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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

七つ目の話

作者: 語り部

 今回、学校の怪談について書きました。作品中の話のいくつかは、著者の母校に伝わる話や知人から聞いたものが元になっています。読者の皆様の知っている話が、もしかしたら中に混じってるかもしれませんので、ご自身の知っている7不思議と照らし合わせば、より一層楽しんで頂けると思います。

 不味いラーメンだった。夜になった今でも、舌の真ん中にドロッとした生臭く塩味のきついスープの感触が残っている。やはり、よく考えて食いもの屋には入るものだ。特に給料日前の昼飯時には。

 今は、仕事の帰りで居酒屋にいる。同僚を待っているのだ。仮にIとしておこう。そいつは小学校からの友人で、小3の頃、転校してできた初めての友達だった。 きっかけはあいつの席の前が、俺の新しい席だったことからだ。

 どちらが最初に話しかけたかは、20年以上経った今となっては、もう覚えてはいない。あいつもきっと、そうに違いないと思う。中学、高校は一緒、大学でそれぞれ故郷を離れたが、就職先の現在の会社で、また、顔を突き合わせることになった。配属先は違ったが、それでも友情は蘇った。

 今日は俺のマネージャーへの昇進祝い。といっても、俺とあいつの2人だけのささやかなものだが。

 腕の時計を見ると、ちょうど時刻は22時を7分ほど過ぎていた。遅いな。そう思った瞬間、ガラガラガラっと扉を開ける音がした。予想通りIだった。

 「悪い。ゴメン。待たせたなあ」息は途切れ途切れだ。

 「気にするな。お前んとこ、最近忙しいもんな」ねぎらうように声をかけた。

 「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」店員が駆け寄ってきた。

 Iが来るまで、注文を取りに来ないように頼んでおいたのだ。

 「決まったら、また呼ぶから。あ、でも、とりあえずビール! 瓶で2つ!」

 「かしこまりました。他にご注文はございますでしょうか?」

 「いや、だからぁ、後は、決まったら呼ぶからぁあ」多少、苛つきながら俺が答えた。

 「失礼いたしました」店員が作り笑顔で去っていった。眼は少し怯えている。

 「で、最近どう?」切り出したのは俺だった。まず、互いに近況を話し合い、やがて、会社の人間関係と愚痴が始まる。酒のつまみというやつだ。

 10分ほどで来たビールを飲みながら、嫌いな連中の悪口で盛り上がる。話が盛り上がってきたついでに、先程の店員を呼んで、追加のビールと枝豆、それに鶏のつくねを頼んだ。

 「で、この前、連休の時、帰ったんだけど」

 「ああ、そうか。 この前、帰るって言ってたもんなぁ」

 いつしか、話しは故郷の話に移っていった。

 「でな、あの、俺らが通ってたD小学校。来年廃校になるらしい」

 「マジ?」寝耳に水だった。

 「ああ、少子化の影響でN小学校と統合するんだと」

 「N小? 隣のか?」

 母校の懐かしい姿が脳裏によみがえってきた。

 「D小か。そういえば、俺らの頃は地域のマンモス校って言われてたのになぁ」

 何とも言えない感慨深いものが、淋しさと共に胸に、じわりとこみ上げてくる。

 消えゆく母校への淋しさを紛らわすように、D小の思い出に話が移っていった。Iも同じような心持だったのか、俺以上に饒舌に、話し始めた。楽しかった思い出が酒の味を更に美味くして、呑むペースを上げていった。 そうこうするうちに酒がなくなり、Iが追加の瓶ビールを2つ頼んだ。

 「そういえば、D小の7不思議ってあったような?」

 なぜか、突然、Iが思い出したかのように言いだした。

 「7不思議? ああ、あれだろ? なんか7つ知ったらなんか悪いことが起きるとかってやつだろ?」

 酒がそろそろ回り始めた虚ろな頭に過去の思い出が蘇ってきた。

 「確か、7つのうち、3つか4つくらい知ってたような・・・」

 酒が回って鈍くなった頭で必死で思い出そうとする・・・が、上手く思い出せない。

 「え~と、確か、1番目が音楽室で手首切って死んだ女教師かなんかの霊がピアノ弾く話で・・」

 「そうそう、生徒の親と不倫関係になって、最後、別れ話切り出されて逆上した女教師がピアノの前で手首切ったんじゃなくて、睡眠薬大量に飲んで自殺して。それから、死んだ24日の夜には、音楽室からピアノの音が聞こえるって話。それから?」Iが、弾んだ声で聞く。

