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第二話 まだ帰れません

 4歳になった頃、ロイル・ヴィーロスは自分が転生者という自覚をした。元々の前世があるおかげなのか、王子である教養を覚えることに特に抵抗がなかった。両親からしたら、問題なく育つ面倒のない子というのが僕の印象であろう。しかし、ワガママも言わない僕に対して、両親は溺愛するようになってきてしまった。しばらくは戸惑ってしまったが、弟が出来ると少し和らいだのでよしとしよう。そして、僕の問題事といえばこの世界が乙女ゲームという世界であること。自分はヒロインに攻略されるべき対象。まだ出会ったこともないヒロインに思いを寄せるようなバカではなかった。しかし、着実にゲームの通りに物事が進んでいると感じたのは、婚約者候補としてクロリア・コルセリーナという名前を聞いた時だった。


 うそ!?やっぱりこれ乙女ゲームなんだ!つまりは、クロリアという少女に惚れられて、ヒロインとの間を疎ましく思われて、悪役令嬢として育ってしまうということか?なんだか可哀想な気がする。


「ロイル~良かったな~クロリアちゃんはとても可愛らしいお方らしいぞ?」

「そうですのよ。性格はおとなしい方のようですが、元気があってロイルにはもったいないかもしれないわね!」


 両親が勝手にクロリアという少女の屋敷に向かう算段を立ててしまい、断れなくなってしまった。可愛くて、性格もよくて、でも将来は悪役令嬢なんてかわいそうとしか言いようがない。せめて、婚約者になれないと初めて会った時から釘を刺しておくか。両親は僕の婚約者はしっかりと好きな人を決めていいと言ってくれている。でも、クロリアを推しているが。


 緊張もあるが、用事の後にクロリアという悪役令嬢の屋敷に訪問した。両親も美男美女で笑顔の溢れる家庭のようだ。その両親の中心にいるのは、どうみても美少女の女の子だった。


金髪と銀髪の間のような髪色のせいか、なぜか儚げな印象で陽にあたったことがないかのような白い肌。澄んだ青い瞳がこちらを見て時が止まっているかのように見開いていた。


 うっ。可愛い・・・この子が僕に惚れて悪役令嬢になるのか?なんか本当に可哀想だ。正直婚約者ですと言われたら“よっしゃー!”と喜びたい。でも、この先の未来を考えるとこの少女を守れるのは僕だけだ。僕がクロリアに興味がないとわかれば諦めてくれるだろう。


「初めまして、クロリアとお呼びしても?僕のことはロイルとお呼びください。」

「はい。初めまして、ロイル様。この度は我が家へご訪問頂きありがとうございます。」


うぅ。どうか怒りませんように。一目惚れならば今から目を覚ましてくれ。


「クロリアには申し上げにくいのですが、僕は君との婚約は望んでいません。」

「え?」


あ、驚いている顔も可愛いな~。僕のバカ、顔に惑わされるな。


「信じてはもらえないと思うのですが、この先君との婚約が決まればあなたは不幸になってしまいます。」

「そうなのですか?」

真剣な表情でロイルはクロリアに伝えた。小首を傾げてロイルを見つめる瞳に気圧されそうになりながらも、ゆっくりとクロリアに説明を始めた。

 

「この先のゲーム・・・じゃなくて、未来のことを考慮すると僕としても心苦しいと申しますか・・・出来れば僕のことは諦めて頂ければと思います。」

 危ない!ゲームとか何?って聞かれたら答えられない!


「わかりました。」

案外あっさり返ってきた返事にロイルは少し驚いてしまった。

 

「それは良かった。これで、追放エンド・・・ごほん。心配事が消えました。」

「・・・え・・?」

 

 おっとっと!どうして僕はこんな危うい言葉を!子供の体に引きずられているのかもしれないな。気をつけよう。


「ロイル様、大変失礼なことを聞くようですが・・・もしや、転生者という言葉をご存知ではないでしょうか?」

「なっ!?なんのことだろうか!?」

 なぜバレた!?え?え?僕なんか言ったかな!?というかクロリアはなぜ転生者という言葉を知っているんだ?


