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「これは氷結茸。これは炎熱茸だな。こっちは、、、」
氷結茸は氷の魔法の調合にもよく使われるもの。炎熱茸は炎系の魔法に使われるらしい。
今、僕はエドワード師匠とルアルの街近くにある森に来ている。クエストだから、というのもあるが魔法の調合素材としてのキノコ採取も兼ねてやっている。
「おお!これは!リリィ、こっち来いよ!面白いのがあるぞ!」
コレジャナイ感漂う光景を見ながら、僕は今朝のことを思い出していた。
「師匠、修行したいです」
僕は赤を基調としたフリル多めの服に着替え、熱意を示すためにも修行の申し込みをした。
「ちょっと待ってくれ、、、、これを見てくれ」
師匠はジャッカルさんと一緒にテーブルを囲み、話し合っていた。
僕が呼びかけると、そう言って師匠は目の前の机の上から一つの紙を持ってきた。そこには一週間の曜日とその下に「修行」と「店」という文字が交互に書かれていた。
「あの、これは?」
「一週間のスケジュールだ。月の日には店番、火の日には修行、という感じで交互に行きたいと思っているんだ。それで太陽の日は休みだ。こんな感じでどうかな?」
この国の曜日は月、火、氷、土、風、花、太陽となっている。太陽の日は、職業にもよるが休みとなるところが多いらしい。
「僕は構いませんよ」
「なら決まりだな。そういえば店番の日は君にも頑張ってもらうからね。メイドとして」
「え?」
そこでメイド!?メイドって普通家とかでご主人に奉仕するものでは?
「いやまぁ、僕らが店番するよりもメイドのほうが集客率高いだろ?こちらも接客はするけど君にも、って感じ。もちろん材料の調達とかもしてもらうけどね」
「そういうことですか、、、」
確かに修行の日以外は店番の日と休みの日しかない。休みの日は休みたいだろうしだったらしょうがないかあ。
「そういえば君、さっき修行がしたいって言ったよね?」
「ええ、まあ」
「都合のよいことに今日は花の日。修行の日だ。どうする?弟子入り早々行くか?」
「いいんですか!?」
正直ダメ元だった。勝手に押しかけてる上、いきなりのことだから準備できていないと思っていたのだ。
「まあ、その前に色々準備しなきゃならないけどね。師弟契約だったり、冒険者登録だったり」
師匠からの「お墨付き」をもらうためには事前に師弟契約を公式の場で結んでおかなければならない。そうでなければ資格試験は受けられない。
「時間がかかるんですね?だったら早く出発しましょう!」
舞い上がってるのは自分でもわかる。それでも今だけは弾んだ心を落ち着けたくなかった。
師匠の手を引き、外へ連れ出そうとする。
「ちょ、ちょっと待てって!あんまり急ぐな。ちょっとジャッカルと一緒に外で待っててくれ」
そう言われ、おとなしく外で待つ。ジャッカルさんは家の裏にある馬小屋で馬車の準備をしてくると言い、行ってしまった。
しばらくして、二人がほぼ同時に戻ってきたあと、ギルドへ向けて歩き出した。
ルアルの街は、活気のある商店街といった表現が似つかわしい。人は故郷よりもずっと多く、並んでる商品も様々だ。
「あれは冒険者の魔法使い用の店だ。杖とかもそこに売ってるし、今日はちょっと忙しいから、明日に来ようか」
「杖、ですか?」
「ああ。なんでもいいとは言わないけど、そこそこのものを買ってやろう」
「ありがとうございます」
興奮を抑えつつ、いろんな店を見ながら目的地へと進む。
さらに歩くと、店は少なくなり、反対に高い建物が増えてきた。商店街から一転して都会になっていく。
「師匠、ギルドはどのあたりにあるんですか?」
「もうすぐだよ。そこの建物だ」
師匠が指をさしているところに目をやる。そこには一際高い煉瓦造りの建物があり、大きな入口があった。
入って真っ先に目に入ったのはコルクボード。そこにいくつかの紙束が貼られており、文字や絵が書き連ねている。依頼書だろう。
