傭兵の話
それは休みなく降り続いた雨の日だった。ただでさえ、鬱蒼とした空間だからこそ電気を付けなきゃ何も出来ないほど。
「うっそー、鬱々しちゃうぞー」
「変にダジャレを言って空気を冷やすな。寒い」
相変わらず明るくバカをする姉レモンに対して、寒くなり腕を擦るクールな弟ライム。正直なところ、物書きを目指して勉強しているライムなら未だしも、あのレモンが鬱蒼という単語を知ってることに衝撃を受けていた。しかも続けざまに鬱々なんて言い出してる。コンボ攻撃だとソファーの背もたれに後頭部を付けた。
「スルーフお出かけ、退屈ー」
「仕方がないだろ。飯を調達するのにコンビニなんかねぇんだから」
「作っちゃう?」
「どうやってだよ。客来ねぇよ、品ねぇよ」
ないもの尽くしだと作る意味すらないように思える。けれど現代っ子である二人にとってコンビニはなくてはならない存在だった。
いつでも欲しいものが買えるコンビニエンスストア。
「お菓子食べたい」
「ジュース飲みたい」
「弁当食べたい」
「クジ引きたい」
「アイス食べたい」
「コピー機使いたい」
「カップ麺食べたい」
「漫画本読みたい」
「近くのコンビニ潰れた」
「二十四時間明るく」
「プリン消えた」
「深夜の騒音も消えた」
「あれ、たまに煩いよね。搬入だから仕方がないけど」
「潰れたから聞けないけどな、もう」
コンビニのことを互いに話していたら、どんどんと近場にあったコンビニの話をし始めた。
よく利用していたコンビニが今では別店舗となるのはお約束だ。しかもその次の店舗があまり利用しない店舗だと辛すぎた。
「昔に食べてた檸檬のタブレット、もう売らないのかな」
「姉ちゃん舌がおかしくなるほど食ってたな。あれ酸っぱいだけで何が美味しいんだよ」
「美味しいもん。舌がぶっ壊れる感じが楽しい」
「そんな楽しみ方許さない」
まともな楽しみ方をしないレモンは満足げな顔をしているが、昔にライムが寝てる時にこっそりと口の中に入れられて死にかけたことを未だに根に持っていた。
「あれ以外の酸っぱいお菓子、満足出来ない」
「刺激が欲しいって危ない考えだな」
「でも今は我慢してるよ。偉いっしょ?」
「はいはい」
「ここんとこ酸っぱいの食べてないなぁ。もうミント系でも良いかな」
「お腹がゆるくなるから止めれ」
「止められない止まらない。上も下もか」
「下品禁止」
万能ポシェットの中にお菓子がたくさん入ってはいるが、まったく酸っぱいものは入っていない。金平糖やらキャンディやらの甘い砂糖菓子は入ってはいる。
「こんぺーちゃん食べる?」
「食う」
「色んな色があるんだねー、こんこんこんぺー、どうして甘いのー」
「歌うな」
チャック付の金平糖、封を開けてライムにも差し出す。甘いものも嫌いじゃないレモンと違って、ライムは得意じゃないため何故か食べた。
久しぶりに子どもの頃以来に口に含むと、優しい砂糖の甘さが鼻をくすぐった。
「スルーフってすごい。コピー料理人だよね」
「ああ、確かに」
「頑張って、あたしたちの世界の食べ物真似てるし。この全世界料理百科……レシピあるし」
「なんで入るのかツッコミは野暮か?」
「やぼやぼ。野望を込めて、おにぎり、だな次。文字読めるの便利だ」
万能ポシェットから取り出した少しどころか分厚い料理の写真が載った百科辞典。レシピもあるが、材料は揃わないだろう。
ただ写真があるからこそ、完成のイメージはつきやすい。元々、料理の得意なスルーフはこの本が欲しいと言い出した。
「ってか見てるだけで腹が減る」
時間が時間ならばお腹が鳴りまくるほどに美味しそうな写真が載っていた。この本は三桁は余裕でページがあるが、実際に食べたことがあるのは良くて二桁だろう。世界の料理が載ってるため、見たことのないものが多かったりする。今だけでもお腹が鳴っているほどに写真の撮り方が上手なのだろう。
「あれ、客?」
まだスルーフが帰ってこない。それなのに扉をノックする音が聞こえた。家の主人は外出中のため勝手に出るのは止せ、なんて言葉を浮かぶはずもないレモンが扉を開けた。
「いらっしゃーい」
「……」
「す、すみません。呼ばれてはないのですが」
「雨タラタラだもんなぁ。入りなー」
「主人じゃないのに勝手に……」
「良いの良いの。スルーフ優しいし、何より美男美女が犯罪の匂いを漂わせるわけないし」
「なんだその差別」
「贔屓だよー」
「どっちもダメだっての」
「……あの」
