12・大きなお友だちは要りません
聖なる夜、クリスマスイブ。
おじさんと男の子を拾った。
……訂正。
知り合い二人を拾った。
何でこんなことになっちゃったんだろ。
順を追ってよく考えてみましょう。
公園のブランコにぼんやり座る二人連れを見つけたのは、お使いの帰りのことだった。
仕事が不定期の母は、カレンダー通りには休めない。
けれども何かの行事の時は、できるだけわたしに合わせてくれる。
今日も母は抱えている仕事を放り出し、朝からご馳走づくりにてんてこ舞いだった。
あらかた料理を作り終え、ケーキを買いにいかなきゃねと話しているところで、滅多に鳴らない家の電話がなった。
電話の相手は侑紀さんで、ケーキを焼いたから取りに来ないかというお誘いだった。
手作りケーキ!
母にはお菓子を作る才能がない。
大雑把に味見しながら作れる普段の料理と違って、きっちり計量が必要なお菓子は難易度が高いんだって。
わたしについては言わずもがな。
だって調理台に手が届かないんだよ! 仕方ないじゃないですか。
「ブッシュ・ド・ノエルだよー」
という侑紀さんの話を聞いて、お菓子を作れない二人は万歳三唱しましたとも。
フランス式クリスマス! ケーキ万歳!
オーブンの前でローストビーフを見張っている母の代わりに、わたしは足取りも軽くゆうかちゃんの家へ向かった。
楽しみですねぇ。手作りケーキ!
二人で食べるにはホールは大きすぎる。
でもショートケーキだとちょっと寂しいよね。
だからどういうケーキにするか迷っていたのですよ。
「お使い偉いね」
玄関チャイムを鳴らすと、侑紀さんが出てきた。
手には綺麗にラッピングされたケーキの包みがある。
「荷物多いと大変かな? 」
侑紀さんは手作りのおかずもたくさん持たせてくれた。
わたしも母に託された煮物を渡す。
母の料理の中で、煮物は最高に美味しい。
なのでわたしも自信を持ってお薦めできる。
クリスマスに食べるものじゃないけどね!
侑紀さんに丁重にお礼を伝えたあと、スキップして家路をたどる。
抱えた荷物は3歳児には少し重いが、それも幸せな重みだ。
そうだ、近道を行こう!
この時のわたしは名案だと思ったけれど、これが大きな間違いだったんですね……。
ゆうかちゃんの家は私たちの住むアパートの、公園をはさんで向かい側の住宅街にある。
わたしは迷わず公園を突っ切ることにした。
そこで見つけてしまったのである。
並んでブランコに腰掛ける妙な二人連れを。
ついでに言えば、どちらも知人である。
それもあんまり会いたくない。
おじさんの方は……文人だ。
上背のある男が所在なさげにブランコに座っている姿は、どことなく哀愁を誘う。
その隣で地面を睨み付けているのは、見覚えがあると思って少し考えて思い出した。
いつか会ったありあちゃんのお兄ちゃんである。
この間のことを思い出して、わたしは身震いした。
思い出しちゃいけないことってあるんだよ!
回れ右して帰りたい。
しかしである。
あの二人、いったい何時からここにいたのだろうか。
この寒空の下、口を利くでもなくブランコを漕ぐ男二人。
……っ、ああもう!
「なにやってるの」
「ミア」
顔を上げた文人が、出てきたわたしを見て驚いた目をする。
隣のありあちゃんのお兄ちゃんはむっつりして、知らん顔をしている。
何となく、事情を察した。
公園に居たがっているのはお兄ちゃんの方で、文人は付き合っているだけのようだ。
「……うち、今日はごちそうなんだよ」
ぼそりと呟くと、文人が瞬いた。
不思議そうな文人に、もう少し説明を添える。
「ママの作るスープ、すこしくらいならわけてあげる」
冬の戸外で黄昏ているようなおバカたちには勿体ないぐらいです。
あああ……
やっちゃいました。
何でわたしは突っ込まなくてもいいところに行っちゃうんですかー!
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