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1・この美しき世界

 嗚呼、なんて美しい夕日。

 鮮やかなオレンジの日差しが窓から差し込んで、チラチラと踊る。

 わたしはうっとりとそれに手をのばした。


 今日はあれを試してみたい。

 やったことなかったんだよね。

 夕日に向かって叫べ!


「ふゃぁあああ!」


 忘れてました。

 わたしは今、話せないのでした。

 何故かって?赤ちゃんだからです。


「あああ! ふぁあん!」


 話せば長くなりますが、わたしには前世の記憶があります。

 ついでに言えば、前々世の記憶もあります。

 超記憶能力というわけではないので、普通の人が昔を思い出すくらいの感覚ですが。


 いやしかし、酷かった。

 前世のことを思い出すと、わたしの体は震え出す。

 ひどい目に遭った。

 遡ること前々世。いち女子高校生だったわたしは、かなりのゲーム好きだった。

 それもゲロ甘の乙女ゲームとか、萌え重視の路線だった。

 その時はよかった。

 いくつかお気に入りのシリーズもあったし、純粋に面白かった。それが自分の身に降りかかってくる前は。


 その次、わたしが生まれたのはどこかで見たような世界だった。

 小さいころからアレ? とは思っていたけれど、本格的に異常に気がついたのは、中学生になった時だ。

 入学式にて、無駄に美形なクラスメイトたちを見て、ようやく思い出したのだからわたしもおめでたい。


 これって昔やったゲームと同じじゃないかあぁあ!

 見覚えのあるクラスメイト、先輩、先生。

 皆さん笑顔が爽やかですね!

 近寄らないでくださいぃ!


 わたしの名前が主人公と同じだったことに気がつくも、すでに遅し。

 わたしは愛憎渦巻く恋愛ゲームの中に放り込まれ、もみくちゃにされたのだった。


 ブルブル。

 思い出しただけで震えが止まりませんよ!


 またしても生まれ変わったわたしだけど、今世では恋愛はしないと決めている。

 目指せ独身貴族!

 前世では色々あったけど、今度は振り回されないよ!

 あの世界から脱出できたというだけで、嬉しくて仕方ない。


 世界が美しく見えるなんて言ったら大袈裟?

 でも事実なのだからしょうがないでしょう。


 とんとんと足音が近づいてきた。

 部屋のドアが開く。


「ミア?」


 声をかけられて思い出す。

 そういえば、わたしさっき叫んでましたね。思いっきり。

 どうやら様子を見に来てくれたらしい。

 ベビーベッドから抱き上げられて、あやされる。


「みぃちゃんどうしたの? ご機嫌斜めかな」


 とんでもないですお母さま!

 この人は今世のわたしの母である。

 名前はまだ知らない。

 シングルマザーで、日々四苦八苦しながらわたしを育てている。

 手をのばせば、華奢な手のひらにきゅっと包まれた。


「みぃちゃんゴメンね。もう少しいい子にしてて?」


 困ったような顔で母が笑う。

 母はわたしの世話をするとき以外は、別室で仕事をしている。

 親子二人食べていくにもお金は必要だ。


 ……ごめんね、ママ。邪魔するつもりじゃなかったの。


 しゅんとしたわたしの頬をくすぐって、母はわたしをベッドに下ろした。

 まだ寝返りできないわたしに丁寧に布団が掛けられる。


「お休み、ミア」


 お休みなさい。

 あやすように布団の上をぽんぽんと叩かれて、わたしは大人しく目を閉じた。


 わたし、早く大きくなるよ。

 そうして楽させてあげるからね! お母さま!

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