困惑としてる二人。漫才の如く、離れた場所で言い合う姉弟二人。屋根のない玄関にて、雨でずぶ濡れとなる来訪者。
中に入れると一人が頭を深々と下げる。
「ご迷惑にならない時間で構いませんが、雨宿りさせてもらえないでしょうか?」
「イイヨー」
「だから勝手に……」
「たぶん、すぐに止むよ。さっきより雨風が弱くなってるし」
「すみません」
「……はいタオル」
「ありがとうございます」
文句を言いながらもライムは二人のためにタオルを持ってきた。レモンは暖炉の前へと二人の背中を押し進めた。
「いやぁ、愛の逃避行ですか?」
「内情に踏み込むなよ、姉ちゃん」
「あ、あの……」
「違う。こいつ男だから。女に見えるよな」
「ほわあ! どーりで声が低い。まあ低い人いるから気にしてないけど」
セミロングの金の髪はサラサラとしていて手触りが良さそうだ。中性的で男女どちらともとれる容姿。
ずっと無口で警戒していた短い黒髪の背の高いイケメンがレモンの明るい性格に警戒を解き話し始めた。
「俺も初めて会った時に女だと思ったくらいだ」
「へぇ……。二人の関係は? やはり愛の逃避行?」
「だから生い立ち聞くなよ。さっき否定してたじゃん」
「すみません。ご迷惑をかけることになるので」
「? おおっ、わけありですな。じゃあ名前だけでも。あたしレモン、この子弟の」
「ライムっす」
「リーフです。彼は用心棒のロイ」
「……きょうだいだぁ? なんの冗談だよ」
「マジなんだよねぇ。嘘みたいな真実」
「ロイ、助けてくれた方を疑うのは失礼ですよ」
美人さんがリーフ、用心棒がロイ。ロイは用心棒っぽく、腰に銃のような物を下げている。左利きなのか左側にあるが、使う様子がないのか取り出しにくそうだ。
「すっげ、ホンモノそれ?」
「気になるのか?」
「ああ。一度撃ってみたかった。なあ、ここにいる上で罪になると思う?」
「ここじゃ、元の世界の法律は届かないよ。飲酒も良いよ、きっと」
ダメです。良くないです。規則としては認めません。促進してはいけません。
「絶対に小さい時に興味本位に口にしたことあるよね」
「姉ちゃん、ウィスキーボンボンでめちゃくちゃ泣いてたらしいな」
「そんな小さい頃、覚えてませーん」
「バレンタイン来る度に両親が言うから俺鬱陶しく思ってた」
「二日酔いしなかったんだよね、意外にも」
「強いんだか弱いんだか」
物心つく前後なのだろう。もう時効だ。
「今、時効なくなったけどね」
「姉ちゃん、自ら首を絞めてくスタイルに変更したの?」
「何それマゾじゃん」
「……何だか愉快な姉弟ですね」
バカを言い合う姉弟にリーフは優しそうな目付きで見つめた。その様子に気付いたレモンは何ともないように聞いた。
「お人好しって言われたことない?」
「そんなことないです」
「行く国、行く国で言われてる」
「そっ、そんなことないですよ」
「騙されてるのに、こっち金ねぇのに恵みやがって」
「それであの人が救われたのですから良かったんです」
「聖人君人だっけ」
「聖人君子……だよな、きっと」
「マサヒトくんだね!」
「何でそうなる! せめてマサトじゃないか?」
「マサトくんの子どもね」
「……話についていけねぇ」
ロイは暴走する姉弟に頭を抱えた。色んな国を回ってきた彼としてはハチャメチャなこの二人は未知との遭遇だ。ただ興味津々に話を聞かなかったことに安堵はしていた。
「……」
「ん? どした」
「……何でもない」
「ここを発ちますか?」
「たつ!?」
「姉ちゃん、変なこと考えただろ。この変態」
「いやん。ライくんの言葉攻め」
「……どうしたらこの人に勝てる」
何をしても暖簾に腕押し。精神が強すぎるのか勝てる見込みがなかった。だからといって、姉に暴力で勝つなんて卑怯な手段はするつもりはないようだ。
「もしかして、追われてるのか?」
「禁断愛故に? 好きでない人との結婚式で身分違いの愛に勝てず手と手を取り逃げたとか」
「遠からず近からずなのがムカつくな」
「は!?」
自分で言っときながらロイが曖昧に濁した言葉に驚くレモン。困ったように妄想すべきか悩んだが結局は止めることにした。流石に空気は読めるようだ。
「……とある国の研究所で働いていたんです」
「急なSF」
「ロイは敵国の優秀な部隊の隊長だったんですよ」
「何でまたこんなことに」
「おまえさっきお人好しだと話していただろ」
「うん……?」
ロイは思い出すように遠くを見つめていた。どこを見てるんだとレモンも後を追わせたが天井に人の顔のようなシミを見つけてしまった。
