20・デザートは別腹です
見ていて気がついたけど、文人に声をかけに来る人が多い。
わたしがイチゴのショートケーキを食べて、パフェを食べて、アイスを食している間に延べ15人位の人が挨拶しに来た。
文人はわたしがいるから、ホールの中央を外れてソファの傍に立っているけれど、それでもオジサン達が次から次へとやってくる。
中でも驚いたのは、その中に結構な頻度できれいなお姉さんが混ざっていたことだよ!
嘘でしょう、文人ってモテるの!?
確かに、美形と言いたくなる容姿はしているよね。
でも圧倒的に笑顔が足りなくないですか? 愛想のいい文人なんて想像がつかないよ!
文人の隣でががーんとショックを受けているわたしの姿を見たお姉さん達の反応は、きれいに真っ二つに別れた。
パターン1
「えっ……神宮寺さんて独身ですよね?(戸惑い)」
まさかのこぶ付きに動揺。独身だって聞いたから来たのに! というタイプ。
パターン2
「子供がお好きなんですね! 今度うちの姪(甥)っ子にも会ってください」
子供の面倒を見ている姿を見て、未来のパパ姿を想像しているタイプ。
どちらにしても共通しているのは、ガッツリ未来の嫁として立候補したがっているということですよ。
しっとり清楚に見せかけて、実際は肉食系のお姉さん達をわたしはぶるぶる震えながら眺めた。
こ、怖い。
何となく前世のことを思い出しそうで、尚更怖い。
デザートを食べ終わったわたしは、そろーっとソファを降りた。
じりじりと文人から距離を取り、途中からダッシュで逃げる。
パーティーが終わるまで一人で遊んでるよ!
だから探さないでくださいぃい!
わたしは身長が低いので、人混みに紛れると視界が悪い。
文人の方を窺いながら歩いていると、誰かの足にぶつかった。
「申し訳ありません、大丈夫ですか」
声をかけられ、顔をあげるとスーツ姿のダンディーなオジサンがこちらを見下ろしていた。きれいに撫で付けられた白髪が好ましい。
わたしがスカートの汚れを払っていると、不意に顔を覗き込まれた。
思わずぎょっとして身を引くと、身を屈めたオジサンが真剣な顔でこちらを見てくる。
な、何ですか? 何も悪いことしてないですよ?
ジーっと見つめあっていると、「吹田」と声が掛かった。
「何してるの? 探してた、」
やってきたのは、きれいなお姉さんでした。
羨ましいスタイルのよさ。
憧れますね!
見惚れていると、つかつかと歩み寄ってきたお姉さんは、いきなり私を抱き上げた。
えっ、なんで?
ぽかーんとしていると、数センチの距離でまじまじと見つめられる。
「優梨子さま」
「この子、誰? 血縁者よね?」
「それがですね……」
オジサンとお姉さんが話している。
何の話?
えっと、知らない人だよね。
どうして私は抱き上げられているのかな……?
困っていると、人混みの向こうに知っている顔が見えた。
「文人!」
わたしが口を開くより早く、お姉さんがその名前を呼ぶ。
……あれ?
足早に近づいてきた文人がこちらを見る。
「ミア」
「何、知り合い?」
文人はわたしに非難めいた眼差しを送ってくる。
その意味はきっと「ケーキ食べたよな?」だ。
まあ、ケーキ食べましたけどね。ケーキの分は頑張りました。
「文人、この子は?」
「伶人の子だ」
「伶人の!?」
出た。またしてもレイトの名が!
そろそろ教えてほしいなー。
驚いているお姉さんとオジサン。
わたしを上から下までじっくり見たお姉さんは「信じられない!」と叫んだ。
「あの薄情者、一体いつの間に子供なんて!」
お姉さんお怒りである。挨拶にも来なかったと怒っている。
文脈からして、わたしの父に対して怒ってるんだよね?わたしにじゃないよね?
「まあ、伶人だからな」
その一言で、一同が納得顔になる。
……なんだかわたし、父のことを訊くのが嫌になってきたよ。
お姉さんが再び目線を合わせてきた。目力がすごいから、ちょっと怖いよ!
「名前は?」
「ひらたみあ……」
「籍も入れてないの!」
お姉さんの眉が吊り上がるのを、オジサンがまあまあと宥める。
「あのバカ兄、次に会ったらただじゃ置かない……!」
お姉さんがギリィと唇を噛んだ。きれいな顔が台無しですから!
わたしが怯えていると、お姉さんに頭を撫でられた。
「会えて良かったわ。知らないところだった」
「優梨子」
「分かってる。文人、後でじっくり話を聞かせてもらうから。時間作りなさいよ」
肩を怒らせたお姉さんは、オジサンを従えて嵐のように去っていった。
何だったんだろう、本当に。
わたしは釈然としない気持ちで二人の後ろ姿を見送った。
そしてその後、なんだか疲れてしまったわたしは、文人のおんぶで帰路についた。
俵担ぎは断固として拒否しましたとも!