お見合い
朝早くから振り袖の着付けとヘアメイクをされる。
覚悟は決めたけれど憂鬱である。
あとはもう話が通じる相手であることを祈るばかりである。
両親とともに高級料亭に連れていかれて、その一室で相手の到着を待つ。その間に母親が、ある程度の相手のことを教えてくれる。
遅いと思ったが、余計な先入観を持たないようにといった配慮だったらしい。どうでもいい。
母親によると相手は近衛というらしい。なかなかの名家であり、母親的には私が嫁ぐのに、そこそこ相応しいという。
家の跡を継ぐであろう三人兄弟がいるうちの、長男とお見合いを申し入れたのだが、先方から年が離れすぎてもということで、同い年の三男ではどうかと返事がきたらしい。母親はなめていると文句を言ったが、普通じゃないの?と思った。
母親としては安定している跡継ぎの長男か、そのサポートをする次男がよかったという。
なんというか結局立場で人を見ているわけで、その人がどんな人かは気にしていないのだなと思った。
しばらく待っていると相手方の両親が部屋に入ってくる。
すごく人の良さそうな、それでいてしっかりとした雰囲気の二人だった。この二人の息子なら話が通じそうだと思える感じだ。
「遅くなって申し訳ありません。息子ももうすぐ参りますので」
「いえこちらが無理を言ったことですので」
母親は気にしないで、というように笑うが、内心では腹をたてているのがわかる。父親は会釈をするのみで、何も言わなかった。
そしてそのすぐあと、誰かが再び部屋に入ってきた。もうすぐ来ると言っていたお見合い相手だろう。
「遅れて申し訳ありません」
聞き覚えのある声だった。
両家の両親の声がして、相手が私の前に座った。この時私はずっと下を向いていて相手の顔を見ていなかった。
「では、始めましょうか」
「そうですね、なんにせよまずは自己紹介からかしら?ほら」
「はじめまして、近衛綾斗といいます」
私は慌ててうつむいていた顔を上げた。
目の前にはにっこりと笑う綾斗がいた。
私はポカーンと間抜けな顔をさらしてしまう。
ちょっとどういうことかわからないです。
近衛という名前に聞き覚えがあったけれど、普段呼ぶことはなかったし、実家のことを聞いていなかったから気づかなかった。
「ほら、麗香さんも自己紹介を…麗香さん?」
「あっえっと神宮寺麗香です」
物凄く変な感じだ。自己紹介などしなくても相手はよく知っているのだから。とはいえご両親は知らなかったけれど。
綾斗のご両親を見ると、にこにこと笑っていらっしゃる。
そして普通ならここで、ご趣味はーみたいな話になるのだろうけど、母親は本人たちの意向など気にしていないので、そんなことを聞いたりしない。本人同士で話すのではなく、私の母親による質問攻めがはじまる。恥ずかしいから勘弁してほしい。
「綾斗さんは将来どうされるのかしら?お父様のあとはお兄様がお継ぎになるのよね?」
家庭の事情に口出すようなことを言わないで欲しいものだ。
「そうですね、兄たちが継ぐ予定です。自分は高校卒業後は美大に進学するつもりです」
こんな形で綾斗の進路を聞くことになるとは思わなかった。けど聞けてよかったと思う。やっぱりそっちに行くのかと思った。
「まあ美大ですか」
母親が少し残念そうに言う。
美大だと何か悪いのかね?素敵な進路じゃないのよ。
母親的にはやっぱり納得いかないみたいだけど、自分からお見合いの話を持ちかけた手前、言い出せないのだろう。さすがにそこまでアレな人間でなくてよかった。
そこにつけいる隙があると思われる。
「素敵ですね。では将来は画家に?」
「そうですね。それも憧れますが、絵画の修復士になって、過去の偉人たちの残した作品を守りたい」
「素晴らしい目標ですね!」
母親は断る方向に持っていきたいのであろうが、そうはさせるもんてすか。こういうのは本人たち次第なのよ。たしかに昔は家柄だなんだとか大事だったかもしれないけれど、今はもうそんな時代じゃないもの。
「麗香さんは将来は?どんなふうに考えていらっしゃるのかしら」
綾斗の母親であろう女性が聞いてくる。私の母親とは違って、嫌みなく純粋に聞かれているのがわかる。
「私は、お恥ずかしいですが、まだ特にやりたいことが決まっていなくて。でも何か自分でできることを見つけて、誰かに頼りきって生きるのではなく、誰かと支えあっていきたいと思っています」
「そう。やりたいこと、見つかると良いわね」
「はい」
このやりとりに、私の母親はそわそわと落ちつかなげにしている。
そのあともいくつかお見合いではありきたりなやりとりがあって、よくあるお若い二人でという展開になった。
「ここのお庭とても綺麗で有名なのよ、お二人で散歩なさったらいかがかしら」
「まあ、見てみたいわ」
「じゃあ行きましょうか」
正月に毎年振り袖を着ているとはいえ、着物で動くのはあまり好きではなく、段差はちょっと怖かったけれど、ちゃんと綾斗がエスコートして支えてくれた。
後ろから聞こえた綾斗の母親の「まあお似合いね」という言葉にほんのりと頬があつくなる。嬉しかった。




