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鉱山貴族ニッカルと眉無し側近,

「シルバー姫は、とても念入りに魔力を封じられています。

 これは私の想像ですが……。

 元婚約者の第二王子や大神官より魔力の秀でたシルバー姫は、奴らの地位を脅かす邪魔者と判断されたかもしれません。

 それから旦那様、シルバー姫様は女神ではなくデストロイヤーです」


 ティンの言葉は、誰かに話を聞かれるのを恐れ小声になり、主人カーバンはそれを聞き逃した。

 そして勘のいいシルバー姫は、ねちっこいカーバンの視線に気付くと、扉の方を振り返る。


「ああ、カーバン様。

 とても素敵なドレスをありがとうございます。

 奴隷に身を落とした私は、もう二度とドレスを着る機会はないと思っていました」


 扉の方へ向かって歩みながら優雅にお辞儀をするシルバー姫に、カーバンは思わず感嘆のため息を付いた。

 最近の貴族令嬢は礼儀を知らないという話をよく聞くが、シルバー姫の仕草には品性を感じられる。


(俺の慧眼に間違いはない、この姫は本物だ。

 しかし何故誰も、シルバー姫の美しさに気づかない?) 


 千人力のシルバー姫は床を踏み抜かないように慎重に歩いていたが、それがカーバンには優雅な仕草に見えた。


「思った通り、シルバー姫には青紫のドレスがよく似合う。

 その場でくるりと一回転して、後ろ姿を見せてくれないか?」


 カーバンに言われた通り、シルバー姫は軽やかにドレスを翻しながら後ろ向きになった。

 流れ落ちる銀糸の髪の隙間から、眩い白さの背中が見え隠れする。

 

「おおっ、まるで闇夜を切り取ったようなドレスを身に纏う、君はまるで月の女神のようだ。

 俺は今、究極の美をここに……ぶはっ!!」

「えっ、どうしたのですか? カーバン様」

「シルバー姫、ご心配なさらずに。

 旦那様は少し、頭に血が上ったようです」


 ティンは興奮しすぎて鼻血を吹いたカーバンの鼻を素早くをハンカチで抑え、駆け寄るシルバー姫を制した。

 生まれた時からカーバンの世話をするティンは、主がシルバー姫にどんな妄想をしたのか丸分かりだ。


「旦那様、さっき私が申し上げた話を、全然聞いていませんね。

 シルバー姫は、千人力の腕力を持つ破壊者デストロイヤー

 そんなイカガワシイ目つきで彼女を見て、うっかり無体を働いたら、自分の背骨をへし折られる覚悟が必要です」

「そ、それは、分かっているけど、やっと巡り会えた理想の女性が俺の目の前で微笑んでいるんだ。

 彼女を見て興奮するなって、無理な話だよ」


 カーバンたちが部屋の隅でもめている様子を、シルバー姫は不思議そうに眺めていた。




 するとその時、客間の扉が乱暴に開け放たれて、胸にニッカル家の紋章が刺繍された執事服の男が現れる。

 眉の無いニッカル家の家令は、シルバー姫を見るといきなり怒鳴りつけた。

 

「カーバン様の御様子を見に来てみれば、汚らわしい大罪人の奴隷がまだ屋敷に居座っていたのか。

 奴隷は用が済んだら、さっさと外に出て行け!!」


 鉱山領主ニッカルの側近を務める眉無し男は、広場の騒動時は館にいてシルバー姫の活躍を知らない。

 なので客人カーバンが、いきなりボロ布をまとった娘を貴族の屋敷に連れてきたのが気に食わなかった。

 しかし眉無し側近の後ろから現れた鉱山貴族ニッカルが、のんびりとした口調で話を遮る。


「ちょっと待て、なんで側近のお前が勝手に彼女を追い出そうとする。

 細腕姫はカーバン殿の命の恩人だ。

 それに細腕姫のおかげで、俺も貴重な魔法石の鉱山を失わずに済んだ」

「しかしニッカル様、この娘は刑期八十年の大罪人です。

 それに巨人王の盾を持ったとか、岩山を砕いてカーバン様を助けたとか、そんな話信じられない。

 きっと魔法を使ったカラクリで、我々を騙そうとしているのです!!」


 額に青筋を浮かべて怒鳴る側近を、貴族ニッカルは煩そうに眺めると、下がれと命じた。

 改めてシルバー姫が貴族ニッカルに挨拶をすると、彼は王都で流行りの青紫のドレスを見て両手を叩いて喜ぶ。

 

「さすが大貴族のご令嬢は、流行りのドレスが似合う。

 そう言えば鉱山奴隷の連中は、あんたを細腕姫と呼んでいるぞ。

 王都の連中は罪人をここに送り込んでくるが、鉱山は地獄だが牢獄じゃない。

 鉱山には一攫千金の夢があり、そして実際大金持ちになった連中も多い。

 決められた仕事のノルマをこなせば、後は何しても自由だし、俺を儲けさせてくれる働き者は大歓迎だ。

 それからカーバン殿も、ワシの領地に店を出してくれるなら三ヶ月と言わず一年、いいや一生ここに滞在してもかまわないぞ」


 一見するとがさつな田舎領主風だが、実はかなり商売上手な貴族ニッカルは、早速カーバンのスカウトを試みる。

 そしてガハハと大笑いをすると、妻子がカーバンに会いたがっていると告げて部屋を出ていった。

 部屋の隅で大人しくしていた眉無し側近は、主がいなくなると再びシルバー姫に詰め寄る。


「ニッカル様はそうおっしゃっているが、俺は元大貴族でも手加減はしない。

 この貴族屋敷は富と名声を手にした、高貴な者だけしか出入りできないのだ。

 汚らわしい奴隷女は、さっさと出てゆけ」

「でも私はここを追い出されて、どこに行けばいいのでしょう?」

「広場の塀の外には、奴隷が泊まれる宿屋がいくらでもある。

 お前の着ているドレスを質屋で売り払えば、一週間分の宿代くらいになるんじゃないか」


 どうしても屋敷からシルバー姫を追い出したい眉無し側近の様子を見て、ティンがある提案する。


「それでは私たちがこちらに滞在する三ヶ月の間、彼女に衣食住を提供しましょう」

「シ、シルバー姫に衣食住を、ということは、俺と彼女は寝起きをともに……ぶはっ!」

「ああっ、またカーバン様が鼻血を流していますっ」


 ティンの話を聞いて、カーバンは妄想を堪えきれず鼻血を流す。


「旦那様はまだ体調が宜しくありませんので、こちらで休ませてください。

 私とシルバー姫は、宿の手配をしてきます」


 そしてティンはカーバンを残し、シルバー姫を連れて部屋を出てゆく。

 眉無しの側近は、最後まで忌々しそうにシルバー姫を見ていた。


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