表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

12・大きなお友だちは要りません

 聖なる夜、クリスマスイブ。

 おじさんと男の子を拾った。


 ……訂正。

 知り合い二人を拾った。


 何でこんなことになっちゃったんだろ。

 順を追ってよく考えてみましょう。

 公園のブランコにぼんやり座る二人連れを見つけたのは、お使いの帰りのことだった。


 仕事が不定期の母は、カレンダー通りには休めない。

 けれども何かの行事の時は、できるだけわたしに合わせてくれる。

 今日も母は抱えている仕事を放り出し、朝からご馳走づくりにてんてこ舞いだった。


 あらかた料理を作り終え、ケーキを買いにいかなきゃねと話しているところで、滅多に鳴らない家の電話がなった。

 電話の相手は侑紀さんで、ケーキを焼いたから取りに来ないかというお誘いだった。


 手作りケーキ!

 母にはお菓子を作る才能がない。

 大雑把に味見しながら作れる普段の料理と違って、きっちり計量が必要なお菓子は難易度が高いんだって。

 わたしについては言わずもがな。

 だって調理台に手が届かないんだよ! 仕方ないじゃないですか。


「ブッシュ・ド・ノエルだよー」


 という侑紀さんの話を聞いて、お菓子を作れない二人は万歳三唱しましたとも。

 フランス式クリスマス! ケーキ万歳!

 オーブンの前でローストビーフを見張っている母の代わりに、わたしは足取りも軽くゆうかちゃんの家へ向かった。


 楽しみですねぇ。手作りケーキ!

 二人で食べるにはホールは大きすぎる。

 でもショートケーキだとちょっと寂しいよね。

 だからどういうケーキにするか迷っていたのですよ。


「お使い偉いね」


 玄関チャイムを鳴らすと、侑紀さんが出てきた。

 手には綺麗にラッピングされたケーキの包みがある。


「荷物多いと大変かな? 」


 侑紀さんは手作りのおかずもたくさん持たせてくれた。

 わたしも母に託された煮物を渡す。

 母の料理の中で、煮物は最高に美味しい。

 なのでわたしも自信を持ってお薦めできる。

 クリスマスに食べるものじゃないけどね!


 侑紀さんに丁重にお礼を伝えたあと、スキップして家路をたどる。


 抱えた荷物は3歳児には少し重いが、それも幸せな重みだ。

 そうだ、近道を行こう!


 この時のわたしは名案だと思ったけれど、これが大きな間違いだったんですね……。


 ゆうかちゃんの家は私たちの住むアパートの、公園をはさんで向かい側の住宅街にある。

 わたしは迷わず公園を突っ切ることにした。


 そこで見つけてしまったのである。

 並んでブランコに腰掛ける妙な二人連れを。


 ついでに言えば、どちらも知人である。

 それもあんまり会いたくない。


 おじさんの方は……文人だ。

 上背のある男が所在なさげにブランコに座っている姿は、どことなく哀愁を誘う。


 その隣で地面を睨み付けているのは、見覚えがあると思って少し考えて思い出した。

 いつか会ったありあちゃんのお兄ちゃんである。

 この間のことを思い出して、わたしは身震いした。

 思い出しちゃいけないことってあるんだよ!


 回れ右して帰りたい。

 しかしである。

 あの二人、いったい何時からここにいたのだろうか。

 この寒空の下、口を利くでもなくブランコを漕ぐ男二人。

 ……っ、ああもう!


「なにやってるの」

「ミア」


 顔を上げた文人が、出てきたわたしを見て驚いた目をする。

 隣のありあちゃんのお兄ちゃんはむっつりして、知らん顔をしている。

 何となく、事情を察した。

 公園に居たがっているのはお兄ちゃんの方で、文人は付き合っているだけのようだ。


「……うち、今日はごちそうなんだよ」


 ぼそりと呟くと、文人が瞬いた。

 不思議そうな文人に、もう少し説明を添える。


「ママの作るスープ、すこしくらいならわけてあげる」


 冬の戸外で黄昏ているようなおバカたちには勿体ないぐらいです。

 あああ……


 やっちゃいました。

 何でわたしは突っ込まなくてもいいところに行っちゃうんですかー!


前後編です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