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森の攻防

 夜目のポーションによって、ナイトカメラのようになった白黒の世界。はっきりと物の境界と物影が目に映る。

 今まではスキルに頼って、暗い視界を真っ昼間と同じ位見えるようにしていたが、夜目のポーションを初めて使って、俺のスキルがどれだけおかしいか少し実感させられた。


「もう一つの破魔のポーションは、それぞれがダークエレメントに憑依されたら頭からぶっかければ効果出るから」


 ダークエレメントの討伐が二人以上でないと受けられない理由。それは単純明快で、あいつらは対象に憑依して操ってくるからだ。もし操られたのが高位冒険者だったり権力者だったりしたときは、被害が大きくなる事があった。

 マルも夜目のポーションに慣れてきたようで、俺を見ると一つ小さく頷きを返してきた。

 二人だけだがマルが前衛、俺が殿という形で夜の森を進んでいく。

 はっきり見えるといっても白黒の世界で深い森の中、マルは時折止まると左右を確認する姿を見せ、一切迷いがないように進む方向を選んでいるみたいだった。


(どこにダークエレメントがいるのか分かるのか?)


 小声で語りかければ、横を向いたマルはわざと鼻を鳴らして、指で自分の鼻の頭を軽くつついた。

 獣人の身体能力は人間より基本的に高いとは聞いていたが、思った以上に高いようだ。俺にはさっぱり臭いの違いなんて分からないぞ。

 暗闇の中を警戒しながら歩くというのは思ったよりも長く時間を感じるみたいだ。

 木々の隙間から見える星座の位置から、実際の時間はそれほど経っていないが、しばらくの間森の中をさまよっている感覚に襲われてくる。


(マル、休憩しよう)


 敵地のまっただ中で時間制限もある状態での俺の提案に、マルは目を丸くして驚きの表情を見せた。


(思ったより疲れているみたいだ)


 俺はマルの額に指で軽く触れると、触れた指先をマルに見せてやった。

 マルも気付かないうちに相当体力と気力を消耗していたようで、俺には指にはマルの汗の玉が付いていた。

 恐らく葛藤していたのだろう。目をすぼめ、しばらく思考していたマルがいきなり俺の指に付いていた自分の汗を舐め取ると、近くの樹の根に腰を下ろした。


(猫じゃないけど、何かざらっとしてるんだな)


 変な事を考えている事を見透かされないように、俺にも近くの根に腰を下ろす。


(ん)


 言葉少なにマルが俺に何かの包みを渡してきた。

 その包みを開けば何かを焼き固めた物が包まれており、コレが何かは臭いが全くしないので分からなかった。

 かすかな咀嚼音に耳を傾ければ、水と一緒に少しずつマルが先程の包みの中を食べている。

 わざわざ臭いを消した携帯食か。

 小さく礼を言って俺も食べることにする。どうやら、一度炊いた麦などを焼いて、乾燥させた果物と一緒に固めた物らしい。

 味は薄いが、割といけるしお腹に溜まるな。ただ、水がないと喉が非常に渇くが。

 深夜の森というのは思ったよりも騒がしいようで、遠くでは鳥が鳴き声を上げ、時折近くを何かが通り過ぎるような音が伝わってくる。


(マルは森に慣れているのか)


 目を閉じながらも、時折動く耳で警戒を怠っていなかったマルは、俺の問いかけにうっすらと目を開けた。

 その目はどこか遠くを見ているような、話しかけた俺を見ていないんじゃないかと錯覚させるようだった。


(銀狼の一族の村は、森の中にあったから)


 故郷の事に思いを馳せていたのか。

 警戒は怠っていないが、ほどよくリラックスできたみたいでマルの疲れは大分取れたようだった。

 そんな時、マルの両耳が今までに無いほどの速さで、特定の方向へ向けられた。

 瞬時に立ち上がり、片手剣を構えるマル。俺もその意図を察して、数歩後ろへ下がり短剣を抜いた。


(シュウ、逃げて)


