第六話 気がかりな事
いよいよ自衛官候補生の試験を受けて
口述試験に挑むのだったが、
気がかりな事があったのだった……
俺は最後に口述試験を受けた。
口述試験を受ける時に米田さんから
幹部の試験官に質問されそうな事を
事前に聞いて面接練習を
してたのでこの口述試験も自信はあった。
しかし、俺はある事が気がかりでいた。
それは当時付き合っていた彼女の存在だ。
俺には付き合ったばかりの彼女がいたのだ。
彼女の身長は153㎝、髪型はセミロングで
スタイルは普通で胸はDカップ。
その彼女とは付き合って半年くらいになる。
俺は高槻に住んでいて彼女は門真に住んでいた。
歳は彼女の方が2つ下だ。
出会いは昔、俺達が小さい時に
ご近所付き合いで親どうしの
仲が非常に良かった。
年に一回ペースではあるが俺と母親、
彼女と彼女の母親で食事をする事があった。
そのため、最初は俺の事を
異性という目で見てはいなかった。
兄のような存在としてしか
見ていなかったのだ。
なぜかというと彼女には
俺と同じ学年の兄がいたからだ。
だから、余計に兄としてしか
見れなかったのだろう。
彼女と会う時はまだお互い
高校生という事もあり、
お金がなかったので普段は
家で会うかカラオケや
ウィンドウショピングに
行ったりしていた。
また、たまにお小遣いを
多くもらった時は遠出して
水族館に行ったりしていた。
彼女とは遠距離恋愛をしていた。
遠距離なので1ヶ月に1、2回
もしくは2ヶ月に1、2回
3ヶ月に1回という事もあった。
中々会えない分、お互いが
日を追うごとに好きになっていっていた。
かくして、付き合ったのだ。
連絡はEメールでやり取りをしていた。
某SNSアプリのL等が今ほど
普及していなかった当時、持っていた携帯は
スマホではなく、ガラケーだったので
連絡する手段はEメールか電話しかなかった。
しかし、お互いが恥ずかしがりやなので
電話はせずEメールだけでやり取りをしていた。
ガラケーなのでビデオ通話等が
出来なかったためどうしてもお互いの顔が
見たい時はお互いが写メを取り合って
Eメールで送信していた。
数ヶ月に数える程度しか会えない
俺達にとっては顔を見れる唯一の手段だった。
彼女から送られてくる写メは俺を元気づけた。
たとえ、学校で嫌なことがあったとしても
俺はその彼女の写メと彼女との
Eメールのやり取りだけで
翌日からの学校を頑張れた。
彼女に励まされていたのだ。
もちろん、彼女も同じ気持ちで
あった事だろう。
もし、試験に合格し採用されれば
もっと距離が離れて
さらに遠距離になってしまう……。
そうなれば、会う回数がさらに減ってしまう。
会う回数が減れば必然的に
気持ちが遠退いてしまう。
彼女はこれ以上距離が離れて
さらに遠距離になれば
絶対に反対だった。
そして、そう言う俺も
付き合ったばかりの彼女とは
別れたくはなかった。
当時は自衛官になりたい気持ちは強かったが
その反面、大切な人を
失ってしまうのではないか……
という恐怖が彼女と出会った時から
心の中の片隅にあったのだ。
そのため筆記試験を終えてから
口述試験を受ける事になっていたのだが
俺にはどうしてもその事が気がかりで
まともに質疑応答をする
自信がなくなっていたのだ。
そして俺は自分の席で
今か、今か……と待っていた。
俺の席の前列の受験生達が
ぞろぞろと自分の席から立ち上がって
面接室の目の前の椅子に座りだしたのだ。
大丈夫かなぁ……。
練習通りに答えられるかなぁ……。
いや、いつも通りなら大丈夫……!
きっと受かるはずだ…っっ!!
