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第4話   曲がらねば世が渡られぬ

 燕国親衛隊、一騎当千の実力を持つ隊員にのみ編成された国内最強の戦闘集団で、まさしく燕国の切り札と呼ぶに相応しい存在であろう。そんな彼らは王女と共に国境付近に現れた凶悪魔獣の退治に向かい、その実力を遺憾なく発揮し、わずか一ヶ月で掃討し終え、先程王宮に戻ってきたばかりであった。

 そんな遠征の報告を王女と親衛隊隊長に任せ、親衛隊副隊長のマシュー・クシロと同隊員ノサップ・コタルはこの国の王子、権兵衛の私室に向かい歩いていた。


「ノサップ、俺はもう限界だ。もし今回の説得が駄目なようなら強硬手段に出る」

「落ち着けよマシュー。そんなことしたらギリギリとどまっている王子派との対立の均衡がくずれて泥沼の展開になっちまう。姫様もそんなの望んじゃいないだろ」


 ノサップは表情こそいつも通りの眠たげな眼をしていたが、その声には明らかにあせりの雰囲気が窺える。


「泥沼?あの馬鹿王子が外で好き勝手に遊びまわり、俺たちがその後始末に走り回ることを繰り返してる今の状況は泥沼とはいわないのか?」


 そう言われてしまうとノサップは押し黙るしかなかったがマシューは怒りが収まらず喋り続けた。


「これならまだ引きこもって一日中ネットをしてもらったほうがマシだ。俺はなんとしてでも王子の性根を叩き直すぞ」


 そこでちょうど王子の部屋の前にたどり着いた。見張りはマシューの怒気に気圧され、止めることができずに部屋の中への進入を許してしまった。


「王子!お話したいことがございます!!」


 そこで彼らが見たのはジャージ姿でポテチをむさぼり、コーラ片手にネトゲをやっている権兵衛の姿であった。

 ・

 ・

 ・

「願いがかなってよかったな」

「別に願ってねーよ!何なんだよアレは、叩き直そうにも陥没して修正しようがねえじゃねーか!」

「けどあれだと少なくとも国民には迷惑かけないし、浪費だって以前と比べたらはるかに安上がりになってるぞ」

「分かってるよ!確かに前よりはマシだよ。けど何か違うだろ!」


 権兵衛の姿を見て唖然としてしまった2人はその隙に見張りと応援に駆けつけた衛兵によって追い出され、そのまま親衛隊の執務室へと呼び出されていた。


「王子の事は俺も先ほど女王に直接聞いた。最初は何かの冗談かとも思ったがお前達の反応を見るにどうやら本当に王子は変わられたようだな・・・斜め下の方向へだが・・・それでもよろしいのですかな?」


 囲みひげの偉丈夫、親衛隊隊長シャーロック・エベツは本来ならば自分の席であるその場所に座っている少女へと話しかけた。


「ええ、所詮優秀な方がついてくださればお兄様が王になろうが、わたくしが王になろうが国は動きますの。お兄様があんな状態なら少なくとも足を引っ張るような真似はもうしないはずですの。シャーロック、波風立たぬよう調整をお願いしますの」


 燕国王女、山本マヤは隣に立つ自分が最も信頼する親衛隊隊長に、自分の派閥についている家臣にもう自分は王になる気がもうないので、不肖な兄をどうか支えてやってほしいと説得をしてくれと頼んだ。


「しかしよろしいのですか?そうなれば元々王子ついていたトミーが権勢を振るうことになるのですが」

「あんな出がらしにいいように扱われるような無能はわたくしの家臣にはおりませんの、そもそも自分で権勢を振るう度量なんてあの小物にありませんの、威張りたいけど責任ある立場にはなりたくない、お兄様が権勢を振るわなくなった今、わたくしの家臣たちに埋もれ今度はわたくしに擦り寄ってくるのが関の山ですの」


 そんなシャーロックの懸念をマヤは一蹴した。


「それで、お兄様はなんでもない、なにもなかったの一点張りでしたが調べてきましたの?」

「はい、やはり権兵衛様がああなられたのは神柱様と接触された一夜明けた日からだそうです」


 シャーロックの報告を受けたマヤはしかめっ面になり親指の爪をかみ始めた。


「やっぱり神を取り入ろうとしたようですの。それでキレたフォーミラ様がお兄様をボコボコにして強制更生を?」

「いえ、それが文字通り就寝されて一夜明けたらああなっていたそうで、天神様たちが帰られた後は特に変わったご様子はなかったそうです」

「そうなると事が起きたのは真夜中という事ですの?誰にも気付かれずに王宮にもぐりこんでまた抜け出したということですの?監視カメラの映像はどうなっていましたの?」

「カメラには一ヶ所を除き何も映っておりません。その一ヶ所も王子の部屋の前のカメラで見張りの者が席を外した直後に正体不明の衛兵と女中が部屋に入ったという映像で犯人を特定できるものは何も・・・」


