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酔っ払い

 ガイラスが懐から似合わなそうな指輪を出すと、付けるでもなくテーブルに置いた。


「指が太くて嵌まらないから不格好だが、機能はするから問題ない」


 どうやら、俺たちの会話を盗み聞きされないようにする為の魔道具らしい。

 魔道具自体なじみがないわけじゃないが、だいたいが『お手伝いスキル』――今は『チュートリアル』か……の低ポイント交換でなんとかなっていたので、使うことは少なかったな。


「悪いが先に俺の話を聞いて貰うぜ。なあに、緊急だがすぐに答えられる内容だから気にすんな」


 まだ二杯目なのに顔色がどんどん赤みを帯びていくガイラス。俺が聞くタイミングで潰れるのだけは勘弁して欲しい。


「飲んでばっかないで何か腹に入れろ。空腹だとすぐ酔うぞ」


 そんなことは初めて聞いたぞと、不思議そうにするガイラスだが何故か素直に俺の言を受け入れてくれた。

 すぐに並んだ料理に手を付けながら、ガイラスが俺に問いかけてきた。


「師匠が何処にいったか知らないか」

「師匠? 俺はガイラスの師匠なんて会ったことすらないぞ」

「悪い悪い、何時もの感じで聞いちまった。神様がどこに行ったかしらないか」

「は?」


 殺しても死なない文字通りの化け物であるガイラスからの質問が、まさかの迷子捜しとは。

 しかもその迷子が神様って、スケールだけはでかいな、スケールだけは。


「俺に聞いたって分からないぞ。あの少女が何処へ行くかなんて言ってないしな」

「少女?」

「ん? 神様のことだろ」


 そっかそっかと、何を納得しているのか首を縦に大きく振り出すガイラス。

 こいつ、このまま酔っ払って潰れるんじゃ無いだろうな。


「師匠が少女ならこちらとしては問題ない。問題ないが、納得できなけれりゃ本人に会ったら聞いてみたら良い。あれで結構お人好しだからな師匠は」

「勝手に納得して勝手に終わるなよ。こっちが落ち着かないだろ」

「じゃあ、俺が酔い潰れるまで答えが出ない会話を続けるかい」


 なんというか、こういう脅しもあるんだと知ると関心するやら情けないやら。

 こっちが圧倒的に情報不足なんだから駆け引きなんてできないだろうと、諦める事にする。


「譲歩するんだ。ちゃんとこっちの質問にも答えてくれよ」


 俺はこの世界で自由を選択して生きていくために、力が欲しいことを伝えた。

 単純に筋力でも、魔力でも、できれば避けたいが権力でも。俺に合いそうな力をどうやったら得ることが出来るのか。

 俺が俺と、俺の周りを守って普通に生活するだけの力が欲しいと言うと、ガイラスは今まで食べた物を吐き出すんじゃないかという酷い顔をしていた。

 おれはとっさに椅子を引くが、ガイラスは吐くどころか一気にジョッキを煽ると酒臭い息を吐き出した。


「一瞬、この間の続きでもしたくて喧嘩を売ってるのかとおもったけど、マジで言ってそうだな」


 ガイラスは腸詰めにフォークを刺し、一口で頬張った。口からフォークを抜くと俺と腸詰めに向けてきて、俺にも食えということだろう。

 ガイラスに言った手前、俺も先に酔いが回ったのでは意味が無いので、言われたとおりにする。

 うん、塩分が若干強いとおもうけど香草も一緒に詰められているようで臭みを感じない。酒と一緒に飲むのなら丁度良い塩梅だ。


「うめえだろ」

「ああ」

「じゃあ、この腸詰めをどうやったらもっと美味く出来るかって言われて答えられるか」

「そんなの……」


 おれは料理人じゃ無いから分かるわけがない。それを聞くのは相手が間違っていると思う。


「俺は師匠からある程度シュウの事は聞いた。こんな性格だから不敬とかそういうのは無しにして欲しいが、シュウと俺たちとじゃ根本的に違うんだよ」

「この世界と異世界の違いってやつだろ。仲間にも聞いたけど、俺はこの世界の魔法とかスキルは使えないだ。ガイラスと戦ったときも神様からもらったスキルだけで戦ったしな」

 そういや、ガイラスはバーン帝国に側についてディスパー王国を支配する事に協力してたんだっけ。そんな奴が普通にこんな所にいて、ディスパー王国で依頼を受けて普通に活動してるって大丈夫なのか。

