第十九話 連続歩調
俺達は基本教練の訓練を終えると
駆け足をする事になるのだった…
一区隊長が一区隊の俺達に号令をかけた。
「右向け、右!」
区隊長がそう言うと旗手が
急いで最右翼へ駆け足で行った。
それと同時に前にいた助教達は
急いで後方に回って俺達の
基本教練を観察し出した。
「五歩、前へ進めっっ!」
区隊長が五歩前へ俺達を進ませた。
「右ぇぇ~~、ならぇぇ!」
右へならえの号令で俺達を
整頓させてから区隊長は
俺達に休めの号令を
かけてからこう言った。
「今日から基本教練をしていく。
お前達にとって、最初の訓練だ。
しっかりと班長の事を
覚えていくように!」
区隊長はゆっくり俺達を
見つめながらそう言った。
その区隊長の言葉を聞いた
俺達は『はい!』とすぐに
大きな声で返事をした。
後は堤下班長から話をすると
言って俺達の前にいた区隊長が
俺達の後ろに移動したのだ。
すると、堤下班長が
俺達の目の前に現れた。
どうやら、この広場で行うみたいだ。
堤下班長の指揮の元、
基本教練の訓練が始まった。
一時間半ほど行っただろうか。
ひたすら右向け右、回れ右等の
基本訓練を行っていた。
そして、トイレ休憩を挟んでから
堤下班長の指揮の元で駆け足で
駐屯地を一周してから
帰る事になったのだ。
整列して並び終えた
俺達はすぐに出発した。
「駆け足、進め!」
堤下班長がそう言うと
俺達は走り始めた。
「左、右、左、右!
ひだぁぁ~~り、
ひだぁぁ~~り、左、右!」
堤下班長はかけ声を出した。
その直後、すぐに俺達は大きな声で
習ったばかりのかけ声を出した。
「ソーレイ!」
「左、右、左、右!
ひだぁぁ~~り、
ひだぁぁ~~り、左、右!」
「ソーレイ!」
そういうかけ声を三度ほど
繰り返しながら、進んでいくと
すぐに目の前に坂道が見えてきていた。
そこで堤下班長はかけ声を変え始めた。
「ほちょおぉぉ~~~、数え!」
「1(いち)2(に)3(さん)4(し)。
1(いち)2(に)3(さん)4(し)。」
「ほちょおぉぉ~~~、数え!」
「1(いち)2(に)3(さん)4(し)。
1(いち)2(に)3(さん)4(し)。」
俺達は駆け足で坂道を
登りながら大きな声でそう言った。
「左、右、左、右!」
堤下班長が俺達の歩調を
揃えるためそう言うと
また新しいかけ声を出した。
「俺が今から言う言葉を
復唱して大きい声で返事をしろよ?
じゃないと何周でもさせたるからな!
分かったか??」
堤下班長は俺達の顔を
睨みつけるように見渡しながらそう言った。
俺達は堤下班長の言葉に
身震いしながらもすぐに
『はい!』と大きな声で返事をした。
すると、堤下班長のかけ声が始まった。
「今日は」
「今日は」
坂道を登りきると今度は
目の前の坂道を下りながら復唱する俺達。
「今日は」
「今日は」
「楽しい」
「楽しい」
「楽しい」
「楽しい」
「駆け足」
「駆け足」
「駆け足」
「駆け足」
「するぞ!」
「するぞっっ!」
「するぞ!」
「するぞっっ!」
「声が」
「声が」
「声が」
「声が」
「まだまだ」
「まだまだ」
「まだまだ」
「まだまだ」
「小さい!」
「大きいっっ!」
咄嗟に俺達は反対の
言葉でそう返した。
「小さい!」
「大きいっっ!」
「小さい!」
「大きいっっ!」
「準備は」
「準備は」
「いいか?」
「いいよっっ!」
その堤下班長の問いかけに
俺達は大きな声でそう返事をした。
「いいか?」
「いいよっっ!」
すると堤下班長は前を向き直して
かけ声を続けて出した。
「左、右、左、右!
