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巨人王の盾,

 銀の髪にコバルトブルーの瞳、クラシカルな薄桃色のドレスを着た姿はまるで天使のようなシルバー姫が、石の詰まった袋を片手で軽々と持ちあげる。

 それは力自慢の大男でも、やっと持ち上げられるほどの重さだった。


「この程度の重さなら、片手で袋三つぐらい持てそうね」

「なんだアンタ、魔法使いか!!

 いや、刑務官は魔力を封じていると言ったな」

「俺たちより小さくて細いくせに、なんて力持ちだ」


 男たちのうろたえる様子とは裏腹に、シルバー姫は片手で持った袋の重さを確認する。


(驚いたわ。大きな石が、食パン程度の重さしか感じない。

 これなら一度に沢山の石を運べそう)


 戦士千人分の腕力を持つシルバー姫なら、この程度の石運びは子供の砂遊びのようなものだ。

 ぎっしりと石を詰めた袋を四個軽々と持ち上げたシルバー姫を見て、鉱山奴隷からどよめきの声があがる。

 しかし先祖代々この地で鉱山を営んでいた貴族ニッカルだけは、シルバー姫の力に心当たりがあった。


(まさか、こんな華奢な娘が巨人族の力を持っているのか?

 でも古い血筋の大貴族ならあり得る話だ。

 もしかして第二王子サルファーは、娘の力を恐れて辺境の鉱山に追いやったのかもしれない)


 魔法千年王国では、魔力を持つ王や法王が神のように崇められているが、辺境には昔からの土着信仰がある。

 それは剛腕で山を砕いて鉱山を開いた、巨人王の言い伝えだった。

 シルバー姫は石の詰まった袋を破らないようにゆっくりと地面に置くと、改めて自分のいる広場の周囲を見回した。

 岩が剥き出しの黒々とした山に緑はなく、鳥のさえずりの代わりに岩を削る音が聞こえてくる。

 石畳の広場中央には古代文字の刻まれた巨大な鉄板のモニュメントがあり、広場周囲には都と変わらない高級品を扱う立派な商店が建ち並んでいる。

 広場の塀の外に密集して立ち並ぶあばら屋とは、あまりに異なる光景だった。


「何故このような場所に、都と同じ高級商店があるのですか?」

「鉱山ではごくまれに、とんでもない宝石が発掘されるからさ。

 運が良ければ、一攫千金で大金持ちになれる。

 ここでは決められた仕事をこなせば、あとは何をしても自由だ。

 ただしノルマをこなせない者は、罰を受けても文句は言えない」


 奴隷監督者は、そう言うと下品な声で笑った。

 たとえ運良く高価な宝石を見つけても安値で買い叩かれ、手に入れた金を買い物や飲食いや博打で散財して、アッという間に元の鉱山奴隷に戻るからだ。 

 シルバー姫の周囲に集まった鉱山監督者の仕事は、奴隷の監督と山の状態を監視することだが 珍しい元大貴族の令嬢を見ようと仕事を放り出して広場に集まっていた。




 監督者が持ち場を離れた広場の近くにある岩山で、小さな石がひとつ転がり落ちた。

 それがきっかけに一つ二つと落石が徐々に増え、採掘で弱まった岩盤が崩れ落ち……。

 次の瞬間、地面を揺るがすような轟音が響きわたる。

 岩山は頂上から西側に崩壊すると、大量の落石が広場に向かって転がり落ちてきた。


「大変だぁ、岩山が崩れたぞ!!

 あそこから取れる魔法石は一級品だ。

 奴隷ども、さっさと落ちてきた石を拾え!!」

「なに言ってんだよ。

 落石に巻き込まれて押し潰されちまう!!」

「お前たち奴隷の価値なんて、魔法石一つ分しかないんだ。

 うわぁ、貴重な魔法石がダメになる」


 広場から逃げ出そうとした奴隷を掴まえて、鉱山監督者が怒鳴る。

 貴族ニッカルは数人の兵士に守られながら、素早く安全な場所に立ち去った。

 大混乱の中、広場中央に取り残されたシルバー姫は、崩れた鉱山から転がり落ちる貴重な魔法石を見ると、広場中央に掲げられた巨大鉄板に駆け寄った。

 それは鈍く七色に光る、表面に奇妙な古代文字と文様が刻まれたモニュメントだった。


「このままでは広場が、魔法石で埋め尽くされてしまう。

 この鉄板はあの石をくい止めるのに、ちょうどいい大きさだわ」


 鉄板のモニュメントを広場に据えるのに男二百人で運んだが、今のシルバー姫ならひとりで運べる。

 シルバー姫は巨大なモニュメントの端を掴まえて、手鏡をかざすようにに持ち上げた。

 彼女の肉体は鉄板の重量に耐えたが、華奢な靴の踵はポキリと折れる。

 建物三階ぐらいの高さがある分厚い鉄板は、昔この地を支配したといわれる巨人王の盾だった。

 広場の奥の安全な建物に避難した鉱山貴族ニッカルは、窓から外の様子を見て驚きの声を上げる。


「まさか俺は、夢を見ているのか。

 あの巨人王の盾を、持てる人間がいるなんて」


 広場は周囲を石塀で囲われているので、広場入口を鉄板で塞げばこれ以上石は流れ込まない。

 まるで働きアリが自分より大きな葉っぱを運びぶように、華奢で可憐なシルバー姫が巨大な盾を引きずりながら広場入口まで運んでいる。

 それだけで驚きなのに、建物三階分の高さがある盾を頭上に掲げると、地面にめり込ませるように落とした。

 ズシンっ、と地震のように地面が波打つと同時に、坂道を転がり落ちてきた大量の魔法石が鉄板に当たってせき止められる。


 ガンガンガンガン、ガンガンッ……


 もはやそれは異形の力、普通の人間になすすべはない。

 広場にいた鉱山奴隷も監督者も逃げ出して、その場にはシルバー姫ひとり。


「落ちてくる石が重たいけど、強く押さえたら鉄板を割ってしまいそう。

 大きすぎる力を扱うのは、とても難しいわ」


 巨人王の盾にぶつかった石の砕ける凄まじい轟音と砂煙がおさまると、奴隷たちは顔を上げた。

 シルバー姫は戦士千人力の剛腕で鉄板を支えて、魔法石の落石をくい止めた。


「な、なんであの細腕で、馬鹿でかい巨人王の盾を持てるんだ?」

「刑務官は大罪人だと言っていたが、あのお姫様はキラキラと月みたいに輝いて、俺には女神様に見える」

「おい奴隷ども、くだらない話をしているんじゃねえ。

 さっさと石を拾い集めろ!!」


 驚きを隠せない鉱山奴隷たちに、監督者が声を荒げ命令する。

 その時、別の広場入口から駆け込んでくる人の叫び声がした。


「だ、誰かぁ、助けてください!!

 馬車が石に押しつぶされて、旦那様が下敷きになっています」


 広場入り口でほとんどの魔法石はくい止めたが、別方向に落ちた巨大な魔法石が、運悪く都から来た仕立屋一行の馬車を直撃したらしい。

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