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ベッドの上で、ぱちりと目が覚める。そこから見える天井は見慣れたものではなかった。
(ここは、、、どこ?)
より多くの情報を得ようと上体を起こす。
「お目覚めかい?お嬢さん」
左から自分に向けて声がかけられた。突然のことでとても驚き、ベッドからは腰が浮き、反射的にベッドの隅へと逃げてしまった。
「す、すまない、、。驚かすつもりではなかったんだ。」
それはこちらもわかっている。悪いのはおそらくこちら側だろう。
「コホン、、、ところで、昨日きみの身に何が起きたかわかるかい?」
昨日?確か自分は故郷から別の街への道中で倒れたと思ったが。
「えーと、草原の中で倒れていたと思いますけど」
「なぜ倒れていたのかはわかるかい?」
「はい」
「それなら大丈夫だな。記憶に異常はなし、と。調子はどうだい?具合が悪いとかはないかい?」
「はい、大丈夫です」
「それならよかった」
そう言い残し、男は部屋から出て行った。改めて部屋を見回す。一見なんの変哲もない普通の民家だ。部屋全体は木材の色を残した落ち着いた印象でベッドから見て左にはさっきの男が座っていた椅子と机が壁に向かうようにして配置されている。その壁には窓が取り付けられており、窓からは活気のある街の一部が見て取れる。窓のある壁の向かいにはドアがある。なんとも殺風景な部屋だ。全貌を確認したというのに気になるものが一つもない。大抵他人の家には目を引くものが多かれ少なかれあるものだが。もしかしたらここは普段は使っていないのかも知れない。
部屋を見終わった自分は、街を目指すことになった経緯とその道中を思い出していた。まず自分の出身は魔法が得意な一族、魔女の里だ。高い知能を持ち、様々な魔法と研究で文明を支えてきた歴史を持つ、世界的に有名な一族である。
その中でも、自分の家系はとりわけポンコツだった。ほかのものに出来ていることが自分の家系はできないことが多かった。しかし自分は違う。検査でも自分だけは高い魔法適正が示された。しかも、魔女の里の平均から見てもそこそこ高く、魔法の才能はあると思っていた。そのときからすでに魔法で暮らしていくと決めていたが、両親がそれに猛反対。吹っ切れた自分は里を発ち、世界一の魔術師として有名なエドワード・グラニールの元で魔法を教わるべく、彼の住むルアルの街まで一人で行くことに決めたのだ。周りから見ればただの家出少女なのだが、いまさら戻るわけにもいかない。
そんな理由から、一人で旅をしてるわけだが、ここがどこなのかわからない。確かルアルの近くまでは来ていたはずだからあまり迷わないとは思うのだが、それでも自分が今自分がどこにいるのかわからないのはとても不安になる。ここがルアルだという可能性もあるが、希望的観測で行動するのは危険だ。とりあえずさっきの男に聞いてみたいところだが。
そんなことを考えているうちに、さっきの男が戻ってきたようだ。足音が近付き、ドアをノックする音が聞こえる。
「朝食を持ってきたんだが、入ってもいいかい?」
朝食はありがたい。この数日、何も食べなかったわけではないがお腹いっぱい食べてなかったのは事実だ。答えは当然、yesだ。ドアに向かって元気よく「はい!」と返事を返す。
「それじゃあ、失礼するよ」
ドアを開けてさっきの男が入ってくる。彼の背丈の半分ほどの異形とともに。
自分はまた驚いてしまい、隅へと逃げてしまった。
「ああ、また驚かせてしまったか。すまない。このゴブリンは僕の使い魔なんだ。君を襲うようなことはないから安心してくれ」
ゴブリン。それはこの世界で最も目にするであろうモンスター。灰色の皮膚を持ち、とがった耳と鼻を持つ。背丈はここにいるゴブリンと同じく人間の背丈の半分くらい。野生のゴブリンは人語を理解できず、やることは盗賊と大差ないが、ゴブリンはよく魔法使いの使い魔として使役される。使い魔として使役されたゴブリンは人語を理解し、魔法を使うこともある。使い魔はその証として主人から与えられた装飾品を身に着ける。
目の前のゴブリンも簡素な布を巻いた服を着ていた。よく見ると手にトレイを持っている。