ひだぁぁ~~り、
ひだぁぁ~~り、左、右!」
「ソーレイ!」
「左、右、左、右!」
「ほちょおぉぉ~~~、数え!」
「1(いち)2(に)3(さん)4(し)。
1(いち)2(に)3(さん)4(し)。」
「ほちょおぉぉ~~~、数え!」
「1(いち)2(に)3(さん)4(し)。
1(いち)2(に)3(さん)4(し)。」
「連続ほちょおぉぉーーーーー、
ちょう、ちょう、
ちょう、ちょう、数えっっ!」
「1(いち)」
「ソーレイ!」
今度は助教達が
『ソーレイ』と言い始めた。
「2(に)」
「ソーレイ!」
「3(さん)」
「ソーレイ!」
「4(し)」
「ソーレイ!」
「1(いち)」
「おい!」
「2(に)」
「おい!」
「3(さん)」
「おい!」
「4(し)」
「おい!」
「1(いち)2(に)3(さん)4(し)。
1(いち)2(に)3(さん)4(し)!」
「左、右、左、右!」
「左、右、左、右!」
ここで堤下班長は俺達の
歩調を揃えた。この時、1つ目の
坂を下った辺りで少し小さな
坂道に入ろうとしていた。
そして、この時、一番後ろにいた
一班の同期が一人だけ俺達の
列から遅れて走り始めた。
その同期のすぐ後ろから
見守りながら並走していた
一班の班付がその同期に気付いたのだ。
一班の班付は奮い立たせよう
と罵声を浴びせ始めた。
「おい、お前だけ
遅れてるけどいいんか?
皆、頑張って走ってる中で
お前だけ抜けてもいいんか?」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。」
その同期は走るのに
必死で答えられずにいた。
「おいっっ!答えろや!
いいんかって?」
一班の班付はその同期を
睨みつけながら怒鳴ったのだ。
その事に気付いた堤下班長は
走っている俺達にペースを落とさせ、
その同期を俺達の隣まで
引っ張って連れてきてからこう言った。
「おい、こいつ元気ないってよ。
お前ら、声かけたれや!」
堤下班長がそう言うとその言葉を
聞いた俺達は一斉に
その同期を励まし始めた。
その同期とは後に一班の
『エース』と言われる亀田である。
年齢は23歳。学歴は大卒だが
一年フリーターをしてから
自衛隊に入隊した。
身長は158センチと一区隊で
一番小柄である。
運動神経は極めて悪い。
そのため一班の『エース』と言われ、
皆からはからかわれている。
自衛隊での『エース』の
意味は民間で言う実力のある人ではなく、
班の中で一番何も出来ない人
という意味なのだ。
しかし、持ち前の明るさで
ものともしないタフさを
しているため一班の中では
人気者なのだ。
あだ名は見た目からか
某有名アニメに出てくる
『山のフドウ』。
「頑張れや!
皆、しんどいんじゃ!
お前だけ、ちゃうねんぞ!」
「頑張れーーーーー!」
「腕振れーー!
必死に振れーーーーー!」
俺達は皆で必死に
亀田を励まし続けた。
しかし、三分ほど立っても
俺達の列に戻れないのを
見た堤下班長は亀田を
一班の班付に任せて
俺達を引き連れて再びかけ声を
かけて前に進み始めた。
「ちょう、ちょう、ちょう、
ちょう、もういっちょおぉーーーー!」
もう一度、堤下班長は
二回連続で同じかけ声をかけた。
「1(いち)」
「ソーレイ!」
「2(に)」
「ソーレイ!」
「3(さん)」
「ソーレイ!」
「4(し)」
「ソーレイ!」
「1(いち)」
「おい!」
「2(に)」
「おい!」
「3(さん)」
「おい!」
「4(し)」
「おい!」
「1(いち)2(に)3(さん)4(し)。
1(いち)2(に)3(さん)4(し)!」
「左、右、左、右!」
「左、右、左、右!」
この時、小さな坂道を下りきって
左前方にはナンバー中隊
(1中隊~5中隊の総称)の
生活隊舎が見えていた。
「ちょう、ちょう、ちょう、
絶好ちょおぉぉーーーー!」
さらに引き続き、堤下班長は
三回連続でかけ声をかけた。
俺はこの時、まだやるのか?
と思うほど走り疲れていた反面、
不思議とそんな体とは裏腹に
気持ち的にはもっとだ!
もっとかけ声をくれよ!
来いよ!堤下!
