続文化祭準備
つい最近とても恥ずかしい思いをした私は、今日はスカートの下に短パンをはいている。抜かりない。
レジャーシートをひいた上に寝そべりながらネコちゃんのスケッチをする。相変わらずだけど、描きたい方向性も決まってきたので、そろそろ作品に取りかかろうと思う。
「ネコちゃん。モデルになってくれてありがとうね」
ネコちゃんにはちゃんとモデル料をたっぷりと支払った。
クラスの手伝いをしなくていい分、こちらに全力投資できるのは、ありがたかった。私の全力なんてたかがしれてるけど。
画材は色鉛筆にした。美術室の絵の具を使っていいよと先生は言ってくれたけど、筆とか本気で自信がない。
でも今度からちょっと絵の具も使ってみようかなと思う。
スケッチしたネコちゃんを見ながら作品用の紙に下書きを描いていく。
なんという伝言ゲーム。ネコちゃんからネコっぽいものになって、ネコかわからないものに今進化をとげた。
なんでこうなるんだろうか?
私は椅子に座って、考える人のポーズで悩む。
「どうしたの?」
「あっ綾斗、いやいやお恥ずかしい、生意気にもスランプってやつですよぉ」
「そうなの?じゃあ気分転換にちょうどいいかな?」
そう言って綾斗が私になにかを差し出す。
両手のひらにおさまるサイズの可愛らしく包まれたそれを受けとる。
「あげる」
「えっいいの?ありがとう」
「食べ物だから今開けたほうがいいかも」
「マジか!」
私はなるべく破らないように気をつけて包みをはがす。
中身はプリンだった。それも私が食べたかったやつ。
感動のあまり声もでず、綾斗とプリンを交互に見る。そして讃えるようにプリンを持ち上げる。
「これ、本当に食べていいの?」
返せって言われても返せませんけどね!
「いいよ」
「いただきます!」
私は一緒についてたスプーンを袋から出してプリンの蓋をゆっくりと開ける。この蓋がね蓋についたのが美味しかったりするよね、綾斗の前では食べられないけどね。
一口食べる。口のなかにバニラの風味とほのかな甘味と濃厚なミルクの味わいが広がる。うまい。
幸せである。緩みきった笑顔でプリンを食べる私を、綾斗が微笑ましげに見ていた。
プリンを食べ終わり、入っていた器を美術室の水道で軽く洗う。可愛いから記念に持って帰って部屋にかざるのだ。
そうやってリフレッシュしてから、改めて作品に向き直る。
「何で悩んでたの?」
「あーうまくいかなくてね」
失敗した私の作品の下書きを綾斗はじっと見て何かを考える。
「うまく描こうと気負いすぎなんじゃないかな?」
目からウロコ。
たしかに。今までは誰かに見せると言っても親しい人にしか見せていなかった。その人たちは私の絵を見慣れていることもあって、どんな出来だろうと気にはならなかったが、不特定多数に見せるとなって、無意識に上手く描かなきゃってなってたみたいだ。
「いつもみたいに描いたらいいと思うよ」
「ありがとう!そうだよね好きなように描いてみる」
どうせ作品を展示すると言っても匿名で出すから私とはばれないし、私の絵を知る人でないと誰の作品かなんてわからないだろう。
これから関わるかどうかもわからない人の評価など気にしても仕方ない。
「じゃあ、がんばってね」
そう言って綾斗は美術室を出ていった。
プリンを届けるためだけに来てくれたようだ。そのついでにへこんだ私を励ましていってくれた。
なんだ神か。
私は綾斗が去っていった方を向いて祈りを捧げた。
あなたのおかげで私は元気です。
「ふふ、先を越されちゃったかな?」
その声に振り向くと、久しぶりに会う翼ちゃんだった。
翼ちゃんはセンスをかわれて文化祭でやるお店の内装デザインをしたりしていて大忙しだったので、本当に久しぶりである。
「最近はずっと一人で作品作ってるって言ってたでしょ?一人だと寂しいし困ったりしてないかな?と思って」
「ありがとう!実はさっきまでスランプだったの」
「でも綾斗くんのおかげで元気になったんでしょ?さっき出て行くのを見たもの」
「うん、まあね」
翼ちゃんは本当に優しい。私を心配して様子を見にきてくれたようだ。
にこにこと笑う、翼ちゃんを見るだけで癒されて元気が出てくる。
だけどいつもにこにこの翼ちゃんが、珍しくちよっと不機嫌そうに、ぷくっとほっぺをふくらます。
「私が元気付けたかったのになぁ、悔しい。でも麗香ちゃんが元気になったならよかった」
ちょっとした焼きもちだったらしい。可愛いなぁおい。それに久しぶりに翼ちゃんに麗香と呼んで貰えて嬉しかった。
最近は百合や綾斗が一緒だったから、呼んでもらえる機会がなかった。
友美でもいいんだけど、本名は麗香だから。
いつか百合にもちゃんと本名で呼んでもらえたらいいな。
今はまだ言い出せないけれど、いつの日かちゃんと友達になりたい。
友美じゃなくて麗香でね。
いつになるかわからないけれど。
その日は綾斗がアドバイスしてくれたり、翼ちゃんがいてくれたのもあってか、作品作りがだいぶ進んだ。これなら文化祭に間に合いそうである。




