続・異世界転生してモブ王子になったんだけど~旅立ち編~
恋愛要素が少ないため、今後ジャンル変更あるかもしれません。重度のブラコン注意。
オレの名前はジョニー。とある王国の第二王子様だ。
そんなオレには秘密がある。
実は―――オレには前世の記憶があるのだ!
え? よく聞く話だって?
まぁ、確かに目新しい話ではないかもしれない。けど、よく考えて欲しい。本人にとっては目玉が飛び出しそうなほど衝撃的な話だって事を。
オレの前世はごく平凡な四十間近のおっさんだった。名前は正一。
強面なせいか結婚もせず彼女もいない寂しい独り身だったけど、家族や友人には恵まれた。
小さな頃に亡くなってしまった両親に代わって愛情を注いでくれた姉。
そんな姉と結婚し、オレも家族として受け入れてくれた義兄。
義兄の連れ子だったけど、懐いてくれた甥っ子と姪っ子。
強面で誤解されがちだったオレを庇ってくれていた友人。
仕事も、剣術道場の師範と料理教室の先生という自分の好きな事をやれた。
オレの人生は幸せだったんだ。
子供を庇って亡くなった時だって、オレは誇らしい気持ちこそあれ、誰かを恨む気持ちなんて全くなかった。
そんなオレが生まれ変わったのが『異世界』。しかも、二番目とはいえ王子様。自分でもビックリだ。
異世界という不可解な場所へ『転生』したのだと理解できたのは、ゲームやアニメが好きだった姪っ子の『明音』のお陰かもしれない。姪っ子はそう言った創作物が好きで、よく話してくれていた。世の中、何が役に立つか分からないものだ。
転生を受け入れたオレは、驚きながらもこの世界で生きてきた。
この世界の両親は大国の王様と王妃様だったが、どちらもオレを大切にしてくれたし、美貌の兄『アレクシス』も、可愛い弟の『レイナルド』も『ラファエル』も皆、オレを愛してくれたから、オレも当たり前の様に皆を愛した。
可愛がってくれる兄も、懐いてくれる弟たちも大切だったし、慕ってくれる年下の従妹姫『ベアトリス』も可愛い。
オレはとても幸せな男だと今でも思っている。
例え、オレだけ超平凡スペックしか持たず、一人だけ平凡顔であってもだ。
両親も兄も弟たちも従妹も超が付くほど綺麗で麗しい。そんな中、何故かオレだけものすごく普通。名前も一人だけなんか浮いているし、何か単車転がしてるリーゼントのヤンキーみたいだし。ちょっと納得いかない部分がない訳じゃない。
でも、個人的には顔も名前も気に入っているし、家族は顔で判断しないし、別にいいかって思っていた。
これからもそんな風に生きていくのだろう。
漠然とそう思っていた。―――彼女が現れるまでは。
のんべんだらりとマイペースに生きていたオレの前に、聖女『キャロライン』こと、転生した姪っ子の『明音』が現れるまでは。
明音が教えてくれたのだ。
この世界が『乙女ゲーム』を基に作られている事。
そして、近い将来、魔族による侵略が始まる事。
―――本来、名もなき第二王子であるオレの死が全ての始まりである『筈だった』事。
この世界に生まれて十七年。
ようやく、ゲームはスタートしたのだ。
★★★★★
魔王軍が侵略を開始した。
その知らせが我が王国へ齎され、遂に国は討伐部隊を派遣することに決めた。
部隊とはいっても、向かうのは少数。だが、精鋭で向かう事が決められる。
魔族は生まれつき人より寿命も長く、魔力も肉体も強いものが多い。魔族が操る魔物は何とか倒せても、魔族が相手となれば、適当なものを向かわせても無駄死にするだけだからだ。
王国から選ばれたのは三人。
神が選んだとされる神殿の秘宝である聖女、キャロライン。
剣の達人だと言われる第三王子、レイナルド。
天才と名高い稀代の魔術師で第四王子、ラファエル。
この三名が魔王討伐へと向かう。余りにも少ないと思うだろうが、魔族に対抗できるものは大陸一のこの王国にも多くはない。王国を守る事も考えれば、これ以上は派遣できなかった。
派遣される三人はオレにも縁の深い者ばかり。
