第一話 政略結婚
私の大切な友達に、この昔ばなしは届くかしら...。
あのね、私が生まれて生きた世界は“平和”を知らなかったの。地球人と月の一族が遥かずっと昔から争い続ける世界だった。
同じ地球人であっても、それは同じで...私の故郷は争いの避け方を1つしか知らなかった。
皇族の最低位の私達が生きていくためには、それがあの世界の常識だった。
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かつて、地球星と地球人を守護していた太陽神という神がいた。だが、今では太陽の光と暖かさがあったこの星の、彼の神の加護は失われている。今は過去の皇族が造り出した、高位な地球人の住まうアース皇国の皇都だけを照らし、この星のすべてを暖めきれない彼の神の住み処であった太陽よりも少し小さい人工の太陽が活動をしていた。
こんな状況になったのも、地球人と月の一族の争いの歴史が原因である。太陽の持つ魔力を地球人達は月の一族に勝つために使い、そして強大な魔力はいつしか無になった。そして、今はその争いを一時的にやめていた。地球人と月の一族の争いの歴史から見ればたったの80年目、過去の皇族の皇子達と月の一族の少女達が成し遂げた地球人と月の一族の間で結ばれた平和条約、通称“太陽の約束”のおかげだった。
皇族の分家筋の下位皇族であるカーネ家が治める領土にある、小さくてもこの領土の最高位の病院。この土地は皇都より離れているため、人工の太陽の光も届きにくいため薄暗く気温も低い。土地自体も農作物が育つような良いものではない。だが、ここよりも皇都から離れると状況はもっと深刻になるのがこのアース皇国である。
「ええい、まだなのか?ずっとエレノーラが苦しむ声しか聞こえないではないか!ユリウスの息子と結婚させるための娘はまだ生まれないのか!?」
ここの領土を治めるカーネ家当主で、皇族の血を引くため格好良く綺麗な顔をしているがいつも不機嫌そうな顔をしていると有名なレオナードが部屋の前の廊下をずっと行ったり来たり、ぐるぐると回っていた。今日は待ちに待った、我がカーネ家を存続させるための娘の誕生を喉から手が出るほどずっと待っている。
レオナードはまた部屋の扉の前で立ち止まっては、何度目か分からないため息をついて閉ざされた扉の先を見詰めていた。すると妻であるエレノーラの声に混ざり、赤子の鳴き声が聞こえた。
「やっと生まれたのか...」
ほんの一瞬だけ安堵したような表情を浮かべたような気がしたが、レオナードはいつもの不機嫌そうな顔だった。するとレオナード様と部屋の中にいたエレノーラ付きのメイドに声を掛けられ、中から部屋の扉を開けられてから赤子の鳴く声が盛大に響く部屋の中へと我が物顔で入って行った。
白い壁の部屋の中には数人のメイドや医療関係の者達の姿、そして奥のベットの上には子供を無事に生んだレオナードの妻であるエレノーラの疲れきったような、それでいて何処か嬉しそうな顔がレオナードの目についた。彼女の腕の中には清潔な白い布にくるまれた赤子が抱かれている。
「レオナード様、元気な女の子ですわ...」
自分の夫であるレオナードの姿に気付き、エレノーラはお産で疲れた体を気にする余裕もなく娘が無事に生まれた嬉しさと共に彼に報告した。
エレノーラはこのカーネ家が治める土地よりも皇都から離れた貴族の娘だった。エレノーラと同じように、生まれたばかりの娘もカーネ家存続のために、この国の上位の皇族と結婚させる。静かにエレノーラ達を見詰めながらもレオナードは自分が欲しくてたまらなかった“アース”の名を持つ幼馴染みを思い出していた。あいつの息子と今生まれたばかりの自分の娘を結婚させるため、わざわざ皇都の中心部にあるユリウスの家まで出向いたのだから...。
レオナードは顔に意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「お前の婚約者はユリウスの息子だ、せいぜい振り回してやるといい」
「レオナード様ったら...あなたもこの子を抱いて下さい」
困ったようにエレノーラは微笑みながら言った。それでもこの人を今では愛してしまっているために、彼の言葉の裏にどんな意味があるのかエレノーラには分かる気がする。だが、父親になったレオナードに娘を抱っこさせようとして娘を差し出しても、レオナードは拒否の色を示して娘を抱っこしようとはしない。
少しねばっても駄目だった。残念に思うエレノーラは腕の中の娘に微笑み掛けていた。
「レイナだ」
突然に言われたレオナードの言葉に、エレノーラは理解できずに“え?”と聞き返してしまった。そんなエレノーラにレオナードは眉間にシワを寄せつつも、エレノーラにちゃんと聞こえるように話した。
「その子の名前だ、エレノーラ。我がカーネ家の長女の名は...」
ーーーレイナ・カーネ
地球星 アース皇国。皇族の分家筋の下位皇族であるカーネ家の治める皇都の端の領土。そのカーネ家の当主であるレオナードと、その妻であるエレノーラの娘として生まれたレイナ...だが、彼女が生まれながらに背負った運命を、この時は誰も知らなかった。




