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16/21

16・嘘だと信じたいのです

 4月上旬、わたしたちはお弁当を携えて公園にやって来ました。

 本格的なアスレチックが売りの大きな公園です。

 楽しみにしていた桜もちょうど満開で、わたしはうきうきとスキップする。

 春は一番好きな季節だし、気温も暖かくなってよかったよね!


「ミアちゃんみてー! はなびら!」


 はしゃぐりおちゃんの笑顔が眩しい。

 わたしも舞い散る花びらに向かって手をのばした。

 ほんのりピンク色をした花びらが、ひらひらと手のひらに降ってくる。

 桜の花びらがが落ちる速度は、秒速五センチメートルらしいから、ずいぶんゆっくりだ。


 公園には私たちの他にも親子連れやカップルがお花見をしていた。

 私たちも大きな桜の木の下にレジャーシートを敷いてお弁当を広げた。ちなみに、お弁当はそれぞれのママさん達の持ち寄りですよ。

 うちの母の力作弁当も勿論その中に並んでいる。どちらかというと見た目に気を使った可愛らしいお弁当が並ぶ中で、巨大な弁当箱は一際異彩を放っているように見えた。

 ママ……何人で食べる設定なの。


「ミアちゃん、あーん」


 隣に座ったゆうかちゃんが満面の笑顔で卵焼きを差し出してくる。

 キラキラした笑顔で差し出されて、拒否できるわけがあるだろうか。

 あーんと口を開くと、遠慮なくフォークを突っ込まれた。……ちょっと苦しいです。

 むぐむぐと咀嚼すればほんのり甘い。ゆうかちゃん()の卵焼きは甘い派らしい。

 うまうまと食べるわたしの横で、満足そうなゆうかちゃん。

 すると今度は反対側の袖が引かれた。


「はい、あーん」

「むぐっ」


 振り返ったところに問答無用でフォークを突き出される。

 にこにこと有無を言わさぬ笑顔のりおちゃんが、わたしの口許にグリグリと卵焼きを押し付けてきた。ちょっと痛い。

 食べるよね? という無言の圧力が怖い。

 その勢いに怯みつつも、パクリと受けとる。

 こちらは上品な出汁の味がうまうまですね!


 お返しにと左右の手で二人に我が母作の唐揚げを進呈する。

 なぜ両手か? そうしないと片方が拗ねるからです。


 じゃれあいながら花見を堪能していると、ふと公園の入り口の方が騒がしくなった。

 何かなーと思っていると、ゆうかちゃんがすっくと立ち上がった。


「行くよ!」


 いっそ清々しい野次馬根性のゆうかちゃんに左手を引かれ、負けじと歩くりおちゃんと右手を繋いだわたしはてくてくと歩いていく。

 まず見えたのは人だかりだった。

 主に若い人たちが群がっているようだが、一体なんだろう。

 次に見えたのは、人の輪から頭一個分飛び出した幼児の顔だ。


 げっと思わず立ち止まったわたしに、「どうしたの」と不思議そうなりおちゃん。

 いや、あの、見間違いだったらいいんだけどね。

 あそこにいるの、わたしのクラスメイトに見えるのは気のせいですか?


 いつになく楽しげな眼鏡の顔を見て、思わずうーむと唸る。

 かなたくん、だよねぇ?

 なぜこんなところに? 


 その時、たまたま輪の中心にいる人が見えた。

 かなたくんらしき少年を肩車した、サングラスのイケメンさん……ってあれ、結城英!?


 そ、そんな馬鹿な。


「あーっ! ゆうきすぐるだ!」


 わたしが目を疑っていると、ゆうかちゃんが大声をあげた。

 何事? と周りの人が振り返る。

 話題の人も気がついたらしい。

 こちらを見て、サングラス越しの目を和ませる。


「かなた」


 肩車を下ろされたかなたくんは、背を押されてこちらへ歩いてくる。

 驚きで固まっているわたしの前で立ち止まり、おもむろに口を開いた。


「ミア」

「えーっ、しりあい?」


 いや、わたしも驚いてるんだけど。名前、覚えてもらってた……んだね。

 隣でゆうかちゃんが騒いでいたけれど、わたしは自分の驚きでお腹いっぱいです。



 ちなみに、かなたくんは結城英の甥っ子らしいです。

 世間て狭いね……。

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