危険な旅に何て本当は行かせたくないし、行くのならば自分もついて行きたい。けれど、平凡なスペックしか持たないオレがついて行っても弾除けにすらならない可能性が高いのだ。下手すれば、かえって足手纏いになる。
だからオレは、ただ三人の無事を祈るしかない。
情けなさに震えるオレを慰めるように、兄がオレの肩を抱いた。
兄だって辛いだろう。兄はオレと違って十分魔族と戦えるほどに強いから、本当は率先して行きたい筈だ。だが、次代を担う王太子としてここで待っていなければならない。
オレは第二王子だけど平凡で大した能力もないという『死んでも大丈夫な立場』なのに、能力がないせいで行こうとすると逆に邪魔になるから留守番組。世の中、何て儘ならないんだろうか。
オレが悲痛な思いで彼らと王を見つめていると、オレの父である王が聖女へ声を掛けた。
「聖女キャロライン。お前の勇気ある旅立ちに報奨を贈る事にする。望みを言うがいい」
そう言われた聖女は顔を上げる。
若々しく美しくも、まだあどけない少女の面差し。彼女がこれから辿る運命を思い、周りの人々は沈痛な気持ちで聖女を見つめた。
そんな彼女はまるで無邪気な子供の様にニッコリと笑い、願いを口にする。
「では、一つだけ望んでも良いでしょうか?」
「何でも言うがいい」
「ありがとうございます」
優雅に淑女の礼を取った彼女は、満面の笑顔で言った。
「では、正兄ちゃん…いえ、第二王子であらせられます『ジョニー様』の魔王討伐への同行をお許しください」
「え!?」
「…何だと?」
オレが思わずギョッとして声を上げると同時に、父王の困惑した声が響く。
周りがザワザワとざわめき始める中で、聖女は可愛らしく口を尖らせながら、清々しいほどハッキリと言った。
「ジョニー様が一緒じゃなきゃ、私、旅立たない! 魔王討伐なんて絶対しません! 断固拒否ですから!!」
「ええええええええええ!?」
第二王子ジョニーの魔王討伐部隊への入隊が決定した瞬間だった。
マジでか。
★★★★★
「私も一緒に参りますわ! ええ、絶対に!」
「いや、ベアトリス、あのな…」
「ジョニー様をお守り出来るのは私だけです! ベアトリスをお連れ下さいませ! 魔王軍など蹴散らしてごらんにいれますわ! ジョニー様には指一本触れさせません!」
鼻息荒く言い募るのは絶世の美女であり、オレの従妹姫で婚約者でもある、公爵令嬢のベアトリス。
ベアトリスは何故か昔からオレに懐いてきてくれていて、本当は誰とだって結婚できるのに、何故か何の特徴も能力もない平凡なオレの婚約者を嬉々としてこなしてくれている奇特で心優しい女の子だ。そう、『女の子』なのだ。
いくら彼女がオレより遥かに強くても、国内でも五指に入る実力者でも、女の子を危険な旅に連れて行くのはどうかと思う。聖女であるキャロラインは残念ながら強制参加だが。
それに、いくら本人が望んでいるからと言っても、彼女は公爵家の一人娘。目に入れても痛くない程可愛がっている王弟であり、オレ達の叔父でもある公爵が許す筈がない。
オレがそう言えば、彼女は頬を染めてはにかんだ。
「まぁ、ジョニー様! ベアトリスを心配して下さっているのですね! 嬉しい! でも、平気ですわ。分からず屋のお父様は沈めてまいりましたので!」
「え」
凄い笑顔で言われた。
…うわあぁ…公爵ごめーん。
愛する娘に物理的に沈められた叔父に心の中で謝る。
こうなってしまってはもう彼女を止められない。
「まぁ、いいんじゃない? 本人が行くって言ってるんだし、それなりに強いみたいだしさ」
軽い口調でそう言ったのは聖女キャロラインこと、前世での姪っ子『明音』。
オレが無言で明音を見れば、明音はオレを手招きして呼び寄せた。
オレと、オレに引っ付いていたベアトリスが近づけば、明音は徐に紙に数字を書き始める。
「私、『聖女』の能力で皆のスペックが見えるんだ。それを書きだすとこんな感じ」