入口から右を向くと、4つの窓口が見える。ここでクエストの受注や登録をするのだろう。師匠は4つある窓口のうち、一番左の窓口へ向かった。僕とジャッカルさんもそのあとを追う。
「あら、エドワードさん。昨日のクエストの報告ですか?」
女性の職員がにこやかに師匠に話しかける。師匠も慣れた様子で、
「まあ、それもあるかな」
と、笑顔を浮かべつつ応じる。
とりあえず、といった感じでギルドカードを職員に渡す。職員もそのカードを流れるような手つきでチェックし、報酬が入った袋と共にカードを返した。
「実は、今日は新しい弟子のためにギルドカード作りと契約を結びに来たんだ」
「おや、久しぶりですねえ。今度こそ、ちゃんと「お墨付き」を与えられるといいですねえ」
職員は皮肉交じりにそんなことを言う。そして笑顔のまま今度はこちらを見た。
「あなたが新弟子さんですね?今すぐそちらへ向かいますので、少し待ってていてくださいね」
「あ、はい」
そういうと職員は窓口の端にあるドアを通り、こちらへ向かってきた。そしてコルクボードの横にあるドアに手をかけ、
「ではそちらにギルドカード発行用の設備がありますので、どうぞこちらへ」
ドアを開け、部屋に入るように促される。
促されるままに部屋に入ると、中心に円く少し高くなっている土台、部屋の周りにはいかにも機械というような設備が並んでいた。よく見ると土台の上には円盤があり、そこから配線が伸びて周りの設備とつながっていた。さながら研究施設のようだ。
「そこの土台に立つと自動で解析が始まりますので、ギルドカードの作成が終わるまで動かないでくださいね」
どうぞ、と手で促される。指示通りに土台まで進む。土台の前まで来たところでもう乗ってもよいのか、後ろにいる職員に目で尋ねてみる。職員に通じたどうかは分からないが、彼女は手でOKサインを出していた。それを良いと解釈して土台に乗ってみる。
乗ってみると、すぐに設備が動き出した。足元と天井が淡く光り、全身をなでるように光が部屋全体を包む。やがて光が弱くなり、設備の稼働が終了し、部屋の色がギルドを形作る煉瓦の色に戻る。
「はい。お疲れさまでした。リリィさんですね。しっかりとギルドカードに間違いがないか確認してください」
隅々まで念入りに調べる。名前、リリィ・アグノス。年齢、15歳。出身、魔女の里。うん、全部あってる。
「間違いないです」
「それでは今からそれがあなたのギルドカードです。同時にあなたは冒険者の道に足を踏み入れました。まだ仮免許ではありますけど。ではこちらへ。次はエドワードさんとリリィさんに師弟関係を結んでもらいます」
入ってきたドアを戻り、再び師匠とジャッカルの元へ戻る。職員は窓口の向こう側へと戻り、窓口からギルドカードを要求してきた。師匠と弟子のカードを装置に入れ、公式に師弟関係を結んだことを証明するらしい。
しばらくして師弟関係の証明が終わり、ギルドカードが返された。ギルドカードには自分のプロフィールの隅に師匠の名前が刻まれている。
「それではここでギルドカードの説明をさせて頂きます。まず表には名前や年齢などの基本プロフィールが表示されています。レベルや職業もここに表示されます。また裏にはギルドカードと一緒に提出したクエストの達成状況が表示されますので、忘れてしまった場合はここをご覧ください。さらに倒したモンスターも記録されます。確認したいときはギルドで確認できますのでぜひお越しください。」
確かにギルドカードにはいろいろな情報が表示されている。ただ僕はその説明に違和感を覚えた。
「あの、僕のギルドカード、職業のところが空白なんですけど、、」
「あっ、そうでしたね!まだ職業について聞いてませんでした。申し訳ありません」
そういうと職員は下から板を取り出した。
「それでは改めて。冒険者にはいろいろな職業があります。アーチャーやナイト、ファイターなどがありますね。こちらが一覧です。よく考えてから決めてくださいね。って言っても師匠が師匠なんでもう決まってるでしょうけど」
