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第57話 騎士の実情

「そういえばさ、ずっと気になってたんだけど」

「ハイ、何か?」


 昇降機を使って展望台から降りて、さてここからどこに向かおうか、というところで。

 特に目的地を定めることもなくぶらぶらとアイスナー通りを歩きながら、私はふとした疑問を口に出した。

 にこやかに微笑みながら返事をするパーシー君に、私は視線を左方に向けながら口を開く。


「『騎士』の皆さん、いるじゃない。この辺りにも……ほら」


 私が視線を向けた先には、恐らくはアイスナー通りの警備にあたっているのであろう、オールドカースルの街に属すると見える騎士が二人、ボウガンを手にして周囲に目を光らせていた。

 服装の細かな装飾や胸につけているエンブレムこそ、フーグラーの騎士と異なるが、全体的な見た目は大きく変わらない。彼らがこの街の安全を守っているのだ、と私でも一目で分かる。

 だが、それはそれとして。


「『騎士』って名乗る割には服装もわりと普通だし、なんでそう呼ばれてるの? やってることってつまり警官でしょ」


 私が気になっていたのは、「どうしてあの外見で騎士を名乗っているのか」というポイントだ。

 騎士(ナイト)というのは、一般的にイメージされるのはフルフェイスヘルメットやプレートアーマーに身を包み、剣や盾を携えた重厚な装いのイメージが先に来る。

 そりゃ、ドルテの文明の発展具合や街の実情を考えたらその姿はそぐわないし、正直仕事のジャマだろう。ああした制服姿も実務を考えたら納得だ。

 だが、そうだとしたら何故呼称だけは「騎士」なのか?

 私の疑問に、デュークさんもパーシー君も二人して目を見開き、小さく首を傾げた。


「ケイカン?」

「エー……えぇと、サワさん、『ケイカン』はつまり、響きから推測するニOfiter de politie……エー、市街警備を担う職業、でよろしいですカ?」


 どうやら私の発した「警官」というワードが、揃ってピンとこなかったらしい。そんな中でもパーシー君は日本語の響きから推論してくる辺り、さすがだ。

 よくよく考えればこれは私がうかつだった。こちらで「騎士」で通じているのだから、地球で用いられる「警官」のワードが通じるはずもない。

 内心で二人に頭を下げながら、私はパーシー君に視線を戻しつつ問う。


「うん、そう。合ってるよね?」


 私と視線を交わしあったパーシー君が、こくりと頷く。そのまま彼も私から視線を外し、警備を続ける騎士二人に目を向けながら口を開いた。


「ん、そうですネ。マー大公国における『騎士(Cavaler)』の職業名ハ、いわば過去の名残なのデス。今でコソ電気自動車が騎士団にも配備サレ、騎士はそれヲ以て現場に向かいますガ、かつては馬が現場への足ヲ担っていまシタ。故に市街警備に当タル警邏隊(けいらたい)を、騎士と呼称するのデス」


 パーシー君の詳しい説明に、後ろでデュークさんも頷いている。

 なるほど、名前だけがそのまま残って、その在り方はだんだんと進歩していって、今の姿になったわけだ。馬に跨り事件現場に急行していたというのなら、それはまさしく騎士だろう。


「なるほどねぇ。だから騎士なんだ……鎧とか着てないのに、なんでだろうって」


 率直に、純粋に感想を口にする私に、うっすら目を細めながらデュークさんが人差し指を立てつつ補足する。


「迅速ニ犯罪者を追いカケ、捕まえタリ制圧しタリが求められマスカラ。鎧を着ていタラ重たいデスノデ、ああした制服ガ一般的デス」

「へー……じゃあ」


 デュークさんの言葉にはー、と息を吐く私だ。

 私はフーグラーでスリと誘拐を経験しているから分かる。そりゃ、あんな細くて入り組んだ道が続くフーグラーで、犯人を馬や自動車に乗って追いかけるのは無理がある。

 かと言って鎧を着ていたら当然走るのにも邪魔だ。その点は、オールドカースルにおいても変わらないのだろう。

 なるほど、実に合理的だ。というならば、もう一つ気になる点は出るわけで、私はデュークさんに次の問いを投げかける。


「手持ちの武装がボウガンなのにも、やっぱり理由があるんですか?」

「アー……そうデスネ」


 そう、彼らが武装として携えているボウガン(・・・・)だ。

 これまでの数日間、マー大公国を旅して思ったことの一番は、「めっちゃ近代的」ということだ。電話もあれば上下水道もある。なんなら自動車や電車もある。というか普通に電気が使える。