 いくら自分たち親衛隊が不在の上、王族が嫌われ者の王子しかいないため衛兵たちのやる気がなく、ずさんな見回りだったのかも知れないが、それでも王宮に忍び込まれ王子を危険にさらしてしまったという事実を認めたくはないのでシャーロックはそれ以上は言葉を濁すだけになってしまった。マヤもこれ以上聞いても有益な情報は聞けそうにないとシャーロックの報告を手で制した。


「とにかくお兄様がなにもないと言ってる以上、こちらもそれ以上追求できませんの。ぶっちゃけ悪癖を矯正してくださった方には感謝状を差し上げたいところですがそれはそれ、我が王宮に忍び込んだケジメだけはしっかり受けさせなければいけませんの。その為に容疑者から事情聴取をしに行きますの」




「非常にまずいですわ」


 燕国の神が住まう燕在神社のとある早朝、公太郎たちが朝食を取っているところに青ざめた顔をした宮司のバーバラがそう呻きながら食卓に入ってきた。

 するとメイベルは申し訳なさそうに誤った。


「すいやせん、やはり朝だということであっさりめのものを用意したんでやすが、やはりバーバラ様は高カロリーのものしか体が受け付けられねーんですね」

「朝食の話じゃありません。てかお前私のことそう思ってたんだな」


 バーバラはあさっての方向を向いているメイベルを睨みつけると今度は公太郎に顔を向けた。


「実は王宮の親衛隊宛てから連絡が来ました。権兵衛様から王宮へ呼ばれた日のことで2、3聞きたいことがあると」


 そうすると一同は神妙な面持ちになり、平助はおずおずと手を上げた。


「それってやっぱりミラ様たちをとりこもうとしていた件じゃ?」

「いいえ、おそらくその後のハム太郎が馬鹿王子を説得をしに王宮へもぐりこんだことについてですわ。ハム太、改めて聞きますがホンッッッとに王子には手を出してないんでしょうね」

「そんな、手を出すなんてひわいな…」

「あ゛あ?!」


 フォーミラの問いに公太郎は緩んだ顔をして答えようとしたが、彼女の鋭い眼光が突き刺さると姿勢を正し真面目に答えた。


「出してないです。天地神明にかけて王子に暴力行為は働いていません」

「その《は》のところが引っかかりますが、そこは信用しましょう。そうなると実害がない以上、親衛隊むこうも踏み込んだことを聞いてこないはずですわ」

「それはおかしな様子はなかったかとか怪しい人物は見なかったとかそういうことですよね、ならば考えがあります、これを見てください」


 バーバラはそういうと一枚の手配書を取り出した。


「バーさん、これは?」

「耳なしライオス。最近この国を騒がしている凶悪犯罪者です」


 耳なしライオス―――現在強盗殺人の容疑で指名手配されているライオンの獣人。その特徴は二つ名の通り、幼少時に両親の虐待によって失った両耳と、残虐な性格で相手の返り血を浴びすぎてすっかり染め上がってしまった赤いタテガミである。


「じつはあの日、王宮に向かう途中に彼を目撃したんです。あのあと色んなことがありすっかり忘れていましたけど、先日この手配書が見たとき思い出しました。こんな特徴的な外見は見間違えようありません」

「なるほど、疑いの目を彼に向けさせるということですね」

「その通りです。こちらとしても嘘はついていませんからね、後で目撃場所などを教えますので今回はこれで乗り切りましょう」

 ・

 ・

 ・

「始めまして地神さま。王宮では都合がつかず、ご挨拶が遅れて申し訳ございませんでしたの」


 その日の午後、親衛隊は王女を伴って神社へやってきた。その為親衛隊が調書を取るはずだったのに、応接室にとおされ、神柱たちの対面のソファに座ったのは王女で、本来座るはずだった生真面目そうな男と眠そうな目をしている親衛隊員は後ろで待機する羽目になっていた。

 公太郎は王女を始めて見たが、確かに美形の権兵衛王子の妹だと思える金髪の美少女であった、そういえばこの王女様はウチの天神様にあまり良い印象をもたれていないらしいが何が原因なのだろうか?

