第二十一話 つかの間の喜び
教育隊舎に戻ると作業服を
縫う事になるのだった。
教育隊舎に戻るとトイレ休憩を
とってからすぐに自分の名札を
作業服に縫い付ける所から始まった。
俺達はRVボックスに座りながら
粛々と縫い付け作業をし始めた。
縫い付け作業をし始めると
共に作業服に名前を書き始めたのだ。
作業服は毎年使い古された作業服を扱う。
そのため、以前作業服を来ていた
隊員の名前が書いてある。
その名前を上から二重線で
なぞってその下に自分の
名前を書いていくのだ。
さっそく縫い始めようと
持参した裁縫道具を開けて
針を右手に持ち、針の輪っかに
糸を通して縫う準備をした。
その時に上岡達が話し始めた。
「はぁ……。なんで俺が
こんな事せなあかんねん。」
左手に作業服、右手に針を
持ったまま、ため息をつく上岡。
「ほんまですわ!女でもないのに。」
辻が目の前にある二段ベットの
下から覗き込む形で上岡にそう話した。
「ほんま、それやわ。
なんで、自分で縫わなあかんねん!
ミシン使ったらすぐやんけ!」
「兄さん、ほんまそれですわ!」
上岡達の会話に周囲の同期達は
気持ちが分かったのか、
皆、相槌をうっていた。
その上岡達と会話を聞きながら
俺は作業服を縫っていた。
玉止め、玉結び……。
懐かしいなぁ。
そういやぁ、家庭科の授業で
やったなぁ……。
そう物思いに更けながら作業を
していたその時……!
助教達が突然、
二班の部屋に入ってきた。
突然の助教達の訪問に皆、
驚きながらもすぐに座っていた
RVボックスから立ち上がって
助教達に向かってこう言った。
「お疲れ様ですっっ!」
俺達は元気よく助教達に挨拶をした。
挨拶をした時に助教達の顔を
見てみると入山班長と村中班付だった。
助教達が戻ってくるやいなや
入山班長が俺達に話かけてきた。
「お前ら、
今、どんな感じや(作業服の事)?」
入山班長がそう言うと上岡が
すぐに入山班長にこう言った。
「班長、俺ら
こんなんせなあかんのですか?
ミシンで縫った方が早いのに……。」
とやる気なさそうに下を
向きながら班長に話しかける上岡。
すると、班長は
「まぁ、自分で
なんでもやるのが自衛隊やからな。」
「あ、そうそう!」
班長が思い出したように
こう言った。
「縫いにくかったらピンで
止めてから縫ってもいいぞ!」
班長はそう言い、ピンを持つと
実際に俺達にやって見せた。
なるほど、あれなら少しは
楽かもしれないと俺達は
そう思うと実際に縫い始めた。
30分立っても、1時間立っても
上手に縫う事は出来なかった。
なぜなら、縫おうとすると
ピンで中途半端に
止めてるだけなのでどうしても
ピンで止めている布で出来た
ネームプレートが動いてしまうのだ。
俺達は縫い物の作業で
悪戦苦闘していると時間が
あっという間に過ぎてしまい、
終礼の30分前になっていた。
「全然縫われへんやんけ……。
もう、腹立つわぁぁーー!」
「あぁーー、このちんたら
ちんたら縫うの腹立つ!」
上岡と辻がそう言って
頭を抱えながら
苛立っていると入山班長が
部屋に入ってきた。
「二班、終礼行くぞ!」
「はい!」
入山班長の呼び掛けに
そう元気よく答えると俺達は
急いで作業服や裁縫道具を
片付けて終礼に行く準備をした。
終礼を行うため、屋上に
着いて周りを見渡すと
一区隊以外はまだ誰もいなかったのだ。
俺達はすぐに班ごとに並び始めると
ぞろぞろと他区隊が
屋上に集まり始めたのだ。
一区隊が無事に並びおえた頃に
他区隊が集まり始めた。
この時の時刻は終礼開始まで
後、20分だった。
そして、全区隊が無事に
集まったのだが毎度のように
遅くくるのが教育隊本部の隊員達だった。
俺達は
早く、来いよ!
何してんねん!?
