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鮮血の槍使い 〜氷結の庭〜  作者: 海カジ
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プロローグ

「暇様、とても可愛らしいお姿です」

使用人の1人がルゼッタ様に向かって言う。宝石が散りばめられたティアラに何段もフリルのついたドレス、髪はいつものように降ろされているが、遠目から見ても似合っていた。

……………しかし、今日という日が来てしまったことが私には喜べなかった。ため息をついてガヤガヤと賑わう城内を歩き、私は1人の女性の元へと向かう。



軽くノックし「エレナです。今お時間よろしいですか?」と声をかける。中から「どうぞ」と品のある高い声が聞こえて扉を開いた。

「よく来てくださいました……話したいことは他でもありません。ルゼッタのことです」

女王陛下の向かいの椅子に座り、私はコクリと頷いた。



「貴方にいくつか渡しておかなければならないものがあります」

そう言って女王陛下は立ち上がると、机の引き出しから箱を取り出す。その箱を受け取り開いてみる。そこには海や大空を彷彿とさせる、美しい青にキラキラと輝く石が入っていた。

「……これは、王家に伝わる秘宝の一つ、「シャネの涙」です。これを持てば、水中の中を自在に移動できます。どうか旅の役に立ててください」

私はありがとうございますと言い、自分のカバンにそっとしまった。



陛下はそのまま自分の脇に置いてある麻袋をこちらに差し出す。中にはぎっしりと金貨が詰まっていた。おそらくこれがあれば二年くらいは暮らせるのではないだろうか。

「本当はもっと差し上げたいのですが、あまりに大きすぎると邪魔になるだろうと……また足りなくなれば伝令を。兵に持って行かせます」

私はまたカバンにそれをしまう。



「…………では最後にこちらへ」

そして2人で部屋を出て、つかつかと廊下を歩く。使用人や兵がかなりせわしなく動き、誕生祭の最後の仕上げと言わんばかりに装飾を施している。その様子に、「楽しそうですわね」と笑う女王陛下を見て少し切なくなった。



いよいよというべきか、あの「鮮血の槍」の前に来た。陛下は護身用の小刀を取り出し、自らの指をすっと切った。陛下は少し痛そうに眉をひそめたが、手についた血を槍の前にかざす。一見何もないように見えたそこに、黄金色の術式が四重に浮かぶ。それぞれの術式はクルクルと回り、まるで金庫が開くように線が合わさっていく。やがて全ての術式が動きを止めると、女王陛下は「さぁ」と私を促した。



壁に掛けられた槍にゆっくりと手を伸ばす。グッとにぎると映像を一気に頭に叩き込まれるような感覚に襲われた。敵国の兵士に槍を振り下ろす。叫び声をあげる女子供に槍を振り下ろす。家畜に槍を振り下ろす………



「レナ…………エレナ!」

声にハッとして女王陛下の方を向く。心配そうに眉を寄せる陛下に「申し訳ありません」と謝る。気をとりなおして台座から槍を取った。

「…………エレナの一族が代々槍使いであると聞いた時、きっとこれを使うのは貴方の家の方なのだと思いました。そして私はその中からエレナを選んだ」

私はそれを黙って聞く。



「貴方の家の次期当主がエレナの兄であるブレンであることは存じています。彼の方が貴方より槍の使い方も上手い……それでも貴方を選んだのは、ルゼッタを産んだ時にエレナの顔が浮かんだからです」

私は大きく目を見開いた。

「その時私たちはまだ出会っていません。互いの顔など知るはずもないのに……そしてルゼッタが4歳になった時、この城に来た貴方を見て本当に驚いたのですよ?これは啓示だと思いました」



………ルゼッタのことを頼みます



私はその言葉を聞き、槍を置いて跪く。


…………そして

「ルゼッタ様のことは必ずお護ります。決して傷などつけさせません」

と誓ったのだ。




私は部屋に戻り、本格的な荷造りを始めた。地図、術式の組み込まれた通信機、薬、包帯……………



「ふぅ…………」

最小限のものだけで、荷物は軽くすることを意識したつもりが、結局それなりに大きくなってしまった。私1人なら適当にお金と地図だけでいいが、ルゼッタ様も一緒となると色々考えてしまう。