何日か何ヶ月か前のこと。科学技術の発達した国の奥深く。たくさんの白衣を着た研究員たちが闊歩していた。
何事もなく一日が終わろうとしていたある日、それは突如として起こった。
警報のベルが鳴り響き、研究員たちは逃げ惑うように走り回る。ところどころ悲鳴やら銃声やらが聞こえていた。
「……いったい何が」
白衣を着てメガネを掛けていたリーフがメガネを外してキーボードを打ち、モニターを監視カメラに切り替えた。
軍服に身を纏った男たちが、銃を持って侵入している。
「リーフ、逃げろ。敵国の軍が来た」
「なんでまた」
「そりゃあ科学技術を盗むためだろ……っ」
部屋に入ってきた男は知り合いだったのか逃げるように言ったが、途端に廊下の奥を見つめて息を飲んだ。何発かの銃声が鳴った。繋がったように聞こえたため、一発のようだった。
真っ白だった白衣が赤に染まる。リーフは男に近寄り扉から離すように引っ張った。
「しっかりしてください!」
「……逃げろ」
じんわりと広がっていく。必死に手で押さえていくが男の息は荒く不規則になっていく。そして扉が開かれた。
「おまえはここの研究員か?」
「……あなたが、撃ったのですか」
「……」
入ってきた軍の男は質問をしたきり何も話さなかった。この男こそ未来で傭兵となるロイだった。
「隊長、ほとんどは片がついたようです」
「そうか」
「じゃあ、一人だけで良いな」
ロイは倒れた男を看病をするリーフに近寄ると目線を合わせるために屈むとリーフの額に銃を突きつけた。彼の目線の端っこに倒れてる男を捉えた。
「一人だけ無事なら良い。退け、そいつを殺す」
「っ……嫌です」
「そいつは守るに値する男か? どんな関係だ」
「……同僚ですけど」
「それだけか?」
「人を救うのに理由も理屈もありません」
「……おまえお人好しって言われないか?」
「?」
リーフは不思議そうに首を傾げる。お人好しと誰もが言うが何故なんだろう、といつも疑問に思っていた。
「私にとって大事な人なんです。家族のようなものなんです。この施設のみんなは」
「それで自らの命を減らしてもか?」
「それで後悔はしません。守れなかった方が辛いです」
「……」
命を奪うだけの仕事をしてきた自分とは真逆の考え方。真っ直ぐとした瞳にロイは少し考え事をしていた。
そして考え終えると突き付けていた銃を下ろした。そして立ち上がった。
「他に生き残りがいないか調べてこい」
「はっ」
ロイは部下に命令をして部屋から追い出していた。そして部屋の中にはロイとリーフと倒れた同僚しかいなくなった。
「焼き尽くしてしまえば分からなくなるな」
「……え?」
「逃げるぞ」
「どうして」
「人を殺すだけの人形にだって、魂が宿ることもあるんだよ」
「……私はいけません」
「今ここで逃げなきゃ、おまえは何をされるか分からないぞ。実験台にされたり、自白剤飲まされて精神を壊されるかもしれない」
「……」
「リーフ……逃げてくれ」
「っ……」
「頼む……たの、む……た」
「しっかり! 目を覚まして……覚ましてください!」
必死なリーフの声も虚しく同僚は息を引き取ってしまった。残されたリーフは俯き下唇を噛み締めていた。
「……泣くことも出来ない私は、残忍なのでしょうか」
「……逃げるぞ。こいつの願望のためにもな」
「……はい」
リーフはロイに言われるがまま立ち上がる。その一方で銃を使いコンピューターなどを破壊し始めた。
「これからどうする」
「分かりません」
「……逃げるしかねぇよな。おまえのことは俺が守ってやる。命にかえてもな」
話を終えたロイは視線をリーフに向けた。
「やっぱり愛じゃないかー」
「姉ちゃん、興奮しすぎ。でもさ、それだけで命を張って守るって考えられねぇ」
「そうだな。でもな、守りたいと思う気持ちは時にとんでもないことを起こすからな」
「んっとねー、敵国というか、ロイの軍隊に狙われてるんだー」
「ああ。俺は裏切り者だし、リーフは技術を詰め込んだ脳がある」
「だから、あなたたちを巻き込む訳にはいかないんです」
「巻き込まれてから言いやがれーってな」
「じゃあ巻き込まれるか?」
「ん?」
急な騒音が訪れた。何人かの足音が聞こえたが雨音が酷すぎて聞き取りにくい。
窓の外をライムが覗き込むと、軍隊が並んでいるのが見えて顔を真っ青になっていた。
すぐには攻め込んで来ないところを見ると、何かの策があるのだろうか?
