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謎の人の話

「そういえば」


 ふとレモンは早朝に目を覚まして隣を見たが、相変わらず早くに起床してるせいかスルーフはいない。窓の外を見たら薄暗い。やはり山の中の方だからか朝が暗くて起きた気がしない。


「……うむ、ぬくもーりはない」


 スルーフがいたであろう布団を触ってみたが全然暖かくなかった。起きてから時間が経っているのだろう。


「うぉっ、さむっ。布団から出たくないよう」


 今日は特に冷ている。唯一出している顔も寒いため潜ることに決めた。もう出たくないと温かい布団で引きこもることに決めた。そして思い出した何かを忘れたのだった。

ノックもなしに扉が開き、そのレモンの様子を見て無言になり近付いて更に様子を眺めた。


「レモン、起きなさい。朝ですよ」

「……」

「まったく。何してるんです。窒息しますよ。ライムが言ってましたが、本当に変態でしたか」

「なっ! ちょっと! 酷くない? 初めての毒舌。なにこのエス! あたしが変態なのはライムだけにだし」


 上半身を起こした。布団から体を出したが寒さのあまり顔だけ残して毛布にくるまれた。その様子にスルーフはクスッと笑っていた。


「起きましたね」

「そりゃあ起きるよ。変態って言われたら。あたし、スルーフには手出ししてないし、しないし」

「……しても構いませんよ」

「は?」

「冗談です」

「だよねー。そんなこと言われても困るし、面倒だし」

「……」


 変なことだとレモンは一瞬だけ固まったが、冗談だと聞いた瞬間に安堵の息を吐いたが、スルーフは無言となっていた。




「ロリコンかよっていう」

「?」

「あたし今、子どもだから」

「……子どもではありませんよ」

「へ?」


 自分の姿を見下ろした瞬間、言葉を失った。キャミソールもどきの薄着に膨らみ二つ。パツパツと窮屈そうな体躯。丈が短くヘソが丸見え。通りで特に寒く感じたのだろう。


「もしかして、あたし戻ってるー!」

「……のようですね」

「うぇー、嬉しくない。戻ったのなんかイヤー」

「どうしてです?」

「だってさ、大人間近なバカみたいな行動って痛々しい。幼女だから許されてるし」

「自覚してたんですか」

「もちろん」

「なら、なぜ続けるのです」

「えー、何でだろう。つまんない人生を楽しく生きたいから?」

「軽いノリで意外と……」


 レモンはニコニコと笑っているが薄着のせいか、くしゅん、と鼻がムズムズしてくしゃみが出ていた。


「着てください。風邪を引きますよ」

「……え」


 スルーフはずっと隠すために使っていたローブを脱ぐとレモンに被せた。ラフな格好のスルーフの顔を見れたのはレモンだけで、そのレモンもまたローブを引っ張られ視界が塞がった。スルーフの綺麗な手が離れていく。


