運動はできなくもない
二学期にある二大イベントのひとつ体育祭。
当たり前だがこれは体育科が大活躍する行事である。
だからといってはなんだが、普通科の面々はやる気はあまりない。
特に一生懸命がんばるというのが苦手なうちのクラスは顕著である。
ちなみに芸術科は死んでいる。
楽しみにしているのは由森くらいのものだ。
行事はどこも強制参加なのが辛いところだ。
私も別に運動が苦手ではないのだが、はりきりすぎると麗香のキャラじゃなくなるのでほどほどにしなければならない。
百合は無邪気にはりきっている。
パラメーターマックスの疑いがある百合はたぶん勝つのだろうなと予想する。諦めているクラスメイトたちの手前、言うことはできないが、いくら勝ち目がなくても負けるのは悔しい。勝てる競技があるのなら一勝でもいいから勝ちたいものである。
ちなみに体育科は優勝できないと地獄が待っているらしいが、そんなことは私は関係ないのでよくは知らない。
隆臣も珍しくはりきっているようだ。
運動神経は悪くないし、体格もいいのでそこそこはできるのではと思う。適度に鍛えてもいるようだしね。
たぶん百合に良いところを見せたいのだろう。
一人一つは何かの競技にでなければいけない。
私は無難に100m走に出ることになっている。
これぐらいの距離なら本気出してます感もないだろうし、他の走者からそう遅れることはないだろう。長距離とか障害物とかはいろいろと無理である。
たしか百合は借り物競争だったか。あの子は借りるあてとかあるんだろうか?あるか。うちのクラスでも最近は馴染んでるし、クラス以外にも交流しているものはいるようだしね。
心配しても仕方ない。
「翼ちゃんは何に出るの?」
「私も100m走に出るよ」
「そうなんだ!がんばろうね」
「てゆーかあんたら走れるんかいな」
ほのぼのとした私と翼ちゃんの会話に由森がつっこみを入れる。
それはむしろこちらのセリフだ。
「そっちこそ走れるの?」
「無理に決まってるやん」
「じゃあなんでそんなにはりきってるのよ」
「人の筋肉をじっくり観察しながら描ける絶好の機会なんやて!」
「あーなるほどな」
運動にやる気はないが、別の方向でやる気を出していたらしい。
ちなみに他の人たちは、そもそもそのために運動しないといけないことが憂鬱だったり、学生程度の筋肉じゃ心引かれなかったりで、やる気は皆無らしい。
どこもやる気なんてそんなもんだと思っていたのに、うちのクラスは百合に影響されてか、やる気を出すものが増えてきた。
去年はまったくやる気がなかったことに比べれば、格段の違いだった。
去年よりは良い順位になれそうだ。
体育祭本番は、頼んでもいないのに屋根が設置された。日焼けしなくてすむのでありがたいけれど、居場所が決められてしまうので落ち着かない。本当は応援をしたいのだけど、回りを取り巻きに固められてどうすることもできないので、仕方なく心の中で応援する。
「そろそろ俺の出番だな。麗香、応援してくれよ」
「ええ、がんばってくださいませ」
隆臣は意気揚々とスタンバイしに行った。
結果は二位であったが、一位だったのは体育科の中でも早いと噂のある人物だったので仕方ないだろう。だけど隆臣は納得いかないといった様子で、とても悔しそうだった。
そんな隆臣を百合が慰めていた。
順調に仲は良くなっているようだ。
100m走の順番が回ってきて隣を見ると、まさかの翼ちゃんだった。
目があうとにっこりと笑ってくれる。麗香じゃなかったら声がかけられるのにと残念に思った。
私たちの走った組は体育科の生徒はおらず、私は無事に本気を出すことなく一位をとることに成功した。
「麗香様さすがですわ」
「余裕の勝利ですわね」
普段はめんどくさい取り巻きも今だけは気分が良い。
良し!もっと褒めたたえろ!
そのあと由森の障害物競争があった。
本人が言っていた通り、走るのは遅いし平均台は何回も落っこちていたけれど、そこそこ楽しそうだった。
綾斗も見つけることができたのだが、やる気のなさが半端なかった。
一応走ってはいるのだが、あれなら私が早歩きした方が早い。
そして百合の出番がやってくる。
やる気マンマンでスタートした百合だったが、借り物が書かれた紙をとったあとしばらく立ち止まる。何か悩んでいるようだった。
隆臣を見たあと決意したような顔をして、走って隆臣の前まで行く。
「あの、すいません一緒に来ていただけますか?」
「ああいいぜ?」
お題はなんだったのか言わなかったのでわからなかった。
二人は一緒に走ってゴールした結果、一位を獲得していた。
お題はなんだったのか、あとで友美の方で百合に聞いてみようと思う。
隆臣と一緒に走ったことを友美が知っていてもなんらおかしくないから、聞いても疑問に思われないだろう。
隆臣をつれていくようなお題ってなんだろう?
ゲームでもあったような気がするけど覚えてない。
興味の持てなかった私には、このくらいのタイミングは丸ボタンを押すだけの作業ゲーと化していたから。