「ロイがいるからでしょうね。彼は腕利きですから」
弾丸の確認をするとロイが扉の横に立ち窓から外の様子を見る。
リーフは外から見えないように腰を下げてライムの疑問に答えるように一人呟いた。
「ねえ、ライくん。あれ片付けてよ」
「流石に無理だ姉ちゃん!」
実践経験のあるエリートの軍人たち相手に戦えるはずもないライムはレモンの言葉に首を何度も横に振った。流石に相手が悪すぎる。
「二人に怪我はさせません。いざとなったら、私が……出ていきます」
「……うーん」
リーフなら間違いなく出ていくだろう。けれど、ロイの話を聞いていると捕まったら何をされるのか分かったものじゃない。
「よっし。お姉さんに任せなさいな」
「……レモン?」
「幼女が飛び出てきたらビックリするっしょー」
「危ないです」
唐突に立ち上がったレモンにリーフは困惑とした表情を浮かべる。いつもとんでもない発言をするレモン、今回は軍人に突撃するつもりか?
「だいじょーぶ。幼女は死なないのだ」
「若干メタいけど……、どこから湧いてくるそのポジティブ」
扉に近付くレモンにライムは今日何度目かの頭痛。けれどレモンはすぐに足止めを食らった。その相手はロイで肩に手を置かれ動けずにいた。
「ラ行制覇寸前!」
「は?」
「ルがいねぇーって。いれば良いのに」
「急すぎて付いていけない」
「ライム、リーフ、レモン、ロイ……ほら、ルがいない」
「いや今めっちゃ緊迫してんだけど」
「ということで突撃ぃぃぃ!!」
「こらっ、てめぇっ」
モゾモゾと動いている上に、急に話を切り替えることによりロイは手を離してしまった。その隙を狙いレモンが家を飛び出してしまった。銃の雨を浴びるわけにもいかず顔を出すことが出来ず扉が閉まっていくのを見てることしか出来なかった。
「……こども?」
「てへっ」
「おいガキ。この辺りに二人組の男を見なかったか?」
「こんな辺鄙なとこに人なんか来ないヨ!」
「……本当か?」
軍隊の一人がレモンに銃を突き付けた。けれど表情を一切変えることはしてなかった。本物と思ってないのか、撃つとは思ってないのか冷静だった。
火薬の匂いがする。おそらく本物だし撃つのに躊躇いはないだろう。
「なに……してるんです」
聞き慣れた声がした。けれどその声はいつもより低かった。
木々の密集で屋根となって雨は体に当たることはなかった。少し雨模様がおさまってきたのかもしれない。
「何者だ」
全身真っ白のスルーフが野菜を袋いっぱいに詰め込んだものを腕に抱えていた。
フードに隠れた怪しいオーラで包まれたスルーフに一瞬怯えを見せていた。
「レモン、何事ですか」
「なんかー危ない人たち来襲してきた」
「……ほう」
少しの沈黙。スルーフはどこか怒ってるような素振りを見せるが、表情が分からないため判断は出来そうにない。
「レモン、これを持っててくださいますか」
「うん? わかったよー」
スルーフに近寄り、彼が持っていた荷物を手にする。瑞々しい野菜たちが重量感があり美味しそうだった。この世界でも野菜なのか未だに分かりそうにない。
彼はレモンを庇うように前に立った。
「この土地に何の用でしょう」
「おまえには関係ない」
「俺たちは逃亡者を探しに来ただけだ。二人組の男だ」
「心当たりありませんね」
「いーや。この辺りにいるはずだ」
「大人しく引き渡せば命だけは助けてやろう」
「……勝手に人の敷地に入り込んで何を言ってるんですか」
スルーフは静かに怒っている。平静を装ってるが、言葉の節々が時々、荒々しくなる。
