ダークエレメント
『表』のギルドは今日も盛況だったようで、クエストボードにはほとんど依頼が張り出されていない。朝に来ると必ずと言って良いほど争奪戦が起こって受注されていく。
昼を過ぎた頃に『表』の冒険者ギルドを訪れた俺は、残っている厄介なそうな依頼を眺めていた。
俺の『表』での冒険者ランクはEになるので、受けられるのはD~Fの前後一ランクまでになっている。
「俺ってレベルいくつ相当なんかな」
才能の適正にもよるけれど、冒険者ランクによる適正レベルはこんな感じだと一般的には言われている。
ランクA:レベル150以上
ランクB:レベル80以上
ランクC:レベル50以上
ランクD:レベル30以上
ランクE:レベル10以上
ランクF:見習い
ランクA以降は人格と才能、レベル次第で『闇』ギルドから声をかけて、非公式ながらランクSとして『闇』ギルドの依頼を受ける事が出来る様になる……という事になっている。記憶にないからはっきり言って正しいか分からないが。
俺はギルマスとしての立場があるので、『闇』ギルドの依頼を受ける事は出来た。
「あの、すいません」
『チュートリアル』は今後使いたくないから、恒常的に効果を発揮し続けている肉体能力関係の項目をカンストしといて良かったと思う。
「あの!」
ランクDは討伐系が多く、少ない採取系も採取地が遠かったり危険な場所を通らないとだったりと、簡単にはいきそうに無い。
「聞・い・て~!」
厄介そうだからさっきから語りかけてくる声を無視していたのに。
無視できそうになくなり、後ろを振り向けば俺の肩辺りまでしか身長のない獣人の女の子がいた。
耳の形的に狼か狐系の獣人だろうか。
「あ、えっと。わたしマルエスティルって言います。言いにくいみたいで、皆からはマルって呼ばれてますけど」
「シュウだけど……なに」
おれの警戒心MAXの受け答えにどうしたら良いのか考えているのか、マルエスティル――マルはあれこれ考えているようだった。
「い、一緒に依頼を受けてもらえませんか。受けたい依頼が一人じゃ受けられないんです」
「嫌です。それじゃ」
嫌だよ面倒臭い。こっちは自分の事で手一杯なのに。
「まって! お願いですから」
「別に俺じゃなくていいだろ」
「今、クエストボードを見ているのは私とシュウさんしかいませんよ。お願いですから話だけでも聞いて下さいよ」
取り合う気はなく、踵を返して今日は帰ろうとしても、進路を塞ぐようにマルは立ち塞がった。
面倒くさい。
「夕方になれば依頼を達成した冒険者達も帰ってくるだろうから、そいつらに頼めよ」
「今からでないと間に合わないんです。お願いします」
今受けないと間に合わない依頼っていうと、さっき見ていた依頼に一つ該当するのが思い浮かんだ。
「最近、付近の森に出現したダークエレメントの討伐」
それだとばかりに、これ以上無い位にうんうん頷くマル。
冗談じゃない。ダークエレメントは夜にしか実体化しない闇に墜ちた精霊だぞ。タダでさえ物理攻撃が効きにくいのに、夜の森の中を行動するなんて命知らずにも程がある。ここらの森でも夜ともなれば、奥地にいけばリッチが目撃されたって話もあるのに。
「それじゃ」
面倒臭いだけの依頼なんてと思って帰ろうとするが、マルが腰にしがみついてきて邪魔をしてきた。
「私はこれでもランクDなんです。危ない目には遭わせませんから手伝って下さい」
ぐずりだすマル。まるで俺がマルを泣かせているような雰囲気になり、受付からは困ったような視線と、我関せずと言うオーラの二種が飛んできているようだった。
「ランクD~?」
腕も足も言っちゃ悪いが普通の町娘より細くてとても力があるようには思えない。採取に才能を認められてランクDだとしても、ちょっと信じられないな。
俺の疑惑を目を感じ取ったのか、腰のベルトに取り付けた小さいバッグからギルドカードを取り出すと、マルは俺に見せてきた。
確かにランクDだった。それよりも、俺よりもこんなナリで年上だったのか。
「私が欲しいのはダークエレメントがたまに残す『ダークエレメントの残り火』なの。ダークエレメントに取り付かれた時用の破魔のポーションもあるし、報酬金は全て上げますから」