そういう思いで俺もかけ声を
出し続けた。かなりの
興奮状態にあったからだ。
「1(いち)」
「ソーレイ!」
「2(に)」
「ソーレイ!」
「3(さん)」
「ソーレイ!」
「4(し)」
「ソーレイ!」
「1(いち)」
「おい!」
「2(に)」
「おい!」
「3(さん)」
「おい!」
「4(し)」
「おい!」
「1(いち)2(に)3(さん)4(し)。
1(いち)2(に)3(さん)4(し)!」
「左、右、左、右!」
「左、右、左、右!」
俺達は広場の右端に来ていた。
右前方には本管中隊の隊舎が見えていた。
「ほちょおぉぉ~~~、数え!」
「1(いち)2(に)3(さん)4(し)。
1(いち)2(に)3(さん)4(し)。」
「ほちょおぉぉ~~~、数え!」
「1(いち)2(に)3(さん)4(し)。
1(いち)2(に)3(さん)4(し)。」
「左、右、左、右!」
「左、右、左、右!」
「俺達」
「俺達」
「俺達」
「俺達」
「7普連」
「7普連」
「7普連」
「7普連」
「精強!」
「精強っっ!」
「精強!」
「精強っっ!」
「精強!」
「精強っっ!」
「精強!」
「精強っっ!」
「ひだぁぁ~~り、
ひだぁぁ~~り、左、右!」
「ソーレイ!」
「左、右、左、右!」
「左、右、左、右!」
この時、俺達は教育隊の
隊舎前に着いていたが
一周ほど回っていた。
「早足、進め!」
堤下班長は俺達をかけ足を
止めさせてから
『早足、進め!』の号令をかけた。
俺達は教育隊の隊舎前で
ゆっくりと歩き始めた。
「左、左、左、右!
左、右、左、右!」
堤下班長がそう言って
俺達の歩調を合わせようとした。
「左、向けぇぇ~~止まれ!」
堤下班長の号令で俺達は
左を向いて止まった。
「単間隔に整頓する!
右ぇぇ~~、ならえっっ!」
堤下班長の号令で
右へならって並んだ。
その直後、『直れ!』の
号令から『休め!』の号令を
かけられた俺達は午後からの
訓練指示を言い渡された。
それは、俺達新隊員や助教達の
自己紹介を売店で改めて
行ってから部屋に戻って
支給された作業服を縫うと言うのだ。
やっと作業服が着れるんじゃないか?
と言う興奮が湧いてきていた。
しかし、縫い物等中学や高校の時の
家庭科の授業でしかした事が
ない俺にとっては不安だった。
なぜなら、ベットの角度や
髭の剃り残りを一本、一本
確認したりするのに縫い物を
チェックする時に急に
甘くなったり等あるはずがない
と思っていたからだ。
そして、俺達は取り締まりに
解散させられて部屋に戻って
昼飯を食べる時間まで待とうとした
その時だった……!
俺達が着いた頃に亀田と
一班の班付が待っていたのだ。
亀田も俺達の列に加わって
解散したのだが亀田は堤下班長に
呼ばれてその場に残らされたのだ。
ここで何をするかもう分かると思う。
そう、それは腕立て伏せだ。
まず、堤下班長にビンタされてから
罵声を浴びられた亀田は
その場で腕立て伏せをし始めた。
亀田以外の一区隊の皆は
亀田の腕立てふせを固唾を
飲んで見守っていた。
その時、一班の同期の一人が
堤下班長を睨みつけながら
その様子を見ていた。
近くにいた一班の班付が
解散させられて部屋に戻ろう
としない俺達を帰らせようとこう言った。
「お前らは早く、戻れ!」
一班の班付が大きな声で
話したためすぐに堤下班長が
俺達の様子に気づき俺達の
目の前に来てこう言った。
「お前らもあいつみたいに
腕立てしたいか?
したくないなら俺の気が
変わらんうちに、はよ戻れ!」
静かな声で俺達を
睨みつけながらそう言ったのだ。
俺達はその言葉にびびったのか、
我先にと部屋に戻っていった。
階段をかけ上がって二階に
着いた途端に堤下班長の
腕立て伏せの回数を数える声が
聞こえてきていたが、
皆知らないふりをして
部屋に戻っていくのだった。
第二十話へ続く……
この出来事が自衛隊で言う
「青春」という出来事だと私は思います。
私はこの連続歩調の駆け足、
大好きでした。
部隊配属してからも中隊や小隊で
よくやってました(´∇`)




