友達ポジションキャラはメタい。
3人で昇降口に向かう。
もっぱら話すのは百合と綾斗の二人で、私は後ろから二人を遠慮なく観察させていただいた。
百合が時々気を使って話しかけてくれるので、無難な感じで返しておいた。
昇降口にたどり着いて名残惜しいが、綾斗とはここでお別れだ。
「綾斗くん案内ありがとうございました」
「ありがとうございました」
私も一応お礼を言っておく。
「別に、じゃあね」
綾斗は素っ気ない感じで返事をすると去っていった。
私も適当に言って百合と別れなければと思ったのだが…。
「あの女子寮までの道、わかりますか?」
百合が恥ずかしそうに聞いてくる。
そうかそれもわからないのね。
うちの学園はいろんな場所から入学してくるので、地方からきた生徒のために寮が用意されている。
基本的には芸術科や体育科の生徒たちが利用している。
普通科の生徒たちはだいたい家が近い。
遠い子もいるが、みんなお嬢様かお坊ちゃんなので車での送迎や、個人で家を買うなり借りるなりしている。
寮は使用人を連れてくることも許可しているので、少ないながらも一応お嬢様の寮生もいる。
少ないお嬢様の寮生の一人が私なのだけど。
だから案内はできる。
そもそも私だってそこへ帰るのだから。
問題は今の変装した姿をどこで戻すかよね。
この格好で自分の部屋に戻るところを見られたらややこしいことになる。
知らないと言って案内を断ることもできる。
だけど本当に困ってますといった様子の百合をほっておけるほど私は冷たい人間ではない。
それに他の人が案内してあげることがわかっていたらいいのだが、ゲームでは女子寮まで友達キャラの相澤友美が案内していた。
だがしかし相澤友美という人間はいない。
少なくともクラスにはいなかった。
別のクラスにいてゲームの通り案内するなら今まさに遭遇してもおかしくないので、学園にはいないのだろう。
ちなみに相澤友美というキャラは、お嬢様のはずなのに地味めでお下げで眼鏡という平凡な感じの…。
ん?と思って私は今の自分の姿を見直した。
まさか!
「私が相澤友美か」
「え?」
そうまさに今の私の姿が相澤友美そっくりだった。
なんてことだ。
びっくりしてうっかり声にだしてしまった。
百合が不思議そうな顔でこちらを見てくる。
まあ急に自分の名前を今気づいたかのように叫んだら意味わからんわな。
「あはは。えーと」
どう誤魔化したものかと悩む。
でもさすが主人公の百合は気にしなかったようだ。
「相澤友美さんとおっしゃるのね。友美さんとお呼びしても?私のことは百合と呼んでください」
とニコニコと笑顔で言ってきた。
あれ?これ友達認定されてね?
あんまり関わる気はなかったのだけど、まあいいか。
「私も友美と呼び捨てでいいですよ。そろそろ女子寮に向かいましょうか」
「はい!よろしくお願いします」
お友達キャラもやってやろうじゃないの。
ってことで私のライバルキャラとお友達キャラの二足のわらじ生活がスタートしたのだった。
女子寮までの道すがらいろんな話をした。
というかゲームでは友美が百合に教える学園のルールとかそんな話だ。
かく攻略キャラたちの噂やそのキャラの攻略に関してのアドバイスなどだ。
一応すでに一年通っているので有名どころの人たちは知っている。
生徒会長とか保険医とかね。
綾斗のことは知らなかったけど、ゲームでの綾斗は覚えていたので、ふわっとした説明をした。
百合はとても良い子で私の話は真剣に聞いてくれるし、時々変な感じになる私のことを気にしないでくれた。
ついこの前まで庶民でお嬢様の常識はわからないというが、そんなものわからなくていいと思う。
そんなものより一般常識の方が大事だし。
言葉遣いは大事だけど、すでに百合の言葉遣いは丁寧だし申し分ないと思う。
ブランドの話だとか海外旅行の話、婚約者の身分がどれだけいいかとか本当に興味ない。
でもお嬢様たちの話といえばそんなものだ、あとあるとしたらペットの話か、これはまだましなほうだ、めんどくさいけど。
外面を取り繕うのもなかなか大変なのだ。
その点で行くと麗香よりも友美の方が素に近いので楽かもしれない。
正体がバレるとヤバいというリスクはあるけれど。
女子寮の前で百合とは別れた。
実家から通っているということにしたのだ。
ゲームでは友美も寮生で、寮での過ごし方も教えるのだが、私は一緒に寮に帰るわけにはいかない。
なんせ実際は友美は存在しないから。
変装を戻して麗香になるために学園にUターンする。
友美の姿ならば猛ダッシュしても気にしなくていいため楽だ。
麗香のままだとどれだけ急ぎたくても競歩がやっとだ。
友美になった時と同じトイレに入って、一応誰もいないことを確認する。
落としていた化粧をし直して少しきつめの印象を与えるように顔を作る。
前髪を整えて三つ編みもほどいて良い感じにセットする。
これで友美から麗香に戻った。
トイレを出たときスマホが光ってメッセージが来たことを知らせる。
百合からだった。
麗香で連絡をとることはありえないだろうとメルアドを教えたのだ。
内容は案内の感謝とこれからよろしくといった内容だ。
なんの打算も裏もないそれにちょっと嬉しくなって口許が緩む。
だけどすぐ思い直して無表情に戻す。
残念ながら麗香がそんなふうに笑うわけにはいかないのだ。
麗香がするのは柔らかい笑顔ではなく高飛車な笑顔でならなければいけない。
さて、私も寮に帰りますか。