「といっても、俺ランクEだぞ」
「私が命に代えても守ります!」
なんでこの子はこんなに切羽詰まってるのか。さっさと離して貰いたいのだがさすがランクD、見かけよりかなり力があり振り回しても離す様子がない。
「なんで俺なんだよ」
「見、見たなら分かると思いますが。私は見た目より年上なんです」
俺より年上だったな。
「でも、皆子供扱いして話を聞いてくれないんですよ」
それで歳の近そうな俺に話したってわけか。
「若い奴なら朝に来れば会えるだろ」
「ほとんどがランクFですよ。いくらなんでも守り切れません」
そんな時にランクD~Fまでの依頼を見ていた俺ってわけか。
「はっきり言うけどさ、報奨金全部くれるっていうはありがたいけど、うさんくささもすごいからな」
言われて気付いたようで、目を見開いたマルは「うぅ」と唸り頭を抱えてしまった。
「じゃあ、どうしたら一緒に依頼を受けてもらえますか」
だから何度も言うが受ける気はないと俺は強硬姿勢を貫いた。はっきりいって、こういう輩は少しでも甘い態度を見せれば諦めてくれなくなるからな。
「だったら!」
マルは何を思ったのかD~Fの依頼書を全て剥ぎ取ってしまった。いや、一枚だけ件の依頼だけが残っている。
「私はこの依頼と全部受けます。だけど、あの依頼を協力してくれるならいくつか譲ってもいいですよ」
あー、もう。
受付をにらみつければ、苦笑いをしている者とやっぱり我関せずの者。冒険者同士のいざこざには基本的に不介入なのはわかるが、今回位は口も手も出して欲しいぞ。
「マルが諦めないって事は分かった。分かったから、依頼を一緒に受けるから、理由を教えてくれ。何か理由があるんだろそこまでするからには」
その場で理由を話そうとマルはしてくれたが、押し問答していた時間のせいで夜までに森に着けるか怪しくなりそうだった。
なので、森への道中でその話を聞こうと言うことになり、急ぎ準備を終えた俺たちは街の外へと出て、目的地へ向かった。
森へと入るため馬車が使えず、馬なんて高級品を持ってないからマルは申し訳ないが歩きになると言う。だが、帰りは今よりはるかに楽に帰れる算段があるそうだ。
「私はこう見えて狼の獣人なんですが、その中でも特別な銀狼っていう珍しい獣人なんですよ」
銀狼の他にも、狐の獣人には金狐、熊の獣人には月熊という特別な種族がいるそうだ。
「それでですね、私達銀狼の一族なんですが成人と認められるにはいくつかの儀式がありまして、そのどれか一つを満たすと成人と見なされるんです」
「それが『ダークエレメントの残り火』なのか」
「はい! これがあればやっと私も大人の仲間入りが出来るんです。ダークエレメント自体なかなかいませんし、今回を逃して誰かに討伐でもされたら今までの苦労が」
他の儀式で楽なのはないかと提案すれば、マルの家族は全員ダークエレメントの残り火を手に入れて成人しているそうで、マルも同じ方法しか視野に入れてないとの事だった。
俺も異世界人とギルマスということは隠し、いままで冒険者としてどんな活動をしてきたかマルに話ながら、互いの得手不得手を確認していった。
まあ、簡単な話、マルは片手剣を使った近接戦闘が得意だった。俺もナイフを使った近接戦闘が得意だが、正面よりは隙を突いた戦闘が得意だから相性は悪くないと思う。
目的に辿り着くまでに魔獣や小型のゴブリンといった魔物が現れることがあったが、マルの一閃で簡単に終わらせてしまった。
ランクDとは言ってたけど、予想以上に強いな。
俺はマルに守られるという状態に甘えながら森の中を歩き続け、夜の星の位置からそろそろ日が変わろうという頃になり目的地付近へ到達した。
(ここら辺りがダークエレメントの目撃情報がある場所です)
声音を抑え、マルが俺にポーションを二種類渡してきた。
一つは破魔のポーション。もう一つは……夜目のポーションか。
意図をくみ取り、夜目のポーションを飲み干した俺は持っていた松明を地面に落とし、脚で踏みつけ灯りを消した。
さあ、守って貰えるとはいっても『チュートリアル』を使わない初の仕事だ、どれだけ出来るか俺としても大事な依頼になったな。