職員から一覧が書かれた板を渡される。確かにこちらは魔法使いを目指してここまで来た。アーチャーのような遠距離から攻撃できる職業に一瞬目を引かれたが、やはりここはウィザード一択だ。
「ウィザードでお願いします!」
「やっぱりね。エドワードさんのお弟子さんですからね。ウィザード選ぶに決まってますよねー」
ギルドカードの職業の欄にウィザードという文字が浮かび上がる。魔法の一種なのか、これは特別な機械がいらないらしい。
「ちなみに転職をする際は特別な手続きが必要です。次に転職するときはギルドに来て窓口で手続きを行ってください。細かいところはここで説明いたしますので、転職する際は余裕をもってお越し下さい。あなたたちのご活躍を期待しています。」
ついに手に入った自分のギルドカードを見る。職業はウィザードと書かれ、ほかのステータスよりも魔力や魔法適正がずば抜けて高い。周りに気づかれないように小さくガッツポーズを取る。
「それじゃあ、リリィ。クエストを見るか。初めてにふさわしいのがあるといいな」
師匠の言葉に無言でうなずき、クエストボードを見てみる。そこには強そうなモンスターの名前が数多く並んでいた。
「昨日もそうだったが、やはり難しいものが多いな、、。お、これなら丁度良いだろう」
「どんなクエストですか?」
「キノコ採りのクエストだ。キノコは魔法の研究においてはとても大事なものでね、集めれるときに集めておくんだ」
「、、、キノコ採りですか」
「まあ初回だし。そう気を落とすなって。それに本格的な戦闘はまだ早い。装備も整ってないし、フィールドにも慣れてないしな」
理屈は分かるし、もともと期待はしていなかった。しかしこうして実感してみると少しがっかりしてしまう。
まあ、なんにせよ初めてのクエスト。真面目にやって師匠にアピールしなければ。
窓口へと行き、クエスト受注の軽い手続きを済ませ、家に戻る。
「ジャッカル。馬車の準備を頼む」
「了解しました」
ジャッカルさんは家の裏へと走っていく。今朝も馬を見てくると言っていたが、もしかしてこういう時のために備えているのだろうか。
「さて、ジャッカルが馬を連れてくる間にこちらは籠の準備をしよう。結構大きいから気を付けてくれよ」
そういって渡されたのは自分の上半身ほどもある籠。この中に大量のキノコを入れる。それと一緒に渡されたのはキノコを掴むとき用のはさみ。これを使っていいキノコも毒キノコもどんどん入れていく。
「さてと、こちらは準備完了だな。あとはジャッカルを待つだけだな、、っと、もう準備していたのか」
家の前にはすでに馬車が出ていて、ジャッカルさんも馬の手綱を持っていた。これでクエストに行く準備は完了した。
「よし。それじゃあ初陣と行こうか!」
師匠の声と同時に、僕たちを乗せた馬車は目的地へ向けて出発した。
というわけで、初クエストのキノコ採りだ。
服装は全然キノコ採りといった感じではないが、それ以外はちゃんとキノコ採り。こちらも師匠に促されるままに膝を折って、足元がよく見える高さから探してみる。
今回の目標はトルネードキノコを5個。このキノコは旋風系魔法に強い親和性を持っており、魔法の研究の際には重宝されるらしい。とはいっても僕はそこまで詳しくないし、この話も師匠から聞いたもの。そのため片手に図鑑を持ちながらの採集になる。
「ええと、これは、、「爆裂茸」?「胞子は火薬として使われることもあり、空気と触れた状態で大きな衝撃を与えると爆発を起こす」か。物騒だなあ。こっちは「岩石茸」か。「味と香りは全キノコ中1の濃厚さと甘さを持つが、名前の通り岩ほどの硬さを持ち、そのままでの利用は不可能。」ねぇ、、」
一見何にも使えなさそうだが、それでもポイポイ入れていく。師匠曰く、何かに使えるかもしれないから、とのことらしい。
しばらくして周りのキノコを採り尽くし、目標の数も集まった。師匠は少し早めに終わっていたらしく、ちょっと前から木の幹に寄りかかり、ボーッとしていた(暇なら手伝ってくれてもいいじゃん)。