と心の中で思いながらも決して
口には出さず、ただじっと
休めの姿勢で教育隊本部の隊員達を
待ち続けた。
ようやく全員が揃った時刻も
終礼開始の10分前だった。
それから、数分立ってから
運幹が屋上に到着し、終礼が始まった。
「連絡事項!」
運幹がいつものようにそう言うと
武器担当の桧山三曹が
手を上げて中央に立ってこう言った。
「明日から武器搬出をすると
思いますがくれぐれも新隊員に
銃の点検をさせるようにお願いします。
以上です!」
桧山三曹が言い終えると運幹に
整体してから敬礼して自分の
持ち場に戻っていった。
この一言を聞き、俺はこう思った。
やった!
念願だった銃を触る事が
出来るなんて……。
俺は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
もちろん、ほとんどの新隊員は
単純に武器に触れると言う事を聞いて
嬉しい気持ちになっていたのだ。
だが、そう喜べるのも
今の間だけだったとは誰もが
予想だにしなかっただろう。
そんな事になっているとは
露知らずに俺達は素直に
武器に触れる事を喜んでいた。
そして、全区隊での終礼と
国旗掲揚が終了した後に区隊毎の
終礼になった。
「右ぇぇ~~ならぇっっ!」
区隊長がいつもの一区隊の
終礼の場所で俺達を整列させていた。
「直れっっ!」
「休めっっ!」
区隊長がその号令を言うと
俺達は区隊長に注目しながら
休めの姿勢になった。
「いよいよ、明日からだ。
お前達が銃を触る事が出来るのは。」
「よかったな。嬉しいだろ?」
区隊長が俺達にそう問いかけた。
「はいっっ!」
区隊長の問いかけに
元気よく答える俺達。
「詳しい事は佐藤班長が教えてくれる。
佐藤班長にしっかり聞くように。」
「はいっっ!」
区隊長の問いかけに元気よく答える俺達。
「終わり!」
区隊長がそう首を立てにふって
頷きながら終礼が終了した
報告を俺達に伝えた。
「気をつけぇぇ~~!」
取り締まりが回れ右をして
俺達に「気をつけ」の号令をかけた。
「事後の行動にかかります!」
取り締まりが回れ右をして
区隊長の方を向くと
区隊長にそう言った。
取り締まりが再び、
回れ右をしたその時……!
佐藤班長が俺達にこう言った。
「休めっっ!」
佐藤班長のその言葉に
俺達は休めの姿勢になった。
「区隊長から言われたとおり、
明日からは銃の分解結合を
していく事になる。
明日から武器係と言う係が
俺の所に何時に報告に来るかを
調整するように。」
佐藤班長からそう言われた
後すぐに班ごとに終礼をすると
部屋で休憩してから食事に向かった。
武器係とは銃を搬出する際に
武器庫の前にて隊員達の
所持している銃の安全装置と
照門を確認したり、
銃を搬出する際に班長に
区隊の隊員達が銃を搬出する
時間を調整して班長や取り締まりに
報告したりする係の事。
この時の食事はもちろん
早く食べなければいけなかったが
体が慣れてきたのか、
気持ちに余裕が出来て食事を
取るのが楽しくなってきていた。
それは俺だけではなく、
皆もそうだった。
ただ、そうではない者もいた。
それは元から食べるのが
遅い者達の事だ。
宮原と原田はまだ自衛隊の
食事方法に慣れずにいたのだ。
いつも通り、宮原達が
食べ終えるのを待ってから
食堂を出て自分達の部屋に戻った。
部屋に戻るまではどこか不安は
感じていても昨日と同じように
過ごせるなら有意義に過ごす事が出来る!
そう思っていた。
この時までは……!
だが、さらに過酷な出来事が
待ち受けているとは
思ってもいなかったのだ。
そう、忘れもしない
あの『三日目の悪夢』を!
第二十二話へ続く……
いつも「自衛隊列伝 兵士の記憶」を
お読み頂きましてありがとうございます。
第一部は今回でラストになります。
ここまで、皆様に応援して頂き、
お読み頂けるとは本当に
嬉しく思っております。
ここまで書く事が出来たのは
紛れもなく応援して頂いた皆様、
いつもこの小説をお読み頂いている
皆様のおかげです。
本当にありがとうございます(*´ー`*)
第二部、開始は
7月末か8月中旬になると思います。
第二部の方もよろしくお願いいたします。
そして、皆様、
これからも作品共々
よろしくお願いいたします(´∇`)