 「2つ目の話が、確か、え~と、何だったっけ。確か、図書室で・・なんだったかな・ぁ」

 「ある日、女の子が図書室で勉強してると、いつの間にか、赤い本と青い本が置かれてて赤い本を触った女の子は下校途中に車に撥ねられて死んだ。その後、別の日に、別の女の子が青い本を触ると体育の時間にプールでおぼれ死んだ。 それ以来、その図書室では、赤い本と青い本は全て、本棚から撤去されて、もし赤い本と青い本を見つけたら、先生に知らせに行くこと。 知らせないと、その夜に死神が殺しに来るって話」

 「ああ、そうだ。そうだ。思い出した!」思わず声が大きくなった。どうやら、話してるうちに少し酔いが本格的に回り始めたようだ。

 「でも、何で、先生に知らせに行くんだ? お祓いとかでもいいような気がするが・・・」

 「なんでも、学校と提携してる霊能者だか、坊主だかが居て、そいつに電話して祈祷かお祓いかしてもらうそうだ」あっさりと、Iが言った。

 「3つ目は?」Iが、また聞く。声がやや沈んだように聞こえた。

 「え~と、たしか、理科室の話だったような。人体模型が夜中に窓から部屋の外見てるとかいう話だったかな?」いまいち、記憶がぼんやりとする中、記憶の断片を拾い集めながら答える。

 「そう! そう! 人体模型じゃなくて、骸骨標本模型ね」

 「ああ、そうだ、そう。そう。骸骨の標本が、確か、夜中に窓から顔出して外見てるって話・・だっけ?」話の粗筋がおぼろげながら、蘇ってきた。

 「そう。でも、窓から顔出してるんじゃなくて、校舎を建設中に、事故で死んだ建設作業員の霊が、夜中になると、理科室の中を骸骨の姿で彷徨ってるのを宿直の先生や警備会社の人が見たって話。そいつを見ると、必ずその年のうちに不幸になるって話」

 「どんな不幸があるんだ?」面白がって俺は聞いた。酒が回り、すっかり、ほろ酔い気分だ。

 「ほら、細田(仮名)って、先生いただろ?」

 「ああ、あのおっさんなぁ」嫌な記憶が蘇り、酒の味が落ちた気がする。

 「あのおっさん、俺たちが卒業して数年後に、自宅で首吊って死んだらしい」Iが声を落とす。

 「まじ!? うそ? あいつ、死んだ?」驚きと同時に、不味かった酒の味が再び、美味く感じ始めた。

 「ああ、新聞にも載ったそうだ。それで、後で知ったんだが、あいつ、宿直の日に、その骸骨見たって話。 それから精神病んで、遺書残して死んだらしい」声が無感情に、無機的に聞こえた気がした。

 俺にとってはうれしい「朗報」なのだが、なぜか、Iの声、というより淡々とした語り口に、何やら奇妙な違和感が、こみあげてきた。やけに店の空調が、寒く感じる。

 「で、4つ目は?」Iが聞く。なぜか、奴の顔が蒼白く無表情に見えた。

 「ああ、ああ。 確か、校庭で、夜中に走ってるやつがいて・・そいつの姿見ると交通事故に会うって話・・・だっけ?」多少戸惑いながら答える。

 「そうそう。昔、Oっていう陸上部の生徒が、部活中に心臓マヒ起こして、病院に運ばれたけど、かわいそうに死んだ。 それから、しばらくして、夕暮れ時に校庭を走る音が聞こえ始めた。誰も、その姿は見えないんだけど、でも、走ってる足音だけは、ずっと聞こえるらしい」