「ん、終わったかい。うんうん、上出来だ。それじゃあ面倒事になる前に帰ろうか」
立ち上がり、周りを見ていると、そんなことを言われた。その時、僕の目に気になるものが映った。
「師匠、あれは?」
そう言って指差した場所には、2本の脚で立ち、短い前足を持った深緑の小型のモンスターが数頭、周りを警戒していた。
「あれはリザードサウルスというモンスターだ。囲まれたら厄介だから見つからないうちにジャッカルの元に戻ろうか」
ジャッカルさんは今日は拠点で馬の面倒を見ている。というか余程のことがない限り、ほとんどがそうらしい。
師匠はまだ遠くにいるリザードサウルスたちを放って先に進もうとする。こちらもそうしようとし、師匠の方を振り向こうとしたとき、ガサッという音を立てて突然目の前の茂みからリザードサウルスが現れた。すぐさま師匠を呼ぼうとするが、間に合わない。リザードサウルスは出てくるや否や、こちらに一直線に向かってきていたのだ。
これはやばい!そう思ったのもつかの間、目の前、あと数歩というところでリザードサウルスは動きを止めた。よく見ると足元がわずかに光っている。
「伊達に世界一の称号をもらったわけではないからね。ここら辺のケアはちゃんとしているつもりだよ」
師匠は振り向かずに答える。もしかしてさっきまでボーっとしていたのは、この魔法の設置をしていたからか!さっき暇なら手伝ってー、と思ったのはすみませんと心の中で謝っておこう。
「今のうちに逃げるぞ!」
ようやくこちらにチラリと振り向き、走るよう促す。しかしこちらが走ろうとした瞬間、師匠の表情が変わった。その切羽詰まった表情を見て、僕も後ろを見てみる。
そこには魔法から脱出し、目と鼻の先まで迫っていたリザードサウルスがいた。なぜ脱出できたとか、師匠のミスとか、考える前に体は反射的に動いていた。渾身の力を込め、回し蹴りを放った。
恐らく師匠はとても驚いているだろう。なぜならその回し蹴りが、自分の体の1.5倍はあるリザードサウルスを、もといた茂みまで蹴り飛ばしたのだから。
振り返り、師匠にこっちは大丈夫だと伝える。師匠は、思った通り何が何だかわからない様子であったが、今はそんなことは重要じゃない。師匠もそれに気づき、ひとまずはこの場から離脱することに成功した。
「ああ!びっくりした!あれ魔法で動き止めたんじゃないんですか!?」
少し離れた場所で、深呼吸して、落ち着いたころに思ったことを打ち明けた。
「いや、まぁ。確かにそうなんだけど。魔法の分量とか間違えたかな?」
「間違えたかな、じゃないですよ!」
「あっと、えっと、すまなかった!!」
とは言わせたものの、この人は昨日今日冒険を始めたばかりの人ではない。ベテランもベテラン、世界一の大魔法使いなのだ。その彼にとって予想外のことが起きている。要するにちょっとした特殊個体、ということだろう。
「今回の件は確かに君の言う通り、僕の責任だ。すまない。けがは無いかい?」
「もういいですよ。けがもないですし。どっちも無事だったんだから、そんなに責任を感じることも、、」
「・・・君がそう言うならいいんだが。今後は気を付けるから安心してくれ」
だからもういいですって、、、。何かと責任を感じてる師匠にこれ以上は何も言わず、二人でジャッカルさんがいる拠点へと戻った。
「そういえば聞きそびれていたんだが、あのファイター顔負けの蹴りは何なんだ?」
今はジャッカルさんの運転する馬車の中、要するに帰りの途中だ。
「あんなの簡単ですよ。足に魔力集中させて一気にたたきつけるだけなんで」
簡単そうに言って見せるが、、いや実際簡単。ただ周りが出来てないだけだ。
「簡単に言ってくれるな。そんなこと出来る奴なんて多くはないんだぞ?まして初心者で、、、」
「まぁ、要するに魔法使いの才能があるってことですよね」
「確かに才能はあるが。それでも魔法をほとんど扱えない初心者であることは変わらないんだから油断はするなよ」
「分かってますよ」
