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第2章『本の幸せ』

そうして、外へと放り出された私には

孤独感ばかりが募った

人の手の感触が、

1枚1枚をめくられる感覚がひどく懐かしく、

そして恋しかった


雨の日も風の日も晴れの日も

私は独りぼっちだった


捨てた人の良心なのか、

はたまた偶然か、


木の下あたりに放り出されたため、

雨に濡れることはなかった


だが、心はひどく濡れているような、

晴れている日でも

どしゃ降りの雨が降っているような


そんな気さえした



木の下に放り出された私を見て、

手に取るものも稀にいた


大抵は、開いてほぼ白い私に気づき、

すぐにページをめくるのをやめてしまう


中には、『なんだこの本!何も描いてねえじゃねえか!』

『つまんねえ本だな!』と、

言葉の暴力と一緒に投げ捨てるものもいた


だが私は投げ捨てられた言葉よりも

少しでも興味を持って本を開いてくれたであろう、

ページをめくってくれたであろう瞬間がとても嬉しかった


そしてその瞬間だけが、

幸せであった



いや、あるいはそう思いたかっただけなのかも知れない


どんなに手に取られても

すぐに手放されるばかりで


孤独感は日に日に増していくだけだったのだから



私を開いたカップルが別れて

避けられた事もあった


「あの本はよくない本だ、

あの本を読んだら別れてしまう」と


根も葉も無い噂をたてられたからだ



それでも、時が経つと


ごくごく稀に、私を手に取ってくれるものがいた


もちろん、すぐに手放されてしまうが、

それでも、

その瞬間だけは心を踊らさせた


そうしないと、嬉しいと思える事が何もなくなってしまうから



そしてそこには読めるはずのないページを

たくさんめくってほしい、

読んで欲しいという、


淡い期待が込められていたのかもしれない



ある日、大きな台風が来た

今までにも台風が来たことはあったが

それまでに経験したことのない、

強い嵐だった


同じような強い風がぶつかり合い、

竜巻が起こり、私を天高く舞い上がらせた

望んだ形ではなかったが、

バラバラと沢山のページを

久々にめくられることに

ひどく喜びを感じた


そして何も変化のない場所から

空を飛ぶように巻き上げられたのは、

初めての感覚で、

どうせ読まれないのであれば


「このままずっと飛んでいたい」

そう思った



私の願いを聞き入れたのか、

竜巻から強い風に乗るようにして私は飛ばされていく


しかし強い風もいつかはおさまるし、

そこまでおさまってなくとも、

私の体はみるみる地上へ下りていった


私はページが分厚く人から嫌われるから、

きっと風も私を嫌ったのであろう



気ままに風に運ばれながら、

地上が近ずいた時だった

『ああ、危ない‼』『ぶつかる‼︎』

私は何かにぶつかった

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