです。私は……見た目通りの種族じゃありません。狼の獣人に似ていますが、銀狼と言われる――魔人です」


 突然の告白に俺たちは何も言うことが出来なかった。

 魔人といえば、魔王に従う悪しき一族ということだが、マルを見ているととてもそんな風には見えなかった。


「魔人の私は昨日のナイトメアが残した残り火で、本来の力を取り戻しました。人々から嫌われる私達ですが、私はシュウさんに恩返しがしたいです。いままで私に優しくしてくれた人々に恩返しがしたいです」


 言いたい事を言い切って息がきれたのか、マルはゆっくりと深呼吸をしてこんどはゆっくりと言葉を紡いだ。


「だから、私の力も使って下さい」

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