第三十一話 入隊式当日
本木は制服の合格を貰えない中、
入隊式の予行練習当日を迎えた。
周囲はもうだめだと思っていた
その時……。
入隊六日目の朝になった。
この日は一日中、
入隊式の予行練習をするようだ。
だが、俺達は皆、本木の制服が
縫えていない事を心配していた。
上岡が真っ先に
本木にこう言った。
「おい、本木!」
「お前、今すぐに
自分の制服を見ろ!」
上岡がそう言うと本木は
ロッカーを開けて自分の制服を見た。
すると、本木は
嬉しそうにこう言った。
「実は自分で
気づかなかったんですが……」
本木がそう言って
上岡に制服を見せた。
「こ、これ……!?」
「縫えてるやんけ!」
上岡は驚きながらそう言った。
「縫ってもらっていた
みたいなんです……。」
本木が恥ずかしそうに
左手で頭を抱えながらそう言った。
「そうなんか!?」
上岡はまた驚いてそう言った。
実は数分前に
こんなやり取りがあった。
俺達は朝の点呼に行って
部屋に帰ってくると
入山班長と村中班付が
部屋の奥で待っていた。
その帰ってくる途中に
上岡だけトイレに行っていた。
「本木、ちょっと……。」
手招きをしながらそう本木に
話しかける入山班長。
「今すぐに制服を縫え!」
入山班長が本木にそう言った。
本木は慌ててロッカーを開け、
制服を取り出した。
「……!!!」
自分の制服を見て固まる本木。
「本木、制服見せてみろ。」
その入山班長の言葉を聞いて
はしごの横にハンガーで
制服をかける本木。
入山班長は定義で制服に
縫われている名札と
自候生の階級章を図った。
すると一言、
こう言った。
「合格!」
「やったぁーー!」
本木は嬉しそうに
そう言ってガッツポーズをした。
「本木、お前、
誰がやってくれたか分かるか?」
神妙な面持ちでそう本木に
話しかける入山班長。
「分かりません……。」
笑顔でガッツポーズを
していた本木の表情が
一変してそう答える本木。
「俺と村中や。」
「えっっ……!」
入山班長の
言葉に驚く本木。
「……!!!」
その場にいた俺達も
それを聞いて驚いた。
「確かに見たとき、
なんか変だとは
持ったんですが……。」
本木がそう言うと話を
聞いていた新山が
本木にこう話しかけてきた。
「本木、お前よかったな!」
「班長達にちゃんとお礼言うとけよ!」
「は、はい!」
本木と新山がそう会話をすると
本木が入山班長にこう言った。
「入山班長、村中班付……。」
「あ、ありがとうございます!」
本木が入山班長と村中班付の方を
見ながらそう感謝の
言葉を述べたのだ。
「俺はいいよ。」
「それより、村中が一番
やってくれたから
ちゃんとお礼言うとけ。」
入山班長が本木にそう言った。
「村中班付、
ありがとうございます!」
「お前、俺夜中まで
徹夜でやってんからな!」
「この、アホぉぉ!」
「すいません……。」
村中班付と本木が
そんな会話をした。
「ハハハハハハ……。」
その様子を聞いていた
俺達は笑っていた。
その後、上岡はトイレから
部屋に戻ってきたのだ。
そんな出来事があり、
この日は入隊式の
予行練習があった。
明日は入隊式という晴れ舞台。
両親が来てくれる……。
そう思い、胸を踊らせながら
この日は眠った。
朝になった。
入隊七日目。
いよいよ、
入隊式当日を迎えた。
朝の準備を終えると
0715(まるななひとごぉ)に
早々と生活隊舎前に
小銃を搬出するため
制服姿で集合した俺達。
すぐさま、向かうと
本管隊舎の裏口に着いた。
取り締まりが武器係に
報告すると俺達は一班から
順番に中に入っていった。
四階の武器庫に着くと
俺達は自分の
小銃を取っていった。
すると、佐藤班長が
安全点検をすると言うので
スライドを開けろと言ってきた。
見よう見まねでなんとかやると
佐藤班長は必ずトリガーを
触るなと言ってきたのだ。
しかし、ここでトリガーを
引いてしまう同期がいた。
引いてしまい、もちろん弾等
入ってはいないが引いた音が
皆に聞こえてしまったため
堤下班長に思いっきり両頬を
つねられながら
こう言われていたのだ。
「誰が引けって言った?
死にたいんか?お前は!?」
「いででっっ……。」
そんな同期の様子を
間近で聞いていた俺達は
びくびくしながら安全点検を
するため列に並んだ。
列に並ぶと今度はスライドの中が
よく見えるように
銃口を斜め上にした。
「安全装置よし!
