夏が終わって秋がくる。
楽しい夏休みはあっという間に過ぎてしまう。
前世からそういうものだ。
前世では夏休みの最終日は宿題に追われていたものだが、その反省をいかして宿題はさっさと済ませてあるので楽なものだった。
そもそもたいした物はなかったけれど。
それでも長い休みのあとの学校の憂鬱さは変わらない。
特に取り巻きたちに囲まれるのが憂鬱でならない。隆臣が良い方向に変化していて、わずらわしさがなくなってきているのもあって、余計にわずらわしく感じるのかもしれない。
なんにせよ夏休みが終わったことは寂しいけれど、二学期というものは体育祭と文化祭という、二大イベントが待っている。
特に文化祭はうまくすれば翼ちゃんたちと一緒に楽しめるかもしれないと思うとワクワクする。
久しぶりの教室はなんだか騒がしい。
何かあったのかと思ったら百合と隆臣が話していた。
取り巻きたちは気に入らないといった表情でそれを見ているが、それ以外のクラスメイトは、夏休み中にあったパーティーなどで百合と会って、考えが変わったものが多いらしく普通に百合に接している。
関わろうともしなかった一学期に比べるとえらい違いだ。
でもまあ良くなったのだから、とやかく言うことではないだろう。
取り巻きの一人が私に気づいて声をかけてくる。
「麗香様!おはようございます。あの小娘夏休み前よりあつかましくなってますわ」
「麗香様!びしっと言ってやったほうがよろしいですわ」
「あんな小娘の暴挙を許してはなりませんわ」
何をびしっと言えというのだろうか?
隆臣に近づくなと言ってほしいのだろうけど、それは取り巻きたちには関係のないことだし、口を出すことではないと思うのだけど。
別に仲良くなるくらい許してやれよと思う。
「あれは放っておけばよろしいですわ」
私に止める理由はない。
仲良し結構どんどん親密になればいい。
だけど取り巻きたちはそんな事情は知らない。
「そんなお優しいことではあの小娘になめられますわ」
「もっと調子に乗らせることになりますわよ?」
「麗香様はお優しすぎます」
この人たちは私のために言っているのではない。
私に百合を隆臣のそばから排除してほしいだけだ。
自分達の身分では隆臣に釣り合えない、だから近づくことも遠慮している。なのに自分達の見下している百合が隆臣のそばにいるのが気に入らないだけなのだ。
隆臣に近づきたいならば身分など気にせずいけばいいと思われるかもしれないが、彼女たちは怖いのだと思う。隆臣に冷たい言葉を投げ掛けられることを恐れている。
本当は私のことを慕っているわけでもないのだと思う。むしろ逆で嫌いなのかもしれない。それでも彼女たちの家より私の家の方が大きいことは事実で、文句を言えばどうなるかわからないと思っている。
私は文句を言われても怒ることはあっても彼女たちの家に告げ口するつもりはないけれど、彼女たちはそれを恐れてもいる。
結果、隆臣に近づくために私の取り巻きになるという道を選んだ。
私はわずらわしく思っても、どれだけ腹が立っても彼女たちを完全に拒否することも否定することもできない。
だって彼女たちの行動がわからなくもないから。
自分の力ではどうにもならないものに抗うこともできなくて、そんな中でなんとか妥協点を見つけて自分を無理やり納得させているのだ。
抗えないのは私も同じだ。
本当に嫌だったら何がなんでも婚約破棄を申し出て、認められないなら家出でもなんでもすればいい。でもそんなことをすれば途方に暮れてしまうこと、大変なことを私は知っている。だから逃げたくても逃げ出せない。私も抗うことが怖いのだ。
「いいから、放っておきなさい」
取り巻きたちは何か言いたそうだったが、諦めたらしく去っていった。
私の言葉がいつまで彼女たちに効くかはわからない。
このまま我慢させていればいつか爆発してしまうだろう。
だからといって隆臣のそばから百合を引き離すというのは私の計画を抜きにしても、人が口出しすることではない。隆臣が仲良くしたいなら仲良くすればいいと思う。そりゃあ百合が大悪党とかなら止めるべきだろうけど、百合はそういうのとは反対のタイプだ。悪いことできない。
強いて言うなら私は婚約者という立場から、女性と親しくすることに苦言を挺するくらいはしてもいいかもしれないけれど。
麗香なら口出ししに行くべきだっただろうか?
今までは口出ししなくても隆臣自身がはべらす人間は選んでいたし、私が何も言わないことにも、器が広いだとか余裕があるとか良い方に受け取られていたけれど、今回はそうもいかないのかもしれない。
難しいものだ。
私としては百合と麗香は対等で、百合と隆臣の仲のよさに麗香が潔く身を引くというシナリオを目指している。
決して百合に負けて取られたとかそんな感じになるのはさけたい。
そんなことになって神宮寺家がなめられでもしたら、いろんなところに迷惑がかかる可能性がある。
そのためには両親や取り巻きたちの望む麗香でいなければならないのだろうけれど、最近はちょっと嫌になってきた。
ま、でも頑張らないとね。




