スタートに戻ってたまるか。
母親が次の言葉をもったいぶって言った。
「実はお母様ね、麗香さんのためにお見合いをセッティングしてあるの。それまではお家にいてゆっくり休んでね」
「ええ!?」
「お仕事早いでしょ」
母親は褒めてと言わんばかりの笑顔だ。腹立つ。
素で驚いてしまった。しかもこれは軟禁コースだ。家からは出してもらえないパターンだ。大人しくお見合いするしかないんだろうか。
「お家でゆっくりしたら麗香さんも落ち着けて、いつもの麗香さんに戻れるわね。そしたら大声で叫んだり、ましてや暴言なんて吐かなくなるでしょう?」
笑顔に威圧感がある。有無をいわさないあれだ。家にいたらむしろストレスたまって発狂しそうなんだけど。
救いはさすがに携帯の内容を見られることはないので、百合たちと連絡がとれること。あとなぜか兄がしばらく滞在する様子なところ。
なんだかんだ母親の興味は兄に向かうので、少しだけ解放される感じにはなる。
少し前までの私だったら、お見合いはやるだけやって、先方に気に入られなければいいやとか思っていた。だけど今の私には好きな人がいる。それなのにお見合いなんてやってられない。
「お母様。申し訳ありませんが、お見合いは無理です」
「あらどうして?もしかしてまた婚約破棄されると思って怖いのかしら?大丈夫よ、とてもいい人を見つけたから、そんなことには二度とならないわよ」
「いや、むしろその方が」
「え?」
「いえ、あの。お母様、私…好きな人がいるんです」
結構な覚悟を決めて、その事実を宣言する。心臓がドキドキする。
兄は何も言わないが、その顔はニヤニヤとしている。
「あらそうなの?西園寺さんのことではないわね。同じクラスの方?でも同じクラスに西園寺さん以上にあなたに相応しい方なんていたかしら?ああ!もしかしてご卒業される先輩とかかしら?」
覚えているだろうか?前にも言ったと思うが、学園の普通科の私のクラスは大金持ちの子息子女が集まっているということを。つまり家柄もとてもいいのが揃っている。
他のクラスがダメなわけではないし、皆裕福なほうではあるが、私のクラスは桁が違うのだ。そんなクラスはもちろん上にも下にも一クラスづつ存在する。母親は、そのクラスに在籍できるレベルの相手でないとだめだと暗に言っているのだ。
「芸術科の方です」
「芸術科?そんなところにあなたに相応しい相手がいるのかしら?あんな学科、一般庶民ばかりでしょう?」
母親も昔は同じ学園に通っていたのだ。基本的な構造は変わっていないので、その認識であっているといえばあってはいるが、完全に見下しているその態度はどうかと思う。
ちなみに母親は当たり前だけど寮には入らず、毎日登下校はリムジンで送り迎えしてもらったという。だから寮に入るのはだいぶ苦労した。
「ご実家がどういったお家かは聞いておりませんが、才能あふれるかたです」
焼け石に水だろうけどスゴい人だよとアピールしておく。
「才能があってもねぇ。その方は画家になられるの?どちらにしても保証がない相手はダメよ。あなたは苦労なんてしなくていい身分の人間ですからね」
そんなやついねぇ。
「とにかくお見合いはしてもらいます。会ったらきっと気が変わるわ」
何を言っても母親が自分の意見を変えることはない。わかっていたけどあがかずにはいられなかった。
言いたいことは言い終えたのか、母親がダイニングを出ていった。
「あのばばあ相変わらずみたいだな」
ずっと黙っていた兄が口を開く。
ちなみに兄も家出をする前は婚約者候補の女の子がいた。こちらはあくまで候補だが、重要なのは母親のめがねにかなうか、というところなのだ。そこに兄の意思など関係ないのだ。
「ば、まあね。頑固な家系なのよ」
「頑固っていうか、なんだろうな自分が正しい的な?」
「あーそんな感じ」
「ま、なんにせよお見合いは仕方ないからやっとけ。会うだけで即婚約ではないだろ」
「だといいんだけどね」
結局は私の意思など関係なく、母親が相手を気に入れば、無理矢理にでも婚約に持っていきそうではある。隆臣の時もそうだったし。幼かったから意思もなしもなかったけれど。
失礼がない程度に相手方に断って貰えるようにしなければならない。二人っきりとかになって、相手に事情が話せるといいが、わかる人でないと難しいだろう。相手が性格関係なく身分だけで選ぶ人だったら、いろいろアウトな気がする。そんな人だったらもう暴れるしかない。
漫画みたいに綾斗がお見合いをぶち壊しに来てくれたらいいのに。
なーんて夢を見てしまう。
案外私も乙女だったのかもしれない。
それから数日間は軟禁状態だった。
誰かしら使用人が見張っているようだし、母親が用もないのにお茶に呼び出して来る。そしていらない教育をされる。題して母親による、お嬢様とはこうあるべき口座である。偏見に満ちていて、時代遅れだ。
昔のお姫様たちの方がなんだったら働いてるよね、ってくらいのニートっぷりだった。家事はすべて使用人がやるし、趣味も特になしだから、どこかへ行ったり何かに没頭したり。嗜む程度にお花やお茶は習っているようだけど、別に好きではなさそうだ。
どうすることもできないまま、お見合いの日を迎える。