背丈は150センチ程で愛くるしくも気品漂うたたずまいは170センチ近いフォーミラを一回り小さくして一部分をそぎ落とした外見をしており、なにも知らない人が二人を見れば姉妹と間違えるであろう。

 ならば王女は彼女に同属嫌悪を抱いているのだろうかとフォーミラの方を向いて見ると、おそらく思ってもみなかった自分が嫌われている王女の来訪なのでどう対応すれば良いのか分からないのだろう、かなり緊張した様子だ、その証拠に手に持っていたアイスティーに入れるガムシロップをテーブルに落としてしまった。

 幸い封を空ける前で彼女のいる真下に落としたのだが何故か彼女は見当違いの方向を探している。では何故真下にあることに気づかないのかというと、それは彼女の胸が死角となってしまっているために気づかないのである。そうしているうちにどこに落ちたのか見当がつき、あろうことか自分の胸を腕で押しつぶして視界をつくりガムシロップを見つけたのであった。

 その一連の行動を見ていた一同は皆驚愕の表情をするしかなかった・・・いや、一人だけ違う表情をしている者がいる。マヤだ。彼女だけ親指の爪を噛みながらファーミラの胸を憎々しげに睨んでいた。マヤの表情を見た公太郎は同属どころか、どうしても超えられることのできない山が原因なのだと気づき、これ以上は王女が哀れに思えてくるので公太郎は二人の不仲の原因を考えるのをやめることにした。


「コホン、ではそろそろ本題に入らせてもらいますの」


 マヤは咳払いをして気持ちを落ち着かせるとまず自分の兄が神たちと接触した次の日から一歩も外へ出なくなったことを教えた。平助いよいよ尋問が始まるのだと思い気を引き締めた。


(いよいよ何か聞いてくるか。けどどうせ聞かれるのはバーバラ様や神さま中心だろうから俺はできるだけ黙っておこう)


 まずバーバラがミラに王子に対していたわる言葉をかけた。


「ええ聞いております。私も権兵衛様のことが心配で心配でこの通りやつれてしまいましたわ」

(あんた今朝もご飯3杯食ってただろ)


 メイベルも無表情に話に乗った。


「ええホント、アタイも心配で心配でやつれちまいやした」

(せめて心配そうな顔をしろよ)


 対して公太郎は心底心配そうな顔をしていた。


「やはり僕達が帰った後になにかあったんだな?僕は王子とは初対面だったからこいつらほど親しくはないけど、人並みには心配していたから知りたいことがあるなら何でも聞いてくれ」

(完璧すぎるわ。白々しさを通り越して空恐ろしさを感じるわ)


 一方隣に座っていたフォーミラは目を泳がせていた。


「しょ、しょしょしょしょれで、ワ、ワタクシたちにききき聞きたい事とはいた、一体なんなんなんですわ」

(フォーミラさまー?!)


 見事に彼女はテンパっていた。マヤも挙動不審な彼女にターゲットを絞ると、教科書どおりな聞き込みを始めた。


「まずフォーミラさまはあの日城からここへ戻ってきて次の日までどこかへ行きましたですの?」

「いいえ、ずっと神社にいましたわ。バーバラたちが証人になってくれますわよ」


 マヤの問いにファーミラは先ほどとは打って変わって淀みなくスラスラと答えた。


「では誰か怪しい人物を目撃はしていませんの?」

「み、みみみみみみみ見ましたわよ」

(分かりやす過ぎるぞ)


 平助は思わずそう叫びそうになったがここは黙ってみているしかなかった。


「本当ですの?一体どこで」

「ええホント、マジホントですわよ。た、確かお城に向かう途中で、えーとラブなホテル前の信号待ちの時に歩行者の中にどこかで見たことがある人がいましたわ」

「それは誰ですの?」

(王女さまも落ち着けよ)


 マヤもどうやら重要証言だと思ってくれたようでファーミラも食いついてきた。


「えーと、あ・・・」

「あ?」


 ファーミラの話を信じてくれるのは良いが、その分マヤも興奮してしまい必要以上に彼女に詰め寄ってきた為、フォーミラのテンパり具合はピークをむかえてしまった。


「あ・・・青色の耳がない猫の獣人ですわ」

(ドラ○もん?!)