「こちらをどうぞ」
そのゴブリンはベッドのすぐ隣のテーブルにトレイを置き、そのまま部屋から出て行った。
トレイの上に乗っているのは、白菜のスープとトースト、それからオムレツだった。
「君が覚えている通り君は草原の中で倒れていた。あんなところで倒れていたんだから体は冷えただろうしお腹もすいているだろう。遠慮なく食べてくれ」
自分はその言葉に頷き、朝食を一通り食べてみる。とてもおいしい。いわゆる食レポ、というものには慣れていないが、感想を言うならば体の芯に染み渡る暖かさと味だ。店に出してもいいレベルだと思う。
「おいしいかい?」
自分は首をぶんぶんと縦に振る。
「そうかい。実はその朝食は、ジャッカルが作ったんだよ。あ、ジャッカルってさっきの使い魔ね」
「そうだったんですか。僕はあなたが作ったのかと、、、」
「僕は料理が得意でなくてね。ジャッカルが家事を担当してくれてるんだよ」
世の中には使い魔とは言え、ゴブリンの作る料理を好まない人間もいる。恐らくそれを考慮して使い魔が作っていることを打ち明けたのだろう。このようにゴブリンが家事を担当することは珍しくない。実際、故郷でも友人の家にゴブリンがいて、家事を担当していた。
「そういえばお互いに自己紹介してなかったね、それではこちらから、、」
確かにこちらの名前も言ってなかった。助けてもらった以上、こちらも相応のお返しをするべきだろう。食べながらですまないと思うが、そのままで聞くことにする。
「僕の名前はエドワード・グラニール。いつもは家で、、」
ブーー!と口からスープが吹き出す。それもそのはず。先ほど聞いたことが本当なら今まで探してきた人間が目の前にいるのだから。と、そんなことよりもタオルで拭いて、いやとりあえず謝罪が先か?考えるよりも先に行動せねば。
「え、、えと、、。すいません!!」
自分の口から吹き出たスープで服や顔が濡れた、未来の師範となる人物の顔を自分はタオルで拭こうとする。当の本人は、怒るわけでもなく優しい笑顔を向け、
「いや、気にしなくていいよ。何回もこういうのは経験しているからね。君はタオルで拭いてくれるだけありがたいし親切だよ。すぐにジャッカルを呼ぶから落ち着いてくれ」
なんという寛容さだろうか。さすが、世界に知られるような人物だ。
「・・・では、改めて。名前はエドワード・グラニール。使い魔の名前はジャッカル。いつもは家でジャッカルと一緒に魔法の売買や研究をしている。一応冒険者、要するにアドベンチャーとしての魔法使いの資格も持っているから外に出てモンスター退治もしているよ」
「どうも、ジャッカルと申します。やることは専らご主人のお手伝いです」
彼と一緒にジャッカルも自己紹介を行う。
エドワードは茶色いフード付きローブを羽織っている。髪は美しい銀髪、顔立ちは整っており、噂通りのイケメンだ。外見年齢は20歳くらいだろうか。
彼が自己紹介を終えると、次は君の番だ、というようにこちらをじっとみる。
「えと、、僕の名前はリリィ・アグノスです。出身は魔女の里で、ここへは、、その、、弟子入りのために来ました、、、。」
これも噂で聞いた話だが、彼への弟子入り志願は大体断られているらしい。何故かはわからないが、悉く断っているらしい。加えて先ほどの失礼な行動。絶対断られる。かと言って帰ることもできない。というか帰りたくない。合わせる顔がない。家出して、街に着いて、断られて、里に帰って、両親に会って、ごめんなさい、なんてやりたくない。
「あの、、その、、お、お願いします!僕を弟子にして下さい!」
恐らく、彼はとても驚いた顔をしているだろう。正直顔を上げて表情を確認なんて恐ろしくてできない。それでも、自分は、ここで最高級の土下座を見せるのだった。
世界一の魔法使いになるために。
初投稿です。初投稿なので勝手がわからず、緊張しながらの投稿です。ですから「ここがおかしい!」とか「こう直したほうがいい!」とか合ったら言ってください。
次回は、このあとどうなったか、リリィはどのように拾われたのかを書く予定です。正直今回は自分でもあまり面白くないように思ったので(自分で言うな)、次回かその次回を期待してくれるとありがたいです。