 え? 今、なんて。


「シュウ、逃げて!」


 叫んだマルは木々の間にある闇へと突如片手剣で切りつけた。

 いや、闇じゃない。闇だったら夜目のポーションで見通せるようになっているはずだ。

 まるで闇に押しとどめられたように、一定の位置でとどめられたマルの片手剣。闇が膨らんだと感じた瞬間、俺の隣の樹へマルが体ごと飛んできて衝突した。


「ゲホ、ゴホ……にげ、て。シュウ」


 木々の間から這い出してきた闇は、丸い体に四本の腕が付いている様な黒い固まりだった。

 おいおい、まじかよ。これって間違ってもダークエレメントじゃないよな。


「ゴホ、はあ。あれはナイトメア。ダークエレメントの上位種で、ランクBの討伐依頼になるような相手よ」


 樹に叩きつけられた衝撃から立ち直ったマルはナイトメアの正面をとり、俺を守るような位置取りをする。


「ギルドに急いで帰って報告して。すぐにランクB以上の冒険者を寄越してって」

「それじゃマルが!」

「シュウを守るのも依頼の内。冒険者は依頼は絶対に完遂するんだから」


 冷や汗を流しながらの力の無い笑み。

 どんな馬鹿だってそれがやせ我慢だって分かる笑顔。

 この異世界に来て、右も左も分からなくてスキルに頼って人に頼って生きてきた。スキルを使うために義務的に人助けをしてきた誇れるような人間じゃないって分かってる。

 でも、俺は眼の前で助けられる人を見捨てるほど、腐っちゃいないはずだ。

 俺は、マルの隣をすり抜けナイトメアへと正面から向かう――と見せかけ、ナイトメアの腕が届くギリギリを見極めて横へ思いっきり飛んだ。

 先程まで居た所にはナイトメアの腕が突き刺さり、隙ができた横から思いっきり短刀二刀で切りつけた。


 ギャリリリリ。


 とても生物を切りつけたような音ではなく、岩を切っているような錯覚に襲われた。

 見れば、ナイトメアの体には傷一つなく、まったく俺の攻撃が通っていないことが分かった。


「馬鹿! 何で逃げないのよ、私達じゃ勝てないのに」


 マルはナイトメアが伸ばした腕に攻撃をし、意識を一時的に俺から遠ざけようとしようとしていた。だが、ナイトメアにはまるでダメージが無いようで、嫌がらせ程度にしかなっていないようだった。

 どうする。俺は魔法は使えない、身体強化済みの体でも傷一つ与えられない。

 どうする?

 くく。どうするか何て分かりきってる。残ポイントは5,000ポイント。

 それでこいつをぶっとはす!

 残りのポイントは少ないが、今までのスキルの使い方から何を選べば良いか自ずと答えは出ている。

 俺が『チュートリアル』のスキルを使うことで、世界に大きな影響が出る項目は色が付いている。俺は5,000ポイントで選べる項目から色付きの項目を探す。

 どこだ、どこだ。どっかにあるはずだ。あってくれよ。

 別に色が付いていなくても勝てるかもしれない。だが、もし失敗したらそれで俺は、俺達は終わってしまうんだ。


 俺とマルでナイトメアを挟みながらそれぞれ牽制にもならない牽制をする。ナイトメアは動きがそれほど速くないのが救いで、二人でナイトメアの標的を絞らせないようにすればなんとか時間稼ぎくらいは出来そうだった。

 色付き、色付きはどこだ。なんでこんな時に限って出てこないんだよ。

 ステータスボードを見ながら、マルと連携して戦うのは正直きつい。時折切れる俺の集中の穴をマルは敏感に感じ取ってフォローしてくれていたようだが、それもいつまでもは続かなかった。


「マル!」


 再度、樹に叩きつけられたマル。だが、先程とは違って直ぐに動くそぶりを見せず、ゴプリと口から粘っこい液体を吐き出した。

 何か、何か何でも良いから早く! このままじゃマルが死んじまう。

 これで勝ったと確信しているのか、ナイトメアがゆっくりとマルへと近づいていく。そんな時になって、やっと俺は赤色の項目を見つけた。

 俺はマルに破魔のポーションを投げつけ、頭から浴びせかけた。マルに憑依しようとしていたのだろうナイトメアは、暗い怒りに満ちた声を上げると俺に向かってさっきとは段違いの速度で向かってくる。

 俺の攻撃が通らないと思って舐めてくれてて助かった。俺はスキルから『魔力変換』を使用し、残った体力を全て魔力へと変え、ナイトメアに二刀を突き刺す。

 攻撃が通るとは思っていなかったんだろう。傷みにのたうつナイトメアにとどめとばかりに刺したナイフをさらにねじ込んだ。




 気がつけば、真っ暗な闇の中にいた。夜目のポーションが切れたらしい。スキルで体力を根こそぎ魔力に変換した為、体が全くといって良いほど言うことを聞いてくれない。

 指先一つ動かすだけでも、相当の気合いが要るほどだった。

 ただ、目は動くので周囲を見回せば何かしら見えるかもと思い、視線を巡らすとそこにとんでもない者がいた。

 銀色の長い体毛と、人の背丈の倍はあるんじゃないかという狼。狼の額には不思議な文様が描かれ、それはこの狼が幻想種のフェンリルだということを表していた。


(あ、俺、今度こそ死んだな)


 疲労と絶望で意識が沈みかけた俺の顔を何かが舐めた気がした。

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