スルーフが戦える姿を見たことのないレモンは首を傾げる。見た感じは強者キャラっぽいのだけど。
軍隊たちがスルーフに集中しているタイミングで、数回の銃声が聞こえた。銃を持っている利き腕らしき場所から血が出ていた。
「俺たちを捜してるんだろ。関係のない民間人は狙うんじゃねぇよ」
「……くっ」
「知らない顔ばかりだな。違う部隊か。まっ、そんなことはどうでも良いか」
銃のグリップの底を使いリーダーと思われる男を気絶させた。他の人たちは出血量から気絶をしてる様子だった。
「レモン、彼らは?」
「愛の逃避行してた美男美女のロイとリーフだよ」
「姉ちゃんの言ってることで合ってるの名前だけ」
「……ロイ」
「大丈夫だって。殺しはしないから」
「はい……」
「それよりこいつらどうする」
このまま放置するのは危険すぎる。だからといって運ぶ手段のない森の中。どうすることも出来ない。
「お友達に頼んじゃいましょう」
レモンはニッコリと人差し指を立てて答えた。他の人たちは意味が分かっていないため首を傾げていた。
「いつ、お友達になったんだよ」
「……すごい。巨人が言うことを聞くなんて」
ライムはレモンの言葉に噛み付くように反応をし、リーフは今の現状に驚いていた。
現在、レモンの呼びかけに集まった巨人たちがグルグルに縛った軍人たち乗せたリヤカーを引っ張っている。
そのリヤカーにはレモンとライム、ロイとスルーフが乗っている。
「……それを使いこなしたいのか?」
「うーん。カッコイイけど、使いこなすのは無理そうだな」
「それで良い。持たずに済むならそれに越したことはない」
ロイの持っていた軍人たちの武器をライムが見つめていた。必要な分だけ手にして後は薬莢などを外して処分していた。
「これからどうするの?」
「このままだとレモンたちに迷惑をかけてしまいます。すぐに新しい国へ旅立ちます」
「こいつらは?」
「……どっか遠いとこに捨ててくさ」
レモンの問いにリーフが、ライムの問いにロイが答えた。少し家から離れていった。雨も止みキラキラと葉に溜まった雫がポタリポタリと落ちていく。
「さて、二人はそろそろ降りてください」
「そうだな。色々とありがとな」
「……また、遊びに来てくれる?」
「はい」
「そういうとこ見せると、きちんと女らしいんだな」
「失礼だなぁ。これでも十代後半だし」
「……本当に不思議な話です。そんなに年が変わらないんですね」
「何歳なの?」
「二十代、ということにしておいてください」
時間の流れは変わりがないようで、ライムは年相応に見えてロリ化したレモンは不相応に見えている。ライムとレモンはリヤカーから降りると、空気を読んだ巨人は大人しく動かなかった。
「リーフ、ロイ。いつでも遊びにおいで。お友達を連れてきても良いからね」
「それはお友達じゃねぇけどな」
「俺、あんたたちが今度来る時までに強くなってみせる。窓際で飛び出せずにいた俺を払拭する」
姉に先を越されてしまったこと、怯えて窓から見てることしか出来なかったこと、色々とライムの中で苦い経験となっていた。
「少しは弟のこと考えてやれよ」
「いつも考えてるよ!」
「ちげーよ。あいつも男なんだ。守られてばっかは嫌なんだよ」
「……」
「無茶すんなよ」
「うん、頑張るよ。たぶん」
ライムに聞こえないようにロイがレモンにこっそりと話した。きっとその願望も無意味になってしまうだろう。
「では。ありがとうございました」
「じゃあねー」
再び動き出したリヤカー。姿が見えなくなるまで手を振った。
雨が上がり、少しだけ気温が下がりはじめてきた……。