第一話 お帰りください
*気まぐれ更新予定、期待せずにお待ちください。
*現在小説内ゲーム設定における詳細までは検討しておりません。ゆるーいラブコメ予定。
一歩踏み出せば、温かい日差しが歓迎をしてくれているかのように心地が良く、今日のために用意されたかのような素晴らしい日だと頬が緩む。屋敷の使用人たちはいつもよりもせわしなく緊張感に溢れている。しかし、私は緊張感よりもドキドキした気持ちの方が大きく歩く足がとても軽い。
「クロリアちゃん!今日はとても楽しみね!」
「はい、お母様。」
クロリア・コルセリーナである私は、元気よく母親の言葉に反応すると母親も嬉しそうに笑顔を向けてくれた。本日は以前から両親から聞いていた通り、同い年である6歳の王子様が初めて我が家に訪問してくれる日だとのこと。両親が話していたことをちらりと聞いたが、もしかしたら私の婚約者となるかもしれないとの話が出ているらしい。子供の夢のような王子様との出会いを想像した私は、会ったこともない王子様に少しの憧れを抱いていた。豪勢な自宅の玄関で両親とともに王子様との出会いの瞬間を待っていた。
使用人たちが王子様たちの訪問を知らせに来てくれた。家族で揃って王子様を出迎えると、同じ6歳という若さなのに、落ち着いた雰囲気を纏った一人の少年が護衛やらを連れて現れた。誰がみても美少年のようで、サラサラした金髪に大きな目、衣服が女性ものであれば少女ではないかと間違ってしまうような儚さを持った人物が、真剣な表情でクロリアたち家族に近づいてきた。本当であればその姿を見て、見惚れてもおかしくない状況の中、6歳のクロリア・コルセリーナの頭の中では警報が鳴っていた。
あの顔知っている。しまった、今になって自分が転生者であることを思い出すなんて、しかもこの世界知っているわ。乙女ゲームの世界じゃないか?あの王子様はゲームの第一の攻略対象ではなかったか?そして、自分の名前も聞いたことがある。クロリア・コルセリーナってこの王子様、ロイル・ヴィーロス様の婚約者にしてヒロインのライバルキャラ・・・つまりは悪役令嬢ポジションではなかっただろうか?まさか初対面で前世の記憶を思い出すなんて。情報量が多すぎてパンクしそう。
倒れそうな体をなんとか立て直し、王子様御一行を家族で歓迎したクロリア。家族が気を利かせて王子様と二人で話せるように屋敷の庭で二人きりの時間を作ってくれた。その間は王子様の護衛も目視できる位置にはいるが、会話が聞こえることのない範囲で離れてくれた。
どうしよう。このままではこの王子様の婚約者にされて悪役令嬢まっしぐら?いやだ!6歳にして人生詰んだとか認めない。自分で言うのはなんだが、一応王子様の婚約者にされるだけの美少女ぶりだし。せめて人並みの幸せくらい望んでもよくないかな?お父様に泣いて頼めばどうにかしてもらえるかな?そのためには、このロイル王子に嫌われなきゃ。子供の行動だから、不敬罪とかまでひどいこと言わないよね?
「初めまして、クロリアとお呼びしても?僕のことはロイルとお呼びください。」
「はい。初めまして、ロイル様。この度は我が家へご訪問頂きありがとうございます。」
美少年だっ。普通に可愛い。いや、クロリアの可愛さだって負けないからね!?さて、どうやって嫌われたものか・・・。
「クロリアには申し上げにくいのですが、僕は君との婚約は望んでいません。」
「え?」
突然のロイル王子様の発言に意表を突かれて驚いてしまった。
「信じてはもらえないと思うのですが、この先君との婚約が決まればあなたは不幸になってしまいます。」
「そうなのですか?」
あまりにも突然のことなので、クロリアもどう返事をしてよいかわからなかった。
「この先のゲーム・・・じゃなくて、未来のことを考慮すると僕としても心苦しいと申しますか・・・出来れば僕のことは諦めて頂ければと思います。」
笑顔でロイル王子が、まるでクロリアがロイル王子のことを好きになったかのような発言に少し眉を寄せたが、特に気にしないことにした。
「わかりました。」
特に問題もないので、クロリアは笑顔でロイル王子の言葉に納得した。
「それは良かった。これで、追放エンド・・・ごほん。心配事が消えました。」
「・・・え・・?」
笑顔で口にした言葉を飲み込むようにロイル王子が発言した。その言葉を思い出しながらクロリアは少し思案した。
まさか?この世界にはゲームや追放エンドという言葉は存在しないはず。私が転生者ということはもしかして・・・。いや、聞くのはよした方がいいか?