 それなら、犯罪者を制圧するための武器も、もう少し近代化していて良いようなものだと思うが、それでも彼らが手にしているのはボウガン。何だかちょっと、チグハグだ。

 宙を見上げつつ少し考え込んで、言葉を探していたらしいデュークさんが、私に視線を戻しながらゆっくり問いかけてくる。


「ミノリ様、オールドカースルで……フーグラーでも概ネ変わりませんガ、この国デ『犯罪者』と言エバどの人種(・・)が該当すると思いマスカ?」

「え……えー」


 逆に問いかけられて、私は一瞬目を見開いた。

 犯罪者と言えば、の人種。

 これまでの私だったら、きっとすぐに答えを見つけられなかっただろう。そもそも人種ごとの差なんてほとんどない地球の生まれだ。

 だがしかし、ここはドルテ。明確に人種ごとに差が設けられ、暮らしぶりにも差がある実情。必然、犯罪に手を染めやすい(・・・・・・・)人たちの予想ができてくる。


獣人族(フィーウル)、はまぁあるんだろうな、って思いますし、短耳族(スクルト)もまぁ、ありそう。竜人族(バーラウ)はないかな……ってのまでは、なんとなく」


 そう、結局は下級市民(・・・・)

 地球でも、というか日本でも、わりとそこは変わらない。犯罪に手を染める人々というのは、大概がそのままだと暮らしていくには厳しい、社会に対して不満を持ちやすい人々だ。

 そしてそれに該当する種族とは何か。必然、獣人族(フィーウル)である。

 私の答えに、満足したように頷くデュークさんだ。そのままうっすら口角を持ち上げて話を続ける。


「ハイ、つまりそうデス。騎士の対応スル相手ニ竜人族(バーラウ)は基本含まれていまセン。何故ナラ貴族の一員ガ市街で表立って騎士とトラブルになるヨウナ事態を、引き起こすことハ考えられないからデス」


 デュークさんが自分の額――鱗に覆われた額をトン、と指先で叩きながら目を細める。

 実際そうだ、貴族たるもの、市街で警察沙汰を起こすなど家柄に関わるだろう。それにきっと、彼らが犯罪に関わるとしたら贈賄とか汚職とか、そういう類のものになりやすいだろうから。

 市街の騎士が関わる事態が起こることは、まあ無いだろう。そこは私でも容易に想像が出来ることだ。

 と、そこでデュークさんがついと視線を横に逸らす。そこにはズボンのポケットに両手を突っ込み、アイスナー通りを行き交う人々を物色している様子の、猫の獣人族(フィーウル)の少年がいた。


「対して、獣人族(フィーウル)ヲ相手取る必要は高いデス。暮らしぶりモ職の選択肢モそこまで多くナイ彼らハ、どうしテモ犯罪に手を染めヤスイ。必然、彼らヲ制圧できル武装は必須になりマス」


 デュークさんにちらと見られているのに気がついたのか、猫の少年はそそくさと立ち去っていく。スリの標的でも探していたのだろうか。

 そしてその説明にも納得するところだ。獣人族(フィーウル)には毛皮がある。なんなら半獣(ジュマターテ)にも場合によってはあることもある。ナイフでは皮膚に刃が通らない、なんてことも起こるだろう。

 とどのつまりは、相手にする種族次第なのだ。


「ツマリ鱗を貫く必要はナイ。シカシ毛皮は貫けなくてはならナイ。かつ重量があってハ追跡に支障が出ル。その結果、採用されたノガArbaleta……先ほど仰ッタ『クロスボウ』なのデス」

「はー……なるほど……」


 デュークさんが両手の人差し指をクロスさせながら話を締めるのを聞いて、私は心底から納得した。

 つまりはあのボウガンも、制圧に必要な機能を突き詰めた結果、そうなったということなのだ。確かに厚い毛皮も筋肉も、なんならその奥の骨も貫いて致命傷を与える必要があるなら、銃弾よりも矢の方が威力が出せる。

 チグハグに見えて、ちゃんと考えられて、なんなら必要な機能と携帯性を併せ持つ武装を選んでいるのだ。


「そうですよねー、獣人族(フィーウル)の毛皮ってだいぶ厚いし、筋肉もまあまああるんでしょうし。拳銃じゃ威力不足ですよね」

「ケンジュウ……」

「デューク様、アレです、猛獣狩り用の狙撃銃があるでショウ。アレの小型化したものヲ想像して貰えレバ」


 疑問が解消されて、納得して頷きながら歩を進める私の言葉に、デュークさんがもう一度目を丸くする。そんな彼にパーシー君がそっと説明を重ねていった。

 なるほど、やはりこの世界にも猛獣だの猟銃だのはあるわけだ。少しだけ安心するとともに、多種族が共生する世界だと犯罪鎮圧も地球のようにはいかないんだな、と理解する。

 それはそれとして、次はどこに行こうか。そう悩む間にも、陽は翡翠色の空のどんどん高いところに登っていっていた。

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