誕生祭が始まったようで、外から花火が打ち上がる音が聞こえた。自分の用事はもうすんだため、せめて誕生祭を見ることにした。他国の王室や要人、名の知れた貴族が楽しそうに談笑しているのを遠くから見張りの兵士と一緒に眺める。流石に正装で無い者がズカズカ入っていい空気では無い。



ルゼッタ様は今日旅に出ることをどう思うのだろうか。「龍の巫女」の話は極秘事項…………もちろん本人も知らないこと。突然に自分の運命を聞かされた時、あの小さな少女は受け入れられるのだろうか。




誕生祭は進み、ルゼッタ様が何やら手紙のようなものを読んでいる。それをぼんやりと遠くから聞く。壁に寄りかかり、どこまでも綺麗な青空を見つめた。

不意に人の気配を感じ、目線を横に流す。そこには、正装を身に纏う好青年が立っていた。



「ネイガー……護衛は大丈夫なの?」

その青年……ネイガーに話しかけると彼はコクリと頷く。そして「他の護衛と交代」と言って息を吐いた。癖で壁に寄りかかろうとするも、自分が正装であることを思い出して思い留まるネイガーを横目に見、また空へと目線を投げた。そして「正装、似合ってる」と呟くと、「ありがとう」と返事が返って来る。



「……今日、行くんだろ?」

しばらくの沈黙を破ったのはネイガーだった。

「えぇ…………頑張らなきゃ、ね」

そう言って笑えば、ネイガーは「そうだな」と短く返した。

「……龍の巫女のことが露見すればルゼッタ様に危険が及ぶ……だから黙っていたって理屈はわかる。でも、きっとルゼッタ様は傷つくだろうな」

ネイガーの言葉に「隠してたってことにもね」と返し、深いため息をついた。





「誕生祭、どうでしたか?」

扉を開けながら聞くと、ルゼッタ様は「楽しかったー!」と元気よく返事をした。そして、「今度はエレナも参加してね!」と言われてしまう。私ははいと言って笑った。

さて、ルゼッタ様はティアラやらフリフリのドレスやらを着替える必要がある。

「支度が終わった頃に伺います」

と言い残しその場を離れた。



まとめた荷物と槍を持って一息つく。ここにもしばらく帰ることはないだろう。部屋を丁度出ようとした時、こんこんとノックがあった。

「兄さん」

私は少し驚きながら扉を開けた。

「ほれ」

我が兄は基本的に無口であり、多くを語らないところがある。今度も言葉少なに箱を渡された。首をかしげると兄は言う。

「お前も40日後には誕生日だろう。祝えないだろうからと」

そう言われて箱を見ると、差出人のところに家族の名前が書かれていた。



「……帰った時は最初に家に行くわ」

私の言葉に兄は笑顔を見せ、ぽんと頭に手を置かれた。




いよいよ本当のことを話さなくてはならない。誕生祭の興奮冷めやらぬまま、と言った心持ちの上機嫌なルゼッタ様に言う。

「お話があります」

「なあに?」

ルゼッタ様は大好きなぬいぐるみを抱きしめながらこちらを向く。

私は大きく息を吐いて切り出した。



「貴方は「龍の巫女」と言って、悪い龍を倒す役目がある人なのです。貴方はこれから私と共に旅をしていかなければなりません」

どんな言葉が来ようと覚悟しているつもりだったが、予想外なことが起きた。

「とっても楽しそうだね!」

はしゃぎ出すルゼッタ様に拍子抜けしながら、ぎゅっと抱きついてくるので受け止めた。



「ねぇねぇ旅って汽車に乗ったりするの!?」

私ははいと言って頷く。

「山とか谷とか湖とか!」

「いっぱい見られると思いますよ」

そんな会話をしながら、不意にルゼッタ様が城の敷地内からほとんど出たことがないのを思い出す。

(外への憧れ……かな)



「お父様、お母様行ってきます!」

後ろに手を振りながら歩くルゼッタ様と一緒に振り返る。不意にネイガーと目があったかと思えば親指を立てて笑うので、私も同じように親指を立てて笑い返した。


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