 どうにも難しい顔をしているガイラスとの会話の雰囲気を変えようと、俺は直球で聞いてみた。


「俺が『闇』で死炎なんて呼ばれてるのを知ってるのはごく一部だしな。それに、あの場に居たのは国の上層部ばかりだったからな、こんな所に俺がいたって誰もなんとも思わないさ」


 なるほど、言われてみればその通りだと思う。


「それにな、この世界じゃ弱肉強食が当たり前だ。だから、強い奴には巻かれるやつが多いんだよ」

「そんなのは知ってるさ。だけど、だからこそ強い奴らが全てを決めるのが気にくわないんだ」


 ガイラスが「新しい神様は青いねえ」と笑うが、不思議と嫌みには聞こえなかった。どちらかというと優しい笑みに見えたからだ。


「力こそ正義。だからこそ力を持つ奴は間違った力の使い方をしちゃならねえし、力を捨てちゃならねえ」


 力を捨てる? 使わないとは言ったが、捨てるという事までは考えていなかった俺は一瞬考えをそっちにとられていたみたいだった。

 気付けば、顔は赤いが真面目な表情をしたガイラスが俺を真剣に見つめていた。


「シュウが力について考える奴で良かったと思うぜ。これが力を得て考え無しに使いまくる奴だったら、今頃俺は魔王となったシュウを倒しに旅に出てたろうしな」


 なんだその話。確かに『チュートリアル』には魔王の項目もあったが、あれを選べばやっぱり討伐対象になったのか。

 選ぶどころか、近くにあった他の項目すら触ろうとしなくて良かった。

 俺がいきなり安堵したので「おいまさか」と剣呑な光をガイラスは灯しそうになった。

 酔っ払っていてもあのガイラスだ、こんなところでいざこざになれば王都が壊滅するんじゃないかと必死でそんな項目は選ばないと伝えると――。


「ああ、そうじゃないんだ。俺が言った魔王ってのはさ、神としての力を自分の為だけに使う奴って意味だ。そういう意味じゃ、師匠は本当に神の鑑のような神なんだぜ」


 力を自分の為だけに使うか。

 あの時、神と名乗った少女はなんと言っていてか。


『願いを元に願望を成す。願望を成し、願いを生む。ポイントを払っても前借りでも……』


 なんか卵が先か鶏が先かみたいな例えに聞こえるけど、自分の為に力を使うか周りの為に力を使うか。そんな意味だったのだろうか。

 だったら、ガイラスが言う魔王っていうのは前者……だよな。


「まあ、そう難しく考える必要はないと思うぜ。見て話してる限り、シュウが魔王になるなんて想像つかないし」

「いやいや、魔王になる気はないし第一、そんな話をしたい訳じゃ無くて力の話がしたいんだよ」


 そうだったそうだったと、頭を掻きながら笑い続けるガイラス。

 相当酔いが回っているみたいで、なかなか笑いが止まらなかった。


「俺はよ。新しい力を求める必要なんてないと思うぜ。せっかく師匠がくれた力なんだからさ、要は使い方だと思うぜ」

「いや、だから力を使って神になるのが嫌だから」

「じゃあ、なんで今まで力を使ってきてもシュウは師匠の後を継いで神様になってねえんだ」


 それは――神の少女は中途半端にスキルを使ってたからって言っていたと思う。


「若い内からそんなガチガチに生き急ぐなよ。一つの方法がダメなら全部ダメってわけじゃねんだから。時間がある内はゆっくり考えのも方法の一つだぜ」

「なんか、先生に説教されてる気分になってきたよ」

「はっはっは。こちとらシュウの何十倍も生きてるんだ。少しは格好いいことさせるのも弟弟子の義務だろ。はっはっは」


 弟弟子!? いや確かにそうなるのかもしれないけど、なんかしっくり来ないな。俺にこんな性格の兄や姉がいたら……嫌だな。


「ん?」

「いやなんでも」


 あれから、ガイラスが酔い潰れるまで付き合い『裏』ギルドの応接室にガイラスを放り込んでギル

マスの部屋に戻ってきた。

 ガイラスは「早く答えが出なくても良いと思うが、力を使うなら付き合えるぞ」と言ってくれた。悪人相手に何人も今まで手にかけてきた。けれど正直、何をやっても死にそうにないガイラス相手だと気が楽かなとは思ったので、ありがたくその提案は受けさせて貰った。


「おかえり」

「ミラ! まだ仕事してたのかよ。今日無理しなくても、明日でだいたいケリがつくのに」

「別に仕事じゃ無いよ、シュウを待ってただけ。もう意味は無くなったみたいだけど」


 大きなあくびを一つ残して、ミラはそれ以降何も言わずに部屋を出て行ってしまった。


「何だったんだ」

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