「私が追放エンドにならないように、この段階で婚約者にしないという選択をしてくださったのですね。深くお礼を申し上げます。ロイル様、ありがとうございます。」

「え!・・・まさか君も!?」

「はい。ロイル様が思っている通りでございます。」

「すごい!僕、同じ転生者に出会ったの初めてだよ!」

「私もですわ。ロイル様のお顔を見てこの世界のゲームのことを思い出すきっかけとなりました。」

 

 どうしよう!すごい安心してしまった。仲間がいるってすごい安心するなぁ~。相手は悪役令嬢だけど。ってあれ?

 

「それってついさっきのことじゃないか!」

「はい。だから今は情報過多でパンクしそうです。」

「そうか、僕が思い出したのは4歳の頃からだからクロリアは戸惑ってしまうよね?」

「はい。ですが、同じ転生者というロイル様がこの場にいてくださっているのは幸運です。正直、このゲームの内容はさほど覚えてはおらず、情報が頼りになりません。」

「そうなのか。僕も、前世の家族がこのゲームについて語っていたんだが、うろ覚えでね。」

「細かいことは覚えていませんが、ヒロインや攻略対象、あとヒロインとの出会いくらいであれば覚えていますよ?」

「本当に!?」


 これは僕よりも情報を持っているってことじゃないか!ゲームをプレイしたわけじゃないから内容まではわからないんだよな。クロリアが僕を手伝ってくれたりしないかな?


「ええ。ロイル様が婚約者という立場から遠ざけてくださるのですから、本編開始の際は少しお手伝いさせて頂きますわ。」

「ありがとうクロリア!言葉遣い、大変じゃない?僕とくらい普通に話していいよ?」

「いいえ、ロイル様。この先あなたと会うのは本編開始となる学園に入ってからになりますから、今から慣れて置いたほうが安心です。」

「それもそうだな!」

 

 ちょっとさびしいけど、僕って王子様だからしょうがないか・・・。


 それから、クロリアとは婚約破棄という悲劇が起きないように婚約者候補から外すように両親に伝えることと、クロリアの両親の前でも不仲であることを見せつけることにした。


「お父様!お母様!」

「クロリア。おかえりなさい、ロイル様とのお時間はいかがでした?」

 

「私、この方嫌いです!」

「まぁ!?クロリア!?」


 演技とはいえ傷つくな。まぁ、しょうがないか。


「どうやら僕はクロリアに嫌われたようです。特に気にしていませんので、本日はこれで失礼いたしますね。」


 意気揚々とクロリアの屋敷から自身の城へと戻ってきたが、両親にクロリアとの婚約はしたくないと言えば少し残念にされたが了承してくれた。溺愛されていて良かったと安心してしまった。しかし、その次の言葉を聞いてロイルは固まる。


「さぁ、次の婚約者候補はこの子でね~。きっとロイルも気にいると思うの!大丈夫、ロイルは世界一素敵だからね。さぁ、早く婚約者を決めてね。」

「そうだぞ、ロイル!お前の選ぶ婚約者なら安心だ。クロリア嬢のことは残念だが、次がある。それとも、やはりお前の誕生日パーティーで直接決めるか?早いに越したことはないからな!」


 笑顔の両親にロイルは引きつった笑顔で、何も答えられなかった。


 あれ?クロリアとの婚約がないなら、どうして次を決めるんだ?どうしよう、そう言えば僕って王子だった。どうしようクロリア!助けて!同じ転生者にしかこの気持ちってわからないよね!?


 翌日のロイル王子の行動は速かった。極秘にて、護衛付きではあったが、クロリアの屋敷に訪問した。たった一人の同じ転生者であるクロリアの顔を見て安心したのだが、クロリアの口からは一言。


「おかえりください。」


「まだ、帰れません。」


 とりあえず、クロリアには笑顔で許してもらうことにしよう。


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