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魔法封印の『ニジョウノ腕輪』,

 魔法千年王国には、魔力という力が存在する。

 人と精霊と巨人が入り乱れて争い、精霊の恩恵により魔力を得た人間は巨人を滅ぼし魔法千年王国を建国する。


 そして古の精霊族の技を魔道具で再現することにより、人間の能力を数値で計ることができるようになった。 

 人の持つ生命力は平均50で、寿命と同じといわれる。

 知識を極めた学者の知力、肉体を強化し鍛えた戦士の腕力の最大数値は100。

 そしてほとんどの人間は、魔力数値が一桁だった。

 しかし王族や大貴族、神官と呼ばれる人々は、平均200の魔力を持つ。

 100の知識を積んだ学者も100の武を極めた戦士も、生まれた時から200の魔力を持つ王族の赤子に勝てない。

 魔力はこの世界の支配する特別な力。

【魔力こそ全て】それは魔法千年王国の揺らぎ無い真理だった。




 魔法学園に入学したシルバー姫が黒装束の師匠から教わったのは、『秘術』と呼ばれる魔力の分配術。

 何度も義母から暗殺の危険にさらされていたシルバー姫は、魔法学園の修行で増えた魔力を生命力に分配し、常人の十倍の生命力を得ていた。


========

・魔力 300

・腕力 20

・生命力 500

========


 しかし貴重な魔力を生命力に振り分けるなど、常識では考えられない事。

 いくら修行しても魔力数値が伸びないシルバー姫に、他の教師は愛想をつかせる。

 それでもシルバー姫の魔力300は王族や大貴族の平均以上、許嫁だったサルファー王子の魔力140の倍以上あった。



 ***



 シルバー姫は王宮から連れ出されたドレス姿のままで、両足に大きな鉄球のぶら下がった足枷と両手首に魔力封印の『ニジョウノ腕輪』をはめられて、犯罪人護送馬車の中で苦しんでいた。


「どうしてこんな事になったの。

 誰も、私の話を信じてくれない……。

 ううっ、体中が焼けるように、痛いっ」


『ニジョウノ腕輪』で封じられた魔力が、シルバー姫の体内で荒れ狂っていた。

 体内の臓腑を炙られるような痛みに必死で耐えていたが、それも限界だ。


「ああっ、このままでは心臓が燃えてしまう。

 助けてお母様、私はどうすればいいの?」


 シルバー姫は暴走する魔力を体外に発散しようとしたが、腕輪の封印に阻まれ、手首に焼きごてを押し付けられたような痛みが襲う。

『ニジョウノ腕輪』は両手首にピタリとはまり、それを外すには腕を切り落とすしかない。


「いいえ、この苦痛を取り除く方法が、ひとつだけあるわ。

 私の中に魔力がある限り、身の内を炙る痛みは続く。

 もはや私には、封じられた魔力は必要ない。

 私は母より授かった大切な魔力を、他の力に変換する」


【魔力こそ全て】と言われる魔法千年王国で魔力を失えば、人として扱われない。

 しかしシルバー姫は決断すると、『秘術』の魔力分配術を行使する。


 この時、シルバー姫は知らなかった。

 魔力封印の腕輪が『ニジョウノ腕輪』と呼ばれていた訳を。

 魔力300から変換された力は、二乗ニジョウ

 シルバー姫の魔力300に腕力20を足した 320×320=102400 が腕力になった。

 それは勇猛な戦士1000人分に匹敵する力。


========

・魔力 0

・腕力 320の二乗ニジョウ=102400

・生命力 500

========


 封印された魔力を腕力に変換する行為は、常人の肉体ではその変化に耐えきれない。

 しかし生命力500を持つシルバー姫の肉体は、それに耐えた。

 骨格は鋼のように強靱になり、指先の爪は透明な金剛石になる。

 肉は決して傷つけられない強さとしなやかさを持ち、白い肌はホワイトドラゴンの皮膚より堅く、瞳は空の果てを見渡せるようになった。

 そしてシルバー姫は意識を失い、五日間馬車の中で眠り続ける。



 ***



 次にシルバー姫が目を覚ますのと、犯罪人護送馬車が止まるのは同時だった。

 義母による毒殺の危険から十日間食を断った経験のあるシルバー姫は、わずか五日の絶食くらい全然平気だった。


「とても長い間、眠ったような気がします。

 少し喉が乾いたわ。

 そしてここはどこかしら?」


 体を起こしたシルバー姫は、丈夫な鉄格子の填められた窓から外を眺める。

 そこは緑の失われた山々の連なる、見渡す限り黒い岩が剥き出しになった辺境の鉱山。

 シルバー姫を乗せた犯罪人護送馬車は、広場のような場所に停車している。

 広場の周囲には巨大な石の塀が築かれ、塀の内側は貴族の屋敷のような豪邸が建ち並び、塀の外側には粗末な小屋が密集していた。

 シルバー姫は外をもっとよく見ようと窓柵の鉄格子を握ると、硬く太いはずの鉄格子が飴細工のようにグニャリと折れ曲がり指の形に窪んだ。


「えっ、少し力を入れて掴んだだけなのに、鉄の棒が曲がってしまった。

 これは魔法……ではない、私の力で曲げてしまったの?」


 おびえて両腕を抱えると、触れたドレスの袖が薄紙のように、もろく破れてしまう。

 そしてシルバー姫は、自分の足に繋がれた鉄球の重さを全く感じないことに気づく。

 鎖の先につながった大きな鉄玉を人差し指で押してみると、粘土に指を差し込んだようにめりこんだ。

 馬車の隅に転がっていた金属の食器皿を手に取ると、紙のように簡単に折り畳める。




 そしてシルバー姫は理解した。

 この『ニジョウノ腕輪』は、自分を助けるために黒装束の師匠が授けてくれたものだと。

 師匠が口癖のように呟いていた言葉を思い出す。


「【魔力こそ全て】と言われているが、あれは臆病な魔法使いどもが保身のために作った戯言。

 この世界は【力こそ全て】。

 それをよく覚えておきなさい」


 シルバー姫の白い細腕に、これほどの力が宿っているなど誰も知らないだろう。

 彼女は魔力を失った代わりに、戦士1000人分の腕力を手に入れた。


「ありがとうございます、先生。

 私は先生の御恩に報いるためにも、絶対義母たちに負けない。

 先生から授けられた千人力の腕力で、必ずこの運命を乗り越えてみせます」


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