戦後(蹂躙)処理
歴史書や俺の周囲の人々、国々に目に見えた変化は起こらなかった。
結果から言えば、今回は歴史改変は起こらなかったらしいという事だ。
ただ、それよりも面倒臭いことが現在進行中で起こっているが。
俺が今まで使い勝手の悪いスキルだと思っていた『お手伝いスキル』は、俺をこの世界の神にして世代交代しようという、神への『チュートリアル』という事だった。
歴史をコロコロ変えられるようなスキルをまともに使おうなんてしなくて正解だった。
あの神と名乗った少女は、明らかに俺に神の座を押しつけようとしていたからな。碌な事にならないだろうし、正直、神という力になんの魅力も感じない。
何でもかんでも思い通りになって、何が嬉しいんだ?
「ヒリヒリした刺激の方が良いと思うんだけどな」
「これだけ溜まった書類仕事を私一人に押しつけるって意味かな」
口から言葉が零れていたようで、副ギルド長の机で紙束に埋もれているミラが隈をつくった目で睨んできた。
「違う違う。依頼を受けるにしても、全部書類仕事片付けてからにするから」
日頃の行いで信頼がガリガリ減っているとはいっても、今は状況が状況だから一睨みだけで済んだみたいだ。
王都をたった二人で防衛したミラとセリス。
セリスから受け取った敵の情報を元に暴れ尽くし、つくりあげた死体の山は万を越えた。怪我を負っても即座に回復し、止められない獣と化したミラに首輪をつけたセリス。セリスは、ミラが敵を皆殺しにするまで脳に過負荷がかかっていたような状態で、今は無理矢理にでも静養させている。
セリスの性格から数日間も大人しくしているなんてないだろうけれど、見張りを頼んだ相手が相手だ。セリスの行動の自由を見事に縛る事が出来ていた。
「ミラも早く休んだらどうだ。まだ本調子じゃないんだろ」
たった一人で敵の軍隊を叩き潰すほどのスキルだ、何の後遺症が無い方がおかしい。
ミラは机に立てかけてあった杖を掴み上げ、俺が仕事をしている机をバシバシと叩いてきた。
「こう言うときだけか弱い女扱いしないの。逆に気を遣われすぎて落ち着かないよ」
調子が良くも悪くもミラはミラかと呆れ半分嬉し半分。
やっぱり、地球の知識が元になってしまうが、神という存在になればこんなくだらないことも、体験出来ないだろうなと思う。
スキルはしばらく封印しないとか。となると、この弱肉強食の世界で生きて行くには力が必要になる訳なんだが。
「なあ、ミラ」
「んー、何」
「この世界の人達って、どうやってスキルとか魔法を使ってるんだろうな」
隈が浮かんだ半眼で見られるとどうにも、随分と俺はアホな質問をしたのかという気分になってきた。
「この世界の法則に私達が当てはまらないが為に、転移特典でスキルを貰ったんでしょ。神様からの説明、たった数年で忘れちゃったの」
知らん。あの逃げた――逃げたフリして俺に爆弾を押しつけていった神は何も言ってなかったぞ。
ミラが神から聞いた言葉を簡単に要約すると、スキルは使えないが完全に使えないわけじゃ無い。魔法も使えないが完全に使えないわけじゃ無い。
聞き始めた時は何のこっちゃと思ったが、要は俺たちが使えるスキルと魔法は、この世界のスキルや魔法と別物。別の原理で発動しているという事らしい。
「それじゃ、この世界で普通に使われている魔法とかって、俺たちは使えないのか」
「そうよ、何をいまさら。シュウは『お手伝いスキル』なんてふざけた力があるのに、まだこれ以上力が欲しいの。もしかして、こないだの四天の件?」
「いや、そういう訳じゃ無くてさ。そう、どうにも使い勝手が悪いからな俺のスキルは」
「それは確かに」
これ以上、答えが出ることも話題が広がることもなく、夕暮れまで俺たちは書類仕事に埋もれていた。
明日には先日のなんちゃって休戦講話の影響で増えた仕事が片付きそうだと、肩の荷が少しだけ軽くなりそうだった。
「おー、綺麗な焼け野原になったなー」
王都ディスパーの近くで行われた戦いとうより蹂躙で作り出された万を越える遺体。
それだけの遺体をそのままにするなんて、魔獣を都市の近くに呼び寄せたり疫病をまねいたりと良いことは何もない。
ここ一ヶ月ほど、『新』冒険者ギルドでは常設依頼として戦後処理が張り出されていた。
「よう! ギ……シュウ。見学か」
あんたはこんな所で何やっているんだ。
王都から少し離れたところは一面焼け野原となり、数日前まで此処に何があったのか分からないまでになっていた。
そんな場所に、冒険者達の群れにまじって知り合いが一人、俺をみて笑っていた。
「見学じゃない、仕事の最終確認だ。一応どっちの頭も俺になってるからな。それに今回は事がでかすぎるから、直接見に来たわけだ」
「なんだよサボりじゃねんかよ。サボりならこれから一緒に一杯でもと思ったのによ」
「おいおい、ガイさんの誘いを断るなんて誰だよこいつ」
「見たことあるような気もするから、同じ冒険者か?」
『闇』では「四天」として有名なガイラスも、表では人望あるんだなと斜め上の事を考えていると、ガイラスが突然肩を組んできた。
「悪いな。こいつは結構古くからの馴染でな。仕事もちょうど片付いたし、俺は一足先にこいつと帰るわ。討伐依頼の件、時間が空いていたら一緒に行こうぜ。霊獣、神獣、幻獣なんでも付き合うぜ」
そんなの俺たちに狩れるわけないだろと半笑いの冒険者達。おそらく、このなかでガイラスがいった事が本気だって思っている者は居ないだろう。
「ガイラス、俺は仕事がまだ終わってないんだ。勝手に決めないでくれ」
「おうおう、そりゃ悪かったな。それじゃ行くか」
ガイラスは肩に回していた腕を、そのまま俺の腰に回すとまるで担ぎ上げるように持ち上げてきた。両手両足が放り出される形になり、バタバタと暴れる以外に抵抗がうまく出来ないのだが、ガイラスにとっては何ともないようでこちらの言うことを聞きゃしなかった。
(まあまあ、師匠の件もあるから少し話に付き合え)
と、言われてしまえば暴れる必要性もなく、自身で歩くと言ってもガイラスは俺を話さなかった。
結局、酒場にまで担ぎ上げられ続けた俺は違う意味で有名人になってしまった。出来るだけ表では目立たないようにしていたのに。
「さあ、世間話の前に一杯いこうぜ」
酒場の看板娘が持ってきたジョッキを掲げ、俺へと突き出すガイラス。不本意ながらもジョッキを交わし、口をつければまろやかなのどごしで、後味に雑味もなくスルリと喉を通っていった。
「うめえだろ。ちょっと値は張るが酒も飯も他より二段は上だぜ。それに客層も荒くれが少ないからな、対策はするが話をするには良いところだぜ」
あまり酒は強くないのか、血色の良くなり始めた顔を嬉しそうに歪め、ガイラスは本題を切り出した。