そう言って見せて貰った紙を見下ろした。
【レイナルド(弟その1)】
武力:10/魔力:1
【ラファエル(弟その2)】
武力:1/魔力:10
【キャロライン(前世の姪っ子)】
武力:5/魔力:9
【アレクシス(兄)】
武力:8/魔力:8
【ベアトリス(従妹で婚約者)】
武力:7/魔力:6
【ジョニー(オレ)】
武力:2/魔力:1
「………オレ、ゴミだな」
「そこまでじゃないよ。一般的な騎士が1:1で、騎士団長だと2:2位だから、一般的な騎士より上で、騎士団長よりちょっと下って位だよ」
明音がフォローしてくれたが、フォローになっていない気がする。
数値化されると、露骨に凹む。これは酷い。このスペックは序盤だけはそこそこ活躍出来るけど、後半ずっと馬車にいる奴のだよ。オレもRPGぐらいはやった事あるから分かる。
武力は魔導士のラファエルより少し上で、魔力はほぼ使えないレイナルドと互角。何より年下で女の子でもあるベアトリスと明音に圧倒的に負けているのが堪える。オレも一応頑張ってたのに…多分、泣いていい奴だろ、これ。
「完全に足手纏いなんだけど、オレ行く意味あるのか?」
「あるよ!」
明音は鼻息も荒く、キッパリと言った。
「私、旅先で正兄ちゃんのご飯が食べられないなんて耐えられない!」
「まさかの飯炊き要員!?」
真顔で頷かれたんだけど! これ、確実に泣いていい奴だろ!
「それ、弁当じゃダメなのか?」
「お弁当だと何日も持たないじゃない!」
「そうですわ。どうせならば、現地の新鮮な食材を使った美味しく温かな食事がいいですわ」
お前たち、魔王を倒しに行くこと忘れてないか? ピクニックに行くんじゃないんだぞ?
「唯一の心配は強敵と予想外の場所で出くわしてしまった場合ですわ。万が一、ジョニー様に被害が及んだらと思うと…」
「大丈夫。結界を張った場所以外では、アイテムボックスに入って貰っていれば安全よ!」
「まぁ! 貴女、中々冴えていらっしゃるわね!」
ベアトリスが、それだ! という顔で珍しく反りの合わない明音を手放しで褒めている。
前世の姪っ子と、現世の従妹兼、婚約者にアイテムとしてアイテムボックスに収納されそうになっているオレ(第二王子)。
…やばい。ちょっと泣けてきた。ジョニーの人権の事、もう少し真剣に考えてあげて欲しい。
その時、バターン! と大きな音を立てて部屋に何かが飛び込んできた。
「兄上! 一緒に魔王討伐に向かうというのは本当ですか!」
「飯炊き要員だけどね」
飛び込んできたのは美少年から美青年へ成長を遂げ始めている一つ下の弟のレイナルドと、天使のような笑顔を持つ一番下の弟、ラファエル。
汗を流していても麗しいレイナルドは、オレの返事に嬉しそうに顔を綻ばせた。
「本当だったんですね! 魔王討伐へ向かっている間は兄上には会えないものだとばかり思って、絵師に兄上の肖像画の制作を急がせていたのですが、部屋に入りきらない程の大作になりそうでアイテムボックスの容量を増やそうと検討していた所でした!」
「そうか…お前が容量を増やす前で良かったよ」
アイテムボックスというのは、一見小さなポーチに見えるが魔法で中の空間を広げてあるマジックアイテムだ。
とはいっても、容量には限界があり、実際の外形寸法の10倍ほどの容量となる。外側がポーチサイズなら、実際の中身は旅行鞄程度という事だ。王宮の部屋に入らない大きさのものを入れようと思えば、ぶっちゃけ畳サイズのカバンを持ち歩く事になる。正に無用の長物だ。本当におバカなんだから。
オレが顔を引き攣らせながらそう言うと同時に、今度はラファエルがニコニコと天使のような顔をしながらオレの腕を引っ張った。
「ジョニー兄様も一緒なの? やったぁ! 僕、ジョニー兄様の隣で寝る!」
「あ! 狡いぞ、ラファエル! 僕も兄上の隣がいい!」
「早い者勝ちだもんねー」
「こらこら、二人とも喧嘩はやめろって」
いやいや、これから魔王討伐に向かうんだよね?
