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由森の告白

私が自己嫌悪に浸っていると、美術室の扉の開く音がした。

慌てて起き上がって涙を乱暴に拭う。


「あっやっぱおった」


誰だか確認したら、なんのことはない由森だった。


「あれ?文化祭の準備は?」


「きりのいいとこまでやったから今日はおしまい。なんとなくあんたおるかなぁと思って来てみてんけど、なんかあった?」


「え?別に?」


私はしらばっくれる。

別に由森には話してもいいんだけど、まだ私自身の整理がついていない。どう話して良いかわからない。


「言いたないなら無理には聞かんけどな。話してもうたほうが整理つくかもしれんで?」


それも一理ある。

どうしようか?

由森は黙って待ってくれてる。由森はふざけているようで、結構優しいというか、しっかりしてて頼りになる。

私はずいぶん助けて貰っている。


「なんていうか、私はやっぱり自分のことしか考えてなかったなぁって」


「そんなん皆そうやろ?」


「うん、そうかもだけどさ。ちょっと考えたらわかったことなんだよね。百合を隆臣とくっつけたら、百合のことを好きな人は失恋するって」


「まあそうやなぁ」


「普通に考えたら起こりうることだから、仕方ないと思うんだけど。でも私が介入しなかったらもしかしたら百合はその人とさ」


「否定はできん」


「でしょ?私が失恋させるみたいなもんでしょ?それに百合だって隆臣のこと好きになってくれたけど、本当にそれでよかったのかなって。隆臣が悪いわけじゃないけど、他の人っていう選択肢もあったはずで。それをつぶしたのは私だ」


そう考えると私の自分勝手でどれだけの人に影響を与えるのだろうと思う。百合が全員の好感度をあげてなくてよかったなんて考えてしまう。それでまた自己嫌悪する。


隆臣だって、百合とひっつくんだから幸せになれるからいいでしょうと思ったけど、それはゲームでの話だ。とはいえ不幸になるとは思わないけれど、本当にそれでよかったのかと言われるとよくわからない。

人の気持ちなんて言葉にしてくれなきゃわからないものだ。


「うちはでもなるべくしてなったと思う。あんたが暗躍した言うても結局は本人らの気持ちをあんたに操作できるわけやない。ゲームやったらたしかに会えば会うだけ好感度はあがるやろうけど、この世界はゲームやなくて現実やで?そんなうまいこといかんやろ」


たしかにその通りだ。

私がどれだけ薦めても本人が嫌だと思えば終わる話だ。

私がなにもしなくても、隆臣は百合にひかれて、百合は隆臣を好きになったかもしれない。今さらわからないけれど。


「それにな、うちかて自分勝手やで。懺悔するわ、うちはあんたを利用してたんや」


「えっ?どういうこと?」


由森が真剣に、それでいて泣きそうな表情で話し出した。


「うちの推しキャラな、生徒会長やねん」


そういえばちゃんと聞いたことなかった。

聞いても私はわからなかっただろうけど。


「せやから言うても別にあんたと一緒で恋愛の意味で好きなんやなくて、アイドルを応援するような感覚やってん」


それは私も一緒だからわかる。


「うちはこの学園がゲームの舞台やなってわかってて入ってん。せやからってほんまにおるとは思ってなかったけどな」


行きたい学科があるところを探していたら、見覚えのある名前があったからそこにしたというだけのことらしい。私は気づきもしなかったけど、とよく考えたらその頃は私は前世のこと思い出してなかったわ。


「去年の生徒会選挙で候補者のリスト見てすぐ気づいてん。案の定生徒会長になった時はこれはって思った。まあ綾斗がおるんは一応しっとってんけどな?よくよく調べたら保険医は保険医やし、あんたもおった。最初はリアル乙女ゲーやって面白がってたん」


まあそんなもんだろう。直接関わってくる私とは違い、由森はゲームには関わらない。ただの傍観者でいられるのだ。


「あんたやったらわかると思うけど、好きなキャラがおるとわかったら近くで見たいと思うやろ?せやからちょくちょく見に行ってたんよ」


まあわからなくもない。私もやらかした。


「ゲームと同じイケメンやったけど、ゲームと違って動くわけよ」


まあそりゃそうだろう。ゲームは基本的に静止画で、文章を読んで進めるものだ。絵が変わることで表情は変わるけどポーズは変わらない。

でもここは現実である。当たり前だけど好きに動ける。


「ほんで見てるのばれてんけどな。テンパりすぎて全部しゃべってもうてん」


「えっ全部って?」


「ゲームのこと全部。引かれると思ったけど笑ってはった。そっから会ったら話せるようになってんけどな」


「そうだったの?知らなかった」


由森の行動範囲や交友関係が広いことは知っていたけれど、生徒会長とも知り合いとは思わなかった。


「あれ?でも最初の頃生徒会長の情報聞いた時、生徒会の下っぱ捕まえて聞いたとか言ってなかった?直接聞けたってことだよね?」


「あーまあな。でも直接聞くのはなんかちょっと怖かってん」


由森は私よりゲームのことを知っている。二年になれば百合が来ることは想定できた。最初のイベントで攻略キャラの全員に遭遇することもわかっていた。ゲーム通りになるかは半信半疑だったけど。


「百合が来る頃にはうちな、生徒会長のことマジで好きになっててん」


由森が顔を真っ赤にしながら告白する。

由森も乙女だったのだ。


由森は不安だった。生徒会長は攻略のメインキャラだ。マンガ化とかアニメ化とかをしたら、主人公とひっついて終わるであろうキャラだ。

わからないけれど、いやわからないからこそ、百合は生徒会長にひかれてしまうのではないかと思ったという。

そして生徒会長は他のキャラに比べてチョロい。それはゲームでの話だったけれど、実際はどうかわからない。

百合と出会う瞬間は見たくなくて、由森は直接は見なかった。


そして私と親しくなって、計画のことを知る。

私の計画がうまくいくということは、百合と生徒会長はひっつかないということだった。

自分は何もしないで、百合と生徒会長が仲良くなる邪魔をする。

由森の懺悔とはそれだった。


たしかに由森は私のことを利用しているといってもいい。

でも別に私は気にならなかった。由森は自分のことをズルいやつだと言うけれど、こうやって私に正直に話してくれたし、由森の知識にいつも助けられているのは私だ。


「話してくれてありがとう。私の自分勝手が由森にとって良い方に作用したならよかったよ」


「うん」


二人とも顔は涙と鼻水まみれだった。

少し笑いあって、このぐちゃぐちゃな顔をどうしたものかと思っていたら、翼ちゃんがいつのまにか来ていて、濡れたハンドタオルを渡してくれた。

様子を見に来たら私と由森が泣きながら話しているのを発見して、必要になるだろうと用意してきてくれたらしい。

そう言ってにっこり笑う笑顔に癒された。

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