 「ああ、小西君(仮名)の話だ。思い出した」

 「普段は、その姿を見ることはできないし、ほとんど見た奴はいないんだけど、でも、まれに見る奴が居て、見た奴は数日以内に交通事故で死んだそうだ」Iの声が一段と低くなったような気がした。

 部屋が妙に寒く感じる。 店の中に、他にも客は居て、騒いだり、食器の音や食べる音は聞こえてくるが、なぜか妙に不安が胸の内に湧き上がり始めた。

 「5つ目は?」Iの無感情な声が響く。

 「え~と、何だったかな? 確か、体育館かどこかで・・」思いだせない。

 「体育館で、昔、いじめを苦に自殺した奴がいて、そいつの霊が、夜の体育館を彷徨ってて、夜中に体育館で、バスケのボールをドリブルする音が聞こえるって話。斎藤君(仮名)って子が、皆から苛められて、それを苦に体育館で自殺した後、怪異が起き始めた。 まず、最初に苛めた連中の一人が練習中に、心臓マヒ起こして死んだのを皮切りに、交通事故、自殺、発狂と次々に不幸が、斎藤君を苛めた連中を襲って、最後には、バスケ部自体がなくなった。 顧問の先生も退職後に自殺したそうだ。 それでも、斎藤君の祟りは止まず、やがて、誰も近づかなくなった夜の体育館では、斎藤君が一人、ボールをドリブルする音だけが夜な夜な響くようになった」無感情な声で語る。

 「あ!? そうだっけ? そんな話あったんだな」(て、なんで、そんなに詳しいんだよ? お前? )

 「6つ目は?」Iが聞く。 多少、声の調子が詰問じみたようになってきている。

 「確か、校内放送の話じゃなかったか? 確か、たまに悪魔かなんかの声が放送中に入っきて、それ聞くと死ぬみたいな話じゃなかったか?」声に険が出てきた。多少うんざりしてきたのだ・・・というより、だんだん得体のしれない恐怖がこみあげてきたのが自分でもわかる。だが、同時に、最後まで、話を聞きたいという思いもあった。黙った俺を真正面に見つめながら、Iが無感情な調子で話し始めた。

 「そう。昔、D小学校は墓場だった。 墓を移転した後に、校舎が造られて、それが戦時中に空襲で焼かれた後に、現在の校舎が建てられた。墓地が移転する時に、相当乱暴な移し方をされて、まだ、死体が校舎の下に大量に残ってて、それが、未だに学校に祟ってて、戦時中に爆撃されて大量の死人が出たり、簡易病院として使われていた時にも、大量の負傷者が薬もないまま、ろくな治療も受けられないまま、無念の思いで死んでいった。そして、戦争が終わり、学校が再開されると、その、無念の死を遂げたり墓を死後の住処を奪われた連中が、自分たちの声を、放送を通じて訴えかけるようになった。学校側も、何回か鎮魂の儀式をしたり、お祓いをしたが、全く効果がなかったそうだ。死者たちの、無念の声は今でも、いつまでも、語り続けられる」声のトーンが、今までの話の時より、重く感じる。というより、目の前で話しているのが、本当に、あのIなのか?という疑問すら感じ始めた。

 此奴は、今、目の前にいる、この40近い男、長年、ずっと、友達付き合いしてきたこの男が、初めて会った、全く知らない別人のように感じ始めた。

 「7つ目は?」例の無感情な声が聞こえた。

 「知らん。7つ目の話なんて聞いたことないぞ。お前知ってんのか?」いささか、声が震えていた。先程まで気持ち良かった酔いが、今では、軽い頭痛すら伴う不愉快な感情に変わり始めていた。

 「ああ、そうだろうな」Iが無表情に答える。

 「7つ目の話ってのは、どの学校でも、おそらく、知ってるやつはほとんどいないと思うよ。ふふふ。君が知らないのも無理はないよ思う」口調が明らかに、あいつと違う。声もだ。

