青春前奏曲(プロローグ)
生温い風が吹き抜けていく、校舎のそばにある木にはまだ桜の花びらが色をつけていた。
入学式を終えて、慣れない匂いがまだ鼻に付く教室の扉を通り抜けたのは絵にいたような青空が広がる生温い日のことで、席に着く頃には大体予想してた通りのことが起きた。
山崎寅之烝12歳、新生活の始まりである。
クラスの出席番号は男女別に分かれていて、男子の最後の番号である19番の寅之烝はクラスの入り口から横4列目の先頭の席に座ることになり。背後には5人の女子が並んで座っていた。
「ただでさえ小学校の同級生が少ないのに、後ろが女子。右隣の男子の西村君はなんだか静かそうで、冴えない感じだし。左側は女子ばかり。そして極め付けは教卓の目の前。」
最悪の始まりだと思った。
中学校は丘の上にあってどこの窓から観ても街の景色が見下ろせた。
教室の窓から見える景色はどこまでも続いていて、グラウンドの先に、遠く離れたショッピングモール、その登場によって衰退してしまったシャッター商店街、電車が走り抜けていく景色、そしてその向こうには地平線まで見えた。
「この街ってこんな景色だったんだ。」と四階の校舎のベランダ越しに見える今までの人生を過ごして来たこの街の景色に見惚れていると担任の福井先生が大きな声で言った。
「そしたら今日からこのクラスで1年間!みんなで仲良くやっていきましょう!それじゃあ、また明日!さようなら!」
「仲良くってなんだよ?仲良くなれるようにしてくれるのか?こいつらと?」と思いながら真新しい大きめの学ランのポケットに両手を突っ込んだまま教室の扉を通り抜けた。
廊下側の窓からは校舎の向かいにある大きめの公園がすぐ下に見えて、その向こうに広がる街の景色。さらにその先にある大きな煙突とセメント工場。それらすべての先にはどこまでもどこまでも水平線が広がっていた。