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ついにこの時が来てしまった。

夏草の匂いと虫の鳴き声がこのままずっと永遠に続くのでは無いかと錯覚するような蒸し暑い日が続いていた。


部活を終えて汗をかいていた寅之烝はシャワーを浴び父親の帰宅前に夕食を済ませ、家で飼っていた柴犬の"虎徹(こてつ)"の散歩に出かけた。


最近の寅之烝と虎徹(こてつ)の散歩コースは以前より2倍ほど距離のあるコースに心臓破りの坂を息を切らして下ったあの日を境に変わっていた。


暗い夜道を歩く寅之烝には1つだけ期待していることがあった。

このコースを散歩すればどこかでバッタリ浅倉(あさくら)優香(ゆうか)に会えるのではないかと思っていたのだ。


しかし、浅倉に偶然会うことはおろか歩いている人にすらほとんど会うことはなかった。



空を見上げると月が雲の間から不気味に見えたり見えなくなったりを繰り返していて雲の流れが今日は物凄く早いことがわかった。


「そういえば、涼しい風が吹いてるなぁ。」


放課後に感じていた蒸し暑さはどこか遠くへと風に飛ばされたようだった。


現れては消える月の光と雲の流れの速さは寅之烝を段々と臆病な気持ちにさせた。


「ここは(こえ)ぇんだよぉ〜」と思いながら廃線になって使われなくなった絵に描いたような田舎の古びたバス停の跡とその裏に広がる大量の墓が見える道をできるだけ暗闇の向こうに広がる田圃(たんぼ)を見ながら寅之烝は歩いた。


その時、田圃の向こう側のあぜ道の方からすごい速さでこちらへと近づいてくる1つの白い影のようなものが見えた。


寅之烝は小学生の頃から嫌な気配を感じて身体中に鳥肌が立った事が何度かはあったがその目で幽霊を見たことはなかった。


「ついに来た。ついにこの時が来てしまった。」という寅之烝の心の叫びは声にはならず、寅之烝は暗闇からこっちへ迫ってくる白い影を見て動けなくなってしまった。


「長い髪の女の亡霊だ」

恐怖に震え寅之烝は目を閉じてしまった。


その直後、「ワンッ!」と突然大きな犬の鳴き声が聴こえ、驚いた寅之烝は


「うわぁあああ!」と目を開けて大声で叫んだ。


「キャー!」と女性の声が響いた。


そこにはお互いに驚きあった少年と少女の姿があった。


「ごめんなさい。」少女が呟くと


「死ぬかと思いました。」と寅之烝は答えた。


「えっ?山崎くん?」


「えっ?浅倉さん?」


「こんなところで会うとは...」


「ビックリした〜」と笑う浅倉につられて寅之烝も笑い、2人は胸を撫で下ろし声を出して笑った。


その時、突然ポツリポツリと雨粒が落ち始め、「ん?雨?」と2人が空を見上げると雨は一気に勢いを増して2人に襲い掛かった。


「ついに来た。ついにこの時が来てしまった。」

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