 「t、おぉm」声が出ない。喉の奥を強烈に締上げられたような感覚。そして、強烈な渇き。

 身体全体が動かない。全身が妙に冷たく感じる。体温が急速に下がっていくのが分かる。蛇に睨まれた蛙の心境が分かるような気がした。眼は、今、目の前の、得体のしれない男を凝視し続けている。

 目の前の男の顔。蒼白く生気のない無表情な顔が死者の顔そのもののように見えてきた。眼の奥の黒目がかったところから妖しい光を発し、口元が、かすかに緩んでいるように見える。

 「7つ目の話、それは、この話を聞いた人間は、皆死ぬってこと。僕もそうだったんだよ。7つ目の話を、僕は誰から聞いたのかは・・・もう、忘れてしまって思いだせない。おそらく、僕にこの話をした人間も、僕と同じようなモノだったのかもしれない。もう逃げられないよ。そう、僕は、7つ目の話を聞いた数年後、高校受験に落ちた。どんなに勉強しても、努力しても、どんなレベルの低い学校にも受からなかった。 やがて、僕は、受験を諦めて、働こうと決めた。生まれた家も、あまり裕福な方じゃなかったからね。だが、働こうにも、今度は、働く場所がなかった。どこにも採用してもらえなかった。コンビニのバイトさえ、清掃のアルバイトさえ、僕はもらえなかった。ある日、 僕は・・・僕は・・気づいた。 僕は、一生、この状態で居続けざるを得ないことを。 その時、僕は君と同じ、38歳だった。 絶望の中、今まで必死で、養ってくれた両親の顔が浮かんできた。 せめて、自分が死んでも両親に金を残してやりたい。 そう思い、僕は、自宅の部屋で、最後の望みの火災保険を掛けて、火をつけて死んだ。 焼身自殺したんだよ。両親のいない間に、自殺した。 後で知ったが、保険金は・・・降りたようだ。 僕は、死んだけどね。これで、7つ目の話は終わり。君も聞いたよね? さ、今度は君の番だ」

 「おい、どうした?」

 「は?」

 「さっきから、ずっと、黙ってるけど、気分でも悪いのか?」Iがコップ片手に怪訝そうな表情で、こちらを見ている。 眼は濁り、顔はずいぶん赤い。

 途端に、さっきまで聞こえなかった他の客の話し声や注文を取る声が聞こえ、料理を運ぶ店員の姿が目の前を行きかう。店内が妙に眩しく感じた。

 「お前が変な話するからだろうが!! なんだ、7不思議って!?」切れ気味に答える。

 「7不思議? なんだよ? それ? そんな話してなかっただろうが?」困惑気味にIが答える。顔は、ますます赤く見える。

 「なんか最後に、自殺した話しただろうが!?」興奮気味なのが自分でもわかる。 わかるが、自分でも、もうどうしようもない。

 「自殺? は? 酔いが脳に回ったのか?」Iも酒が相当、回ってるらしく、言葉が多少乱暴になってる。 売り言葉に買い言葉というやつだ。

 「何だと、てめえ!!!」それがあいつと交わした最後の言葉だった。

 言った瞬間、テーブルの上に有った酒瓶を取り、あいつの頭を殴り続けた。夢中で、夢中で、無我夢中で、ただ、殴り続けた。テーブルに、あいつを押さえつけ、ひたすら頭を殴り続けた。

 恐怖を、ただ、恐怖を払うためだけに・・・

 我に返ったのは、警官数名に取り押さえられた時だった。腕には酒瓶。 血まみれの酒瓶を握り続けていた。足元には、血まみれになって転がってるあいつの姿があった。 我に返った時、頭の中に、あの最後の言葉が浮かんだ。

 そして、その意味も瞬時に理解していた。


 「これで、7つ目の話は終わり。君も聞いたよね? さ、今度は君の番だ」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後まで読んで頂き、有難う御座いました。 ご批評、お叱り、なんでも結構ですので、読者の皆様のコメントをお待ちしております。

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[良い点] とても、惹きこまれる文でした。 わくわくゾクゾク楽しみながら、読ませてもらいました。 [気になる点] 「」の文ですが、“。”がついているのと、ついてないのがありましたので、全ての「」のとこ…
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