14・チョコレートは大好きです
毎年頭を悩ませるイベントにバレンタインなるものがあります。
前世では牽制しあう攻略対象者たちのデスマッチの日でしたが、今世では純粋に楽しみたい。
バレンタインか近づいてくる2月某日。
わたしと母は、うきうきとスーパーのお菓子コーナーに向かった。
デパ地下はちょっとハードルが高いよね!
いつも行くよりも大きいスーパーのお菓子売り場には、特設コーナーが出来ていた。
可愛いパッケージのチョコレートを持ちつ比べつ、吟味します。
うーん、幸せな悩みだー。
自分チョコも悪くないよね。
母とわいわい選んでいると、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると見知った顔が佇んでいて、ニコッと笑顔になった。
「こんにちは、みあちゃん」
「ななちゃん!」
我が級友ななちゃんもお母さんと一緒に買い物に来たところだと言う。
母たちが世間話を始めたので、ななちゃんの隣に逃げた。
こういう話は長いと相場が決まっているのですよ。
「みぃちゃん、チョコかうの?」
「うん」
頷けば、ななちゃんはこてっと首を傾げた。
「だれにあげるの」
え?
どういうこと?
思いがけない台詞にぽかんとするわたし。
誰って、特別親しい異性もいないし、自分で食べるつもりだったけれども。
「ななはねー、りゅうくんにあげるよ」
りゅうくんとはやはり同じ組の男の子だ。ななちゃんの幼馴染みらしい。
目をキラキラさせてわたしの返事を待つななちゃん。
むー。
そんなに期待されても、本当に相手がいないんだけど……。
頭を捻っていると「かなたくん?」との問いが。
えぇ!?
何でかなたくん?
わたしには彼と仲良くできた試しがないんだけど。
ツンツンされた記憶はあれど、一緒に遊んだことはないよね。
彼はゆうとくんスキー! だしね。
「カッコいいよ? ゆうきすぐるに、にてるもん」
結城英とは、幼児に大人気の戦隊ヒーロー、『ゴー!アニマルダー!』の主人公だ。
英役の人は新人俳優らしいが、爽やかフェイスにきりっとした声が素敵なお兄さんである。
かなたくんに似てるか……?
そうでもない気がするけども。
「じゃあ、いっしょにあげよ?」
ちょっと待ったあぁぁ!
どうしてそうなるの!
その、いいこと思い付いたみたいな顔やめてー!
わたわたと台詞を探す内に、母たちの会話が終わったらしい。
じゃあねーと手を振って去っていくななちゃん。
呆然とするわたし。
あーどうしよう……。
仕方なくわたしは母にお願いし、チョコ菓子の大袋を購入してそれをクラスの皆に配ることにした。
渡したゆうとくんは普通に喜んでいたけれど、かなたくんにはそっぽを向かれた。
何だか損をした気分になったのは、わたしだけでしょうか。