ひとしきり自慢し終わったところで、街の正門が近づいてきた。空は既に赤く染まり始めており、思ったよりキノコ採取に時間がかかっていたことを伝えてくれた。
家に着き、馬車から降りた僕たちは、ジャッカルさんは家に残って馬車を家の裏へ運び、食事を準備することとし、師匠と僕は必要な物のみ持ってギルドへ向かってクエストクリアの報告をすることとした。
「それじゃ、夕飯の準備頼んだよ」
「そちらこそ、何も面倒事を起こさぬようお願いします」
ははは、とジャッカルさんの皮肉に笑いを返し、今朝歩いた道を辿り始めた。
ギルドに着き、ドアのない入口を通って今朝と同じく一番左の窓口まで行った。
「あ、クエスト達成の報告ですか?」
これまた今朝と同じ職員が窓口で何かの作業を中断し、顔を上げてこちらを見る。
「初クエストお疲れ様です。それではお二人のギルドカードをお預かりしてクエストの達成状況を確認します」
ギルドカードを渡し、師弟契約を結んだ時のように装置で状況を確認する。
「はい、確認完了です。初めてのクエストにしてはなかなかの成果ですね。お疲れ様です」
「ありがとうございます」
素直な賞賛をいただき、こちらも素直に感謝を述べる。
「ではこちらが報酬となります。ご確認ください」
「ああ。それじゃあまた」
「また来ますね」
師匠に続き、僕も別れの言葉を残した。彼女も頭を下げ、別れを動作で告げる。
ギルドを後にし、帰路につこうとする。出入り口を出ると、目の前に見慣れない馬車があった。馬車に詳しくない自分でも分かる。あれは師匠の馬車よりもずっと高級な、一流貴族が乗るような物だ。
「あの馬車、なんでしょうか。見るからに高級そうですけど」
隣にいる師匠に聞いてみる。
「おそらくギルド本部の方か貴族の方だろう。このギルドの三階以降は役所としての機能も持ち合わせているからね。たまに来るんだよ」
へー、と思いながら聞いていると、馬車から人が降りてきた。見た目は自分より少し幼い印象で、綺麗な少し先が巻いている金髪と黒を基調としたフリル多めのロリータ服、そして意志の強そうな紅の目をした美少女だ。馬車が高級なだけあってその身に纏っている物は全てが等しく輝いているように見える。
美少女は一人で馬車から降り、ギルドに入っていく、、、、その少し手前、要するにギルドを出ようとする僕たちの前で止まった。そしてその意志の強そうな紅の目でこちらの体を貫こうとしているかのように見てくる。
彼女は僕たちを、正確には師匠をじっと見たまま動かず、しばらくしてようやく口を開いた。
「使い込まれた茶色いメイジローブ、先端に異様な輝きを放つデモンクリスタル、そしてその銀髪、間違いない。あなたが、エドワード・グラニールですね?」
厳格な雰囲気を纏いつつ、真っ直ぐと師匠を見つめながら、確認のために尋ねる。
「・・・ええ、そうですが。私がエドワードです。あなたはかなり上級の貴族だとお見受けいたしますが、どちら様で、私に何の用でございましょうか?」
少女の視線から目をそらさずに師匠も見つめ返す。
「やはりそうでしたか。私の名はアリス・ピオ・ドゥバンセール。あなたがこの町にいると知ってプレシードからやってきました」
すごい名前。貴族っぽい名前してるんだからやっぱり貴族なのか。プレシードもどういう所なのかよくわかんないけどお金持ちとかいるのかな、と思いながら横の師匠を見てみると、文字通り空いた口が塞がらない状態だ。まるでとんでもないものに出会ってしまった、というような顔だ。
「な、なぜ、、、あなたが、、こんなところに、、、?」
「私の目的はあなただけです。エドワードさん」
アリスと名乗る少女は依然として視線をそらさず、師匠をずっと見つめ続ける。対する師匠はもう勘弁というような感じで、視線が合うことを拒んでいる。
「私の望みはただ一つです。もし承諾してくれるのならなんでもしましょう。だから、、、」
彼女は、大事なことを告白するかのようにゆっくりと口を開く。
「私をあなたの弟子にしなさい」