何でこいつら家族旅行気分なの? 本当に大丈夫? こいつらに倒される魔族も大丈夫? 心折れない??
色々心配になってきていると、そこへ兄がやって来た。相変わらず、女神も裸足で逃げそうな、いや逆に肉食女子に変貌して全力ダッシュで追いかけてきそうな程の美貌だ。まるで祝福されているかのように周りの空気までキラキラしている。
「ジョニー。旅立ちの準備はもう出来たのかい?」
美しく優しい声でそう聞く兄に、オレは適当に頷いた。
準備とはいっても、用意するのは最低限の着替えと護身用の武器、それからいつも使っている調味料と調理器具だ。
鍋とかを入れている為に容量の多いリュック型のアイテムボックスを用意している。
…うん。明音たちに言われる前から普通に飯炊き要員として準備してるな、オレ。
いやだって、絶対戦闘じゃ役に立たないし、せめて美味しいご飯くらい作ってやろうと思ったんだよ。立派な飯炊き要員として、戦闘時は邪魔にならないように端で隠れているから、アイテムボックスにしまうのは止めて下さい。マジで。
「ちゃんと準備できて偉いねジョニー」
ニコニコと頭を撫でながら褒めてくれる兄のアレクシスに顔が赤くなる。
流石にもういい歳だし、子供扱いは恥ずかしい。
「私も準備は出来た。いつでも出立出来るよ」
「え? アレク兄さんもどこかに行くのか?」
この時期に国の外に出るとか、隣国とかとの連携の話し合いとかかな?
不思議に思ってそう聞けば、兄は過剰な程の麗しさ(兄の通常装備)を醸し出しながら、ニコリと品よく微笑んだ。
「うん。私も討伐に行くことにしたんだ。ジョニーの護衛としてね」
「ちょっと一旦ストップ!」
考える前に口が動いていた。
今、兄まで魔王討伐についてくるとかありえない事が聞こえたんだけど…え? これ空耳? 聞き間違え?
「ゴメン、今、アレク兄さんもついてくるとか聞こえたんだけど…聞き間違いだよね?」
「合ってるよ。護衛がベアトリスだけじゃ心配だからね。私も一緒に行くことにした」
「え…ええええ!? だって、兄さん王太子だろ! 一番国にいなくちゃダメじゃん!?」
ただでさえ、王子が四人中三人混ざっているのに、王太子まで旅に出てしまったら王位継承者が軒並みいなくなってしまう。
「大丈夫だよ。いざとなったら叔父上もいるし、最終手段的には父上と母上が頑張ればいいんだから。まだ若いからもう一人二人いけるよ」
「両親の生々しい話は止めて欲しいんだけど!?」
「えー? アレクシス兄様も来るのー? 折角ジョニー兄様との旅行なのにー」
「旅行じゃなくて討伐! しかも魔王の!!」
兄の無茶ぶりにラファエルが見当違いの文句を言っている。
けど、本当にいいのか? 跡取り軒並み激戦区に送り込まれる状態なんだけど。
「まぁ、正直に言えば余り良くはないが、無事に帰ってくればいいだけだろう。危なくなったら、私はジョニーを抱えて逃げる事にするよ」
「た、確かにそんな状況ならオレは完全に足手纏いだけど…」
「それにね、可愛い弟が戦いに赴くというのに放ってはおけないだろう?」
「アレク兄さん…」
「アレクシス兄上、僕たちの時はあっさり見送ろうとしていませんでしたか?」
「露骨だなー」
後ろでレイナルドとラファエルが生温い目をして突っ込んでいるが、兄はニコリと微笑むだけだった。美形の微笑みってそれだけで全て許されるから怖い。
「つまり、アレクシス殿下も一緒に行くって事ですか?」
「ジョニー様の護衛は私だけで十分ですのに」
どうでも良さそうに明音が言えば、口を尖らせながらベアトリスが不服そうに漏らす。
こうして、何だかんだとあって、オレ達は魔王討伐へと旅立つことになった。
そのメンバーは聖女、公爵令嬢、そして、王国の王子四人。
「………なぁ、これって本当に旅立って大丈夫なの?」
「平気平気。いざとなったら私が魔王軍潰すから」
「元姪っ子が頼もしすぎて怖い!!」
オレ達の冒険は始まったばかりだ。
【おしまい】