第五話 夢へ向かって
色々な人に支えられて
いよいよ試験を受けていくのだった。
一番早くにあった試験は
9月中旬に行われた一般曹候補生だった。
そして、一番早くに終わった試験もこの試験だ。
試験会場は大阪のとある大学で行われた。
試験は9時からお昼までだ。
教科は国語、数学、英語と
適性検査(クレペリン検査)と作文だった。
やはり、国語と英語はスラスラと
書けたのだが苦手な数学の問題になると
手詰まりしてしまい、
勘をたよりに問題を解いて終了した。
適性検査は計算問題はスラスラと
解けたのだが図面を同じ物を合わせる
問題等少し考えてから答える問題では
考えすぎて時間がなくなったため、
その問題をとばして
他の問題を解いていった。
作文ではスラスラと書く事が出来、
最後の行の2行手前まで書く事が出来た。
俺の印象では予想していたとおり
少し難しいといった試験だった。
次に航空学生の試験だった。
航空学生では広報官から聞いていたとおり、
難易度をS(激難)A(難しい)B(普通)の
3段階で表すとすると
難易度は最高クラスのSクラスになる。
それほど試験内容が難しいのだ。
教科は国語、数学、英語と
選択問題で地理歴史・公民・理科のうちから
1科目を選択する。
俺は地理歴史を選択した。
そして、操縦適性検査と言って
①飛行機の絵があって90度右旋回
180度右回転等をすると
どのような動きになるのを
4つの選択肢から選ぶ問題、
②操縦桿を起こしたり
倒したりした際の景色の
移り変わりを写真から選ぶ問題、
③水平儀から飛行機の動きを
読み取る問題、
④最初に示された飛行機向きと
同じ向きのものを
8方位から選ぶ問題等を
①から④の順番に解いていくのだ。
この問題はいかに制限時間内に
的確に解いていくかが問われるのだ。
いかに各教科の問題が得意と言う受験生でも
この操縦適性検査が出来なければ
不合格になってしまうのだ。
これが難易度がSクラスに入る理由だ。
試験が始まり午前は
国語、数学、英語の順に解いていった。
最初は国語だった。
国語はスラスラと出来て
少し早いペースで次の数学に移った。
相変わらず数学は苦手で
なかなか解けずにいたのだが
他の教科と操縦適性検査で
挽回すればいいと思っていた。
俺はとにかく答えを埋めて
次の問題の英語に移った。
英語は分からない所が
いくつかあったが勘をたよりに
問題を解いていった。
次の午後の部では選択問題の
地理歴史からスタートした。
もともと得意な教科では
あったのだが範囲が広いため
苦戦してしまった。
1から4までの記号選択問題なので
数学のようにそこまで悩む事はなかった。
そして、次にこの試験の一番の
難関である操縦適性検査が始まったのだ。
ついに航空学生の試験の中で一番の
難関である操縦適正検査が始まったのだ。
この問題を解く時に
広報官が教えてくれたコツがある。
それは「勘」だと言うのだ。
それを聞いた時、俺は思わず開いた
口が閉まらなかった。
そう言葉を失ったのだ。
しかし、同時にそれほど
難しい問題だと言うことを理解した。
そう言う事があり、俺は
勘を便りに問題を次々に解いていった。
問題を解いていくうちに
自信がついてきて迷うことなく
解いていったつもりだったのだが
見直しをするうちにこうだったかな?
いや、あーだったかな?
とこっちが正しいのじゃないかな??
いやいや、こっちの方が正しいはずだっっ!
と言った戸惑いが生じてしまい
自分が出した答えに自信が
持てなくなってしまっていた。
見直しをしてもそう言う気持ちに
なったので最初に問題を解いた。
勘を便りに俺は筆記用具を
置いて試験終了を待ったのだ。
そして、試験は終了した。
俺はこの操縦適正検査が難関だと
言う事の意味を肌で感じた時だった。
次に受けた試験は自衛官候補生の
試験は10月末頃に受けた。
この試験は国語、数学、社会の
3科目と作文、口述試験、
身体検査から構成されている。
この試験自体は他のどの試験よりも
難易度は低く至って簡単に出来ているのだ。
なぜなら、試験に合格し採用されれば
最下級の階級から始まるからだ。
対照的に言うと防衛大学校、航空学生等の
試験で合格し採用されればいきなり
幹部の道が開けられるのだ。
そのため難易度は極めて高いと言える。
自衛官候補生の試験が始まった
最初はもちろん、国語、数学、
社会の3科目からだ。
俺にとってはこの試験では勉強は
いらないと言うくらい
また、今までの試験よりも
最速かつスラスラと問題を解いていった。
時間内に余裕で解けたのだ。
そのため見直しをしながら
解く事が出来たのだ。
次は作文だ。
作文はいつも通りにスラスラと書いていき、
最後の二行手前まで書くとペンを置き
試験終了を待ったのだ。
次は身体検査だった。
身体検査は予めもらった自分の名前が
記載された身体検査表が配布される。
その後、医務室に移動して
その字の通り身体検査を行う。
自衛隊の身体検査では少し込み
入った所まで身体検査を行うのだ。
学校では体操服を着ながら行うのだが
自衛隊の身体検査ではパンツ一丁で行う。
込み入った身体検査とは……
衛生科の自衛官がじっくりと
一人ずつ受験生達を検査するのだ。
例えば、刺青を体に入れていないか?
手術等大きな傷をしていないか?等を
検査する事だ。
待ち合い室の椅子で座って待っていると
俺は緊張がピークになっていたため
誰かと話したくなってきたのだ。
突然、自分から話しかけるのもなぁ……
とそう思っていた矢先
そんな俺の気持ちが通じたのか
もしくは相手もそう思っていたのか
隣に座っていた受験生が話しかけてきた。
「さっき、ちらっと紙拾った時
見たんやけど……茨木事務所から来たん?」
俺は身体検査表の用紙を
その受験生の近くに落とした時に
その受験生に拾ってもらったのだ。
「うん……。そやで?」
「あ、やっぱり!そっかぁ……。
ほな、一緒やんっっ!」
「も、もしかして……
隈本勇気!?」
「おう!そやで!」
米田さんからは事前に
同じ事務所、同じ試験場で
そして同い年の隈本勇気という
人物が受けるとは聞いてはいたが
本当に会うとは……
驚きと喜びで半々だった。
同じ事務所という事が何よりも心強かった。
それまでお互い物静かに検査を
待っていたのだが同じ事務所という事で
お互いに意気投合し、自衛隊を目指した経緯、
好きな趣味、希望する所属、
さまざま事を話した。
「へぇ~~、なるほどなぁ……。
まぁ……辛かったかもしれんけど
そんな奴らお前が強くなって
見返したれ……っっ!」
そう言って俺を励ます、隈本。
「ありがとうっっ!」
今まで不安な気持ちでいっぱいだった
俺はこの隈本の言葉で
救われたような気持ちになった。
隈本にその言葉を言われた瞬間、中学時代の俺を
励まして支えてくれた及川を思い出した。
隈本と及川は俺には重なって見えたのだ。
その後、身体検査が終わった
俺達は服を着て試験場へと向かった。
試験場に戻ってきた所で
隈本は係りの試験官にすぐさま
面接室に呼ばれた。
俺は自分が呼ばれるまで試験場の
自分の席にて待つ事になったのだった……。
第六話へ続く……
まもなく、
自衛隊入隊編が始まります。
皆様、お楽しみに!