「……ぅぅ」


 もう少しその顔を見たいと小さく悩むように呻くと顔を上げた。


「もう着てるし」


 もう一着あったのかスルーフはすでにいつも通りの姿になっていた。きっとタンスから取り出したのかもしれない。


「スルーフ」

「はい?」

「あったかい。スルーフの温もりを感じる」

「変態」

「だあもうっ!」

「服を探しましょう。合うサイズがあれば良いのですが」


 そして部屋を出たスルーフにレモンはぼんやりと外を見た。結露で外の景色は見えにくい。

素足のまま床に足を付けて扉に向かう。

足元の露出が生々しく、まるで彼氏の上着を着て下半身を露出させてるような色気がある……と自覚した。


「は? なに言ってんのスルーフ」

「ほら、見てください」

「……姉ちゃん、なに戻ってんの」

「いやぁ、なんか急に戻ってて。たぶん、すぐにちっこくなるよ」

「なんで平然とメタいこと言ってる」

「そうそうスルーフってね」

「レモン、内緒です」

「……そう? 分かった」


 スルーフの顔についてライムに話そうとしたが、スルーフが口元に指を添えて魅惑的に口角が上がったためとりあえず黙ったが、ライムはそんな二人に疑問を持った。




「あ、ねこたんたちにご飯の準備しなきゃ」


 そう言って立ち去ったレモンを見てからライムが目を据わらせてスルーフに近寄り睨んだ。滅多に見せないような敵意に、スルーフも少し飲み込まれた。


「まさかとは思うけど、姉ちゃんに惚れてはないよな」

「……まさかの話なら、まさかで終わるよ」

「だよなぁ。あんなブラコンの変態を好きになる物好きがいるなら見てみたい」

「……そう茶化した風に話してますが、あなたも大概シスコンですよね。奪われたくないんでしょう?」

「……どう捉えても」


 読書を再開するつもりでソファに戻ったライムは、ニヤリと笑ったような、妙な表情をしていた。

読まれたことに楽しく思われたのか、図星なのを誤魔化すためか。


「本当に、読めない姉弟ですね」


姉は姉で天真爛漫で、底抜けに明るく何を考えてるのか分からない。

弟は弟で無愛想で、静寂なほどに感情の起伏はなく、時々冷酷になり、考えが読めない。


似ていて非なり。


「……単純かも、しれませんね」


 彼女の明るさに助かった部分もあった。ずっと静かな部屋が、彼女らが来て変わってしまった。もちろんそれは、嫌なものではなく自分の中で美しく変わったものだと思う。


「ふぁ、なんか変に目覚めたから頭が覚醒しない」

「暖炉に薪をくべたのですが、もう少し近付いてください」

「スルーフのローブの中に入れば温かいよ」

「それは止めろ」

「それは止めてください」


 さすがに大問題となりそうな事柄に、二人は揃って止めた。恋人でもないのに、一つの衣服に入るなんて……二人羽織りじゃないか。


「今から薪の準備をしてきます。食事を先に済ませててください」

「あたしも手伝おうか?」

「いえ、女性にさせる訳には。それに、そんな肌を露出してる中でやらせる訳にも」

「生足が問題か」


 スルーフは困ったような声を出してから、すぐに外に出ていってしまった。家の暖房はリビングにある薪のストーブで補っている。薪がなくなったら大変。

発電機はあるがストーブがないため、悩み中。


「電気ストーブとか、扇風機とか貰えばよかったに」

「その語尾はなんだ。だいたい、ここは山なんだから暑いってことはそうそうないだろ。むしろ心配は寒いとこだ」


 姉弟だからこそ、スルーフが大人レモンに対しての反応が変わったことに気付いた。大人といっても高校生だけれど、今までの姿からしたら大人だ。

一人の女性として気にかかるのも仕方がない。こんな辺鄙なところに一人で過ごす変わり者。異性との出会いが少なければ尚更。




 レモンが話した通りに昼になる頃には元通りとなっていた。この場合は元通りというのも語弊があるのだが、この世界では元通りで違いない。


「雨ガッパみたい」

「小さな子どもが雨にはしゃいでるみたいだな。それが黄色かったら」

「ライくんって時折ロリコンだよね」

「それおまえが言うか?」

「あたしは同性だからセーフ」

「アウト」

「……まじで!? 可愛いって思うの罪!? イエスロリータ、ノータッチだよ!」

「……時々、本当のアホになるよな」


 なぜか否定の言葉を言わなかったライムはもしかすると、もしかするだろうか。

ただ見た目で勝ちなところがあるため、清潔感有り余る爽やかイケメンの言葉に引くものはいない(単純に、ここに姉以外の異性はいない)と断言しようと思う……。


「ああでも、ミリアとかにモテても反応しないって枯れてない?」

「……してないとでも思ってるのかよ」

「してるの?」

「あれが寝起き隣にいるの想像してみろ」

「……襲いたくなるね」

「……だろ」


 綺麗なお姉さんは大好物ですか?

あんな薄着で、豊満なボディーを見せられて、自分を溺愛して。


「どこのラノベのラブコメですか」

「平然としてる風を装うのもキツいからな」

「いい匂いするし。あんな香りを出す女性になりたい。セクシーとキュート、どっちがタイプなの!」

「急に歌ネタ出すな」

「ライくん、どっちなの!」

「どっちかと言えば、清楚。おまえとは真逆のな」

「ひーどーいー」


 相変わらずの絶好調な二人に、スルーフは見守るようにして様子を眺めていた。時々、薪割りした薪をくべて火が消えないよう番もしている。


「スルーフはどっち?」

「うーん、どちらでしょうね。好きになった方が好みですから」

「あいまい!」

「みーまいん」

「なんのネタだっけ?」

「英語だろ。ネタじゃねぇし」

「そっか」

「……それだけか」

「あ、そうそう。そういえば、スルーフメインって今回初めてじゃない?」

「だからメタい。どこに繋がりあっての言葉なんだ」


 最初の言葉をようやく思い出したことがメタ発言。最初に会った人なのに、ずっと彼だけ後回しにされていた。


そして、扱いも雑でこの話はここで終わる。

彼の顔を唯一見たレモンしか、その顔を表現出来る者はいない。ただ反応からして、悪くはないのだろう。


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