そう自分の頭の中で葛藤しながら
今か、今かと自分の名前が係りの
試験官から呼ばれる事を待っていたのだ。
それから20分ほど立つと係りの
試験官が試験場のドアの前に立った。
「……さん、南幸助さん。
……さん面接室の前に来て下さい。」
俺の番が来て俺がいる列と同じ列にいる
受験生達が数人ほど呼ばれたのだ。
そして、面接室の前に行くと
係りの試験官からすぐに説明を受けた。
「私が先に部屋を入り履歴書の方を
面接官に渡してから行いますので
私が部屋を出てどうぞと言ったら
ノックをして入ってください。」
そう係りの試験官に言われたのだ。
広報官から聞いていた通り、
今まで俺の面接練習に付き合ってくれていた
広報官の米田さんは下士官だが
面接をする試験官は
士官で1等陸尉だと聞いていたので
やはり、その事を考えると
緊張が最高潮に達していた。
そう考えているうちに
俺がこれから入る部屋から
面接を終えたばかりの受験生が出てきた。
「失礼致します!」
静かにドアを閉める受験生。
いよいよ、俺の番か……。
大きな声で「失礼します」
と言ってから部屋に入ってやる……!
「そうすれば、好印象になるよ!」
そう上田の父に言われていたので
俺は試験場にも響き渡る
大きな声で入室する事にした。
深呼吸をして気合いを入れた。
ノックをして入っていく試験官
右手には俺の履歴書と思われる物を
挟んだバインダーを持っていた。
ゆっくりとドアを開けて
入っていく係りの試験官。
十秒くらいしか立たないうちに
係りの試験官が部屋を出てくると
「どうぞ。」
と係りの試験官に静かな声で言われた。
すぐさま、席から立ち上がって
ドアの前に立った。
もう一度、軽くドアの前で深呼吸をした。
よし、いくぞっっっ……!
「失礼致します……っっ!」
俺は試験場で一番端で待機している
受験生にも聞こえる大きな声で入室していった。
入室すると静かに両手を使って扉を閉めた。
入ってすぐ前を見ると試験官が二人いて
試験官の前に椅子がポツンと置いてあったのだ。
すぐさま試験官に向かって
一礼すると椅子の横まで前へと進んでいった。
椅子の横に来るとそこでまた一礼をした。
すると椅子のちょうど
対面している試験官から
「それでは受験番号と
名前を教えて下さい……。」
幹部の試験官二人が俺にそう言った。
「受験番号3216番。
南幸助です!
本日はどうぞよろしく
お願いします……っっ!」
俺は大きな声でそう答えた。
「どうぞ、お座りください。」
そう試験官に指示を受け椅子に座った。
あごをひき、目線は試験官の方を
向いていて両手は握り拳にして膝の上に置いた。
席に着くとすぐに試験官が話始めた。
「それでは面接を始めたいと思います……。」
ゆっくりと俺の目の前にいた
試験官がそう言った。
「本日担当させて頂きます。
笹山と申します。
よろしくお願いします……。」
「お願いします!」
元気よくそう言って一礼すると
目の前にいた試験官の二人も俺に一礼した。
そして、面接が始まった。
「さっき入る時、声が出てたよ。
元気いいねぇ。」
「あ、ありがとうございますっっ!」
笹山1尉が笑った。
それから志望動機、長所と短所、
希望する所属、最近の社会情勢等を聞かれた。
緊張しすぎて淡々とは答えられなかったが
自分なりになんとか答える事が出来た。
「これで面接を終わります。」
そう試験官が話すと俺は立ち上がって
座っていた椅子の左横に立った。
「本日はありがとうございました!」
そう言って一礼して後ろを
振り向いてドアの前で立ち止まり、
もう一度後ろを振り向いて
面接官の方を向いて一礼した。
「失礼しました!」
そう言って静かにドアを開けて
そして、静かにドアを閉めたのだ。
そのまま面接が説明された
場所に行き、受付の試験官に面接が
終わった事を伝えると試験場の席に着席した。
自分の席に着くと
しばらく休憩していた。
面接が終わった他の
受験生達も休憩していたのだ。
ふぅーー。
終わったぁぁ!
そう思い、10分ほど休憩していると
俺の所に数人の受験生達が
向かってきたのだった……
第七話へ続く……
今でも鮮明に覚えています。
あの時は本当に緊張しました。
上田のお父さんや学校の先生達と
面接練習した時よりも
試験の時の面接はやはり、全然違います。
制服を着た幹部の自衛官に
本当に圧倒されます。
威圧感が半端ないです。
面接練習してて本当に良かったです。