少し思案したが、クロリアは口を開いた。
「ロイル様、大変失礼なことを聞くようですが・・・もしや、転生者という言葉をご存知ではないでしょうか?」
「なっ!?なんのことだろうか!?」
あからさまなロイル王子の慌てぶりを見たクロリアはすぐに理解した。
まさか私と同じように転生者がいるなんて。しかも、私がゲームで追放エンドにならないように回避してくれようとしたんだよね?優しい。でも、ロイル王子・・嘘下手くそで少し心配になる。
「私が追放エンドにならないように、この段階で婚約者にしないという選択をしてくださったのですね。深くお礼を申し上げます。ロイル様、ありがとうございます。」
「え!・・・まさか君も!?」
「はい。ロイル様が思っている通りでございます。」
「すごい!僕、同じ転生者に出会ったの初めてだよ!」
「私もですわ。ロイル様のお顔を見てこの世界のゲームのことを思い出すきっかけとなりました。」
思わず素が出たであろうロイルの顔を見て、緊張していたクロリアにも自然と笑顔がこぼれた。
「それってついさっきのことじゃないか!」
「はい。だから今は情報過多でパンクしそうです。」
「そうか、僕が思い出したのは4歳の頃からだからクロリアは戸惑ってしまうよね?」
「はい。ですが、同じ転生者というロイル様がこの場にいてくださっているのは幸運です。正直、このゲームの内容はさほど覚えてはおらず、情報が頼りになりません。」
「そうなのか。僕も、前世の家族がこのゲームについて語っていたんだが、うろ覚えでね。」
「細かいことは覚えていませんが、ヒロインや攻略対象、あとヒロインとの出会いくらいであれば覚えていますよ?」
「本当に!?」
「ええ。ロイル様が婚約者という立場から遠ざけてくださるのですから、本編開始の際は少しお手伝いさせて頂きますわ。」
「ありがとうクロリア!言葉遣い、大変じゃない?僕とくらい普通に話していいよ?」
「いいえ、ロイル様。この先あなたと会うのは本編開始となる学園に入ってからになりますから、今から慣れて置いたほうが安心です。」
「それもそうだな!」
笑顔でロイル王子は納得してくれた。良かった。これで婚約者という枷はなくなった!
しばらく、ロイル王子とクロリアは今後のために相談し、婚約者という立場にならないよう不仲であることをクロリアの両親に見せつけることとなった。
「お父様!お母様!」
「クロリア。おかえりなさい、ロイル様とのお時間はいかがでした?」
クロリアがロイル王子とその護衛を引き連れて戻ると母親が優しくクロリアに話しかけた。
「私、この方嫌いです!」
「まぁ!?クロリア!?」
クロリアの発言に母親は心底驚いて焦っていたが、一緒に戻ってきたロイル王子も追加で言葉をかけてきたので、さらに驚いていた。
「どうやら僕はクロリアに嫌われたようです。特に気にしていませんので、本日はこれで失礼いたしますね。」
特に気にした様子もないロイル王子に両親も驚いていたが、婚約者という候補から外れたようで安心した。護衛を引き連れてロイル王子は帰っていった。そして、今度お会いするのはゲームの始まりである学園だろうとクロリアは安心しきっていた。
翌日、なぜかロイル王子が極秘に我が家に訪問されたことでさらに両親は驚愕の表情を浮かべていた。待って、私だってびっくりしているから。
「おかえりください。」
唐突にその言葉が出たのは仕方ないことだよね。