 そうして打ち合わせたとは微妙に違うことを口走ってしまい、用意していた人物とはかなりかけ離れた犯人像が出来上がってしまった。


「あのフォーミラさま、あなたが目撃したのってもしかしてコレのことですの?」


 そう言ってマヤが持っていたスマホを操作して彼女に見せたのは平助の想像通り、某ネコ型ロボットの動画だった。


(落ち着いて下さいミラ様。今ならまだ言い間違いということで修正が可能ですよ。すぐ違うと言ってください)


 平助はそうアイコンタクトをしようとファーミラの方を向いたが、


「?えーと・・・そ、その・・・あれ?そーだったかなあ・・・」


 最初に不思議な顔をすると、後は冷や汗をかきながらタブレットを凝視し、曖昧に答えるだけであった。

 駄目だこいつ…早くなんとかしないと…。と平助はフォローを入れようかと思ったがここでこっちが違うと言おうものならフォーミラが嘘をついていたということになり、ではなぜ嘘をついたんだとさらに追及を受けることになってしまうため、彼は動けないでいた。

 しかしここで公太郎が動いた。


「おいおい、あんたらはこいつの話をちゃんと聞いていなかったのか?」

(公太郎様?そうか!ドラ○もんは向こうの聞き間違いということで押し通すつもりなんだな)


 それならばフォーミラが曖昧な返事をしているのは想像していた人物と違うモノを見せられて戸惑い、さらに自分がはっきり喋っていなかったせいなのか、それとも相手の単純な聞き間違いなのだろうか、どう指摘すればよいのかと考えていた為、あんな言いよどんだ答え方になっていたと言い訳が立つ。平助は公太郎にナイスフォローと心の中でグッジョブマークを送った。

 そして公太郎はスマホに近づくと画面に映っているネコ型ロボットに指を指した。


「ミラは青色といったんだ。コイツはどうみても水色だろ」

そっち(ドラ○もん)にフォローをいれるんかい!)

「それにこの声はわさびだろ。僕たちが聞いた声はのぶ代の方だ」

(結局そのままドラ○もんで押し通すのか!)


 するとマヤは顔を真っ赤にしてうつむき震えだした。対して平助の顔は青ざめていた。


(ああもう、これ絶対怒ってるよ。どうすんだよ?ドラ○もんなんて信じるわけないだろ)


 すると彼女は涙目になり顔を上げた。


「そ・・・そんなの最初からわかってましたの」

「「「えぇぇー!?」」」


 彼女は信じた。


「別にぃ、たまたま動画の中にぃのぶ代のがなかったからぁ仕方なくわさびの方を見せただけですの。色だってちゃんと手配書には青色に変更しますの」


 そういうと彼女はドラ○もんを映していたスマホでどこかに電話をかけた。


「もしもし、容疑者が浮かび上がりましたの至急ドラ○もんの手配書の用意を、え?わさびの方じゃありませんの、のぶ代の方、そうモノクマの方ですの。マシュー、ノサップすぐにお城の方へ戻りますの」


 言うが早いが、マヤは二人を置いてとっとと表に出て行ってしまった。

 そんな王女を眺めていた公太郎は平助に尋ねた。


「おい、この国の将来は本当に大丈夫なんだろうな?」

「・・・正直言って不安です・・・あんたらを含めて」


 だがこれで尋問が終わったと一安心をしたのもつかの間、未だに親衛隊の二人は王女を追わずに応接室に居座っており、その内の生真面目な副隊長が公太郎に物騒な事を言い出した。


「地神様、ちょっと面を貸してもらえますか?」

「えっ?!」

「なんで尻を押さえる?」



 現在家の中にいた一同は表に出て、公太郎とマシューが対峙している状態である。

 公太郎はメイベルに何か囁くと彼女は家の中へと入っていった。公太郎は彼女が家の中に入っていくのを見届けるとため息をつきながらマシューの方へ向きなおした。


「それで、外へ連れ出して何するつもりなんだ」

「単刀直入に言います。城へ侵入し権兵衛様と接触したのはあなたですね」


 マシューは最初から神たちを疑っていたのだが、どう考えてもファーミラの手口ではないので半信半疑であった。では新しい地神のほうかとも思ったが地球には魔法が存在しない上、長い間戦争がないために荒事に向かないのが地神の特徴であったため、せいぜい教唆犯ぐらいだろうと思っていたが実際会ってみてその考えを改めた。

 この地神は今までの者とは違う、マシューの直感がそう告げていた。地神は荒事に向かないというが隼国のように魔法を覚えたらメキメキと実力をつけた地神もいれば、隣の孔国のような例外もいる。公太郎は後者の方で堅気の人間ではないと彼は見抜いた。


「だが王子はなにも言わず、王女はドラ○もんを容疑者とした以上、俺があなたをどうにかする権利はありません。しかし俺たちがいない時を