薬室よし!」
「安全装置よし。
薬室よし!」
カタカナで『ア』と
書いてある安全装置の所に
レバーが向けられているか
指差し呼称をして佐藤班長と
同じ言葉をいっていく俺達。
堤下班長にじろじろと見られながら
自分の番は今か、今かと
皆の様子を見ながら待っていた。
すぐに俺の番がやってきた。
「安全装置よし。
薬室よし!」
「安全装置よし。
薬室よし!」
よしっっ!
ちゃんと言えた。
これで大丈夫……。
ほっっとした
その時だった……。
「……!!!」
俺の右足がドアに当たったのだ。
すぐに皆の視線が
俺の方に向けられた。
「おいっっ!南!」
堤下班長が俺に話しかけてきた。
やばい!
と思った俺は咄嗟にこう言った。
「すいません……。」
目線を下に向けたままそう言った。
すると、堤下班長は
俺にこう言った。
「お前、ちゃんと前を見ろよ。
気ぃつけろ!」
堤下班長はぐっと俺を
睨みつけながらそう言ったのだ。
「は、はいっっ!」
俺はそう返事をすると逃げるように
そそくさと階段を降りていき、
初めに来た本管裏口に向かった。
数分待って皆が揃うと
取り締まりの指揮の元、
皆で64式小銃に『タ』の文字で
表記されている単発の方に
レバーを向けると銃口を
斜め上に向けた状態で
一斉に空撃ちをした。
そして、すぐに安全装置に
レバーを戻して銃を持った
状態の気をつけの姿勢
『立て銃』になった。
立て銃とは64式小銃の
銃尾部を地面につけた状態で
足にくっ付けるように
置いた姿勢の事。
銃を持った状態で気をつけを
行う時はこうするのだ。
その後、堤下班長が
目の前に来て
俺達にこう言った。
「控えぇぇ~~つつ!」
堤下班長は控えつつの姿勢を
取るように俺達に命令した。
控え銃とは立て銃の
姿勢から胸の前で30度角度を
付けて抱える事をいう。
銃を持って走る時に行う姿勢の事。
堤下班長が俺達の横に
立ってからこう言った。
「前ぇぇ~~、進めっっ!」
堤下班長がそう言うと俺達は
食堂側を取ってプレハブ小屋の
第一教室に向かい始めた。
すると堤下班長は
歩調を取り始めた。
「左、左、左、右。」
「左、左、左、右。」
「ひだぁぁ~~り、
ひだぁぁ~~り、
左、右。」
「ソーレイ。」
俺達が歩調を取り始めた
その時だった……!
「お前ら、
もっと、大きい声だせっっ!」
「今日は入隊式やぁ!
出せっっ!」
堤下班長が俺達のかけ声に
納得できなかったのか、
そう怒鳴り声を上げながら
俺達にそう言ったのだ。
「……!!!」
「はいっっ!」
慌てた俺達は
すぐさま、そう言って返事をした。
すると、堤下班長が
また歩調を取り始めた。
「左、左、左、右。」
「左、左、左、右。」
「ひだぁぁ~~り、
ひだぁぁ~~り、
左、右。」
「ソーレイ!」
俺達は大きな声でそう言った。
「左、左、左、右。」
「左、左、左、右。」
「歩調ぉぉ~~、数えっっ!」
「いち、に、さん、しっっ。」
「いち、に、さん、しっっ。」
「歩調ぉぉ~~、数えっっ!」
「いち、に、さん、しっっ。」
「いち、に、さん、しっっ。」
「左、左、左、右。」
「左、左、左、右。」
「左、左、左、右。」
「左、左、左、右。」
ここで生活隊舎を通りすぎた。
「連続歩ちょぉぉ~~……」
「ちょ~~う、ちょ~~う、
ちょ~~う……」
「数えっっ!」
「いちっっ!」
「ソーレイ!」
「にっっ!」
「ソーレイ!」
「さんっっ!」
「ソーレイ!」
「しっっ!」
「ソーレイ!」
「いちっっ!」
「おいっっ!」
「にっっ!」
「おいっっ!」
「さんっっ!」
「おいっっ!」
「しっっ!」
「おいっっ!」
「いち、に、さん、しっっ。」
「いち、に、さん、しっっ。」
「左、左、左、右。」
「左、左、左、右。」
ここで体育館の所に着いた。
「はやあぁぁしっっ、
進めっっ!」
堤下班長が俺達にそう言った。
そう言うと俺達は
早歩きをし始めた。
「右向けぇぇ~~止まれ!」
右向け止まれで止まると
整頓した俺達は「別れ!」の
号令で体育館の中へと
入っていくのだった……
最終話へ続く……
次回でいよいよ、最終話になります。
最後までお読み頂ければ幸いです。




