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私の癒しオアシス。

私はその日の授業が終わるやいなや有無を言わせぬ早業で教室を抜け出した。

もちろん見苦しく焦ったり慌てたり、ましてや猛ダッシュなどしない。

あくまでもお嬢様らしく優雅に毅然とした態度で抜け出した。

抜け出したあとは限界速度ギリギリの競歩。

必死で急いでます感を出さないように、かつ早く進む。

至難の技だ。

バランスが大事。


なんとか昨日もお世話になった人気のないトイレにたどり着く。

そして素早く昨日と同じ変装をする。

すると私は麗香から友美になる。


変装を終えたら目的の場所に向かう。

目的の場所は普通科校舎の三階の美術室。


そこには私の癒しが待っている。


美術室の扉を少々乱暴に開け放つ。

麗香では絶対にできない行為だ。


美術室内にいた人物と目が合う。

その人はニコニコと優しい笑みを浮かべている。

私はその人に向かって走り出す。


「っ!翼ちゃ~ん」


「久しぶりだね麗香ちゃん」


抱きつく私をしっかりと彼女は受け止めてくれる。

私の癒し私のオアシス。


その名も丸福翼ちゃん。


中等部で知り合って以来の大親友だ。

翼ちゃんは私が麗香なことも素がこれなことも全部まるっと知っている。

そして私が前世を思い出したことも知っている。

私がこの世で唯一なんでも話せる相手なのだ。


そんな翼ちゃんはこの学園では一般よりだが、私なんかよりよっぽどお嬢様らしい、というか神々しい。

その笑顔で私の心を癒し、支えてくれているのだ。

私の変装が妙になれているのも彼女に会うためにはじめた苦肉の策だったからだ。

麗香のままで会ってしまっては翼ちゃんに迷惑をかけてしまいかねない。


翼ちゃんとの出会いは中等部であった。

当時の私はだいぶストレスを溜め込んでおり、吐き出したくて仕方なかった。

ストレスで剥げるんじゃないかとさえ思ったものだ。

その頃から両親の思うお嬢様らしい振る舞いを強制されていて、自分の素の状態とのギャップに悩まされていた。

何かに打ち込んで発散しようにも、お嬢様は野蛮な活動はしないとかいう馬鹿げた考えで、運動系の部活には入れず。

かといって文化系の大半は根暗だと禁止された。

茶道や花道なんかは別に良いと言われたが、あんな堅苦しいもの私の性に合わないし余計にストレスが溜まりそうだった。


吹奏楽部ならいけるかと思い、一度見学しにいったのだが、ここもまた意識の高い生徒たちの集まりで、ゆるくまったりしたい私には合いそうもなかった。


息抜きがしたくてさ迷ったあげく、たどり着いたのが美術室だった。

本当は美術部に入りたかった思いが、自然に足をそこへ向かわせたのかもしれない。

親の反対があった他にも入れない理由があったが。


なんにせよ美術室には誰もおらず、これ幸いと私はそこで休憩していた。

椅子に座って机につっぷす。

美術室の独特の匂いが好きで、凄く落ち着いた。

今思えば前世では美術部だったからかもしれない。

前世では、入れない理由など気にせずに美術部に入っていたものだ。


なんにせよ疲れとストレスで私は油断していた。

もちろんその頃は変装なんてしていない。

完全に麗香のままで、素をさらけだしていたのだ。

一匹の猫もかぶっていなかった。


そこへやって来たのが翼ちゃんだったのだ。


その時私はひたすら悪態をついていて、翼ちゃんはびっくりしたとあとから聞いた。

ちよっとすっきりして顔をあげたら翼ちゃんが立っていて私も心底驚いたものだった。

見られてヤバいという気持ちと、どうしたら黙っていて貰えるか、私の頭の中ではたくさんの考えがぐるぐるしていた。

いつも通りの猫をかぶって誤魔化してもよかったかもしれない。

結果的にはそうしなくてよかったと思う。


私が困っているのを察した翼ちゃんがにっこり笑って言ってくれた。


「大丈夫、秘密にしておきますね。今日はもう私しか来ない日ですのでよかったらゆっくりとなさって下さい。私でよかったら愚痴でもなんでも聞きますよ。アドバイスはできないかもしれませんが、聞くだけでしたら私にもできますから」


天使がおる。

本気でそう思った。

私には翼ちゃんの背中に天使の羽が見えた気がした。


でもひねていた私は最初はそれを信じなかった。

何も言わずにその日は帰った。

きっと次の日になったら私についての噂が流れてるんだと思った。

もう終わりだと思った。

でもいつも通りに一日が終わって私はその日も美術室にいった。


その日は翼ちゃんの方が先に美術室にいた。


「あなた言わなかったのね」


「誰かの秘密をばらすような趣味はありませんから」


「そう」


それから私は時々美術室に行くようになった。

少しずつ私は自分のことを話していった。

翼ちゃんは静かに聞いてくれた。

そしてせめて自分の前では気楽にして下さいって言ってくれたわ。

私は嬉しかった。

本当の私を受け止めてくれる人がいると思うと、猫をかぶることも苦ではなくなった。

  

そうしたらいつのまにか取り巻きができていた。

意味がわからなかった。


それでも気を付けながら取り巻きにバレないように翼ちゃんと会ってたんだけど。

ある日取り巻きの一人に翼ちゃんと話しているのを見られてしまった。

幸い私の猫かぶりはばれなかったのだけれど。


そしたら取り巻きの人たちは何をとち狂ったのか翼ちゃんを排除しようとした。


仕方なく私は翼ちゃんに会うのを諦めたんだけど、それだとストレスが凄くて。

我慢の限界がきそうになった時、変装をすればいいと思い付いたの。

それで友美の格好をするようになったの。

当時はそんなに化粧はしてなかったんだけど、案外バレないものでね。

それ以来翼ちゃんと会うときは友美の格好をしている。


だから昨日咄嗟に変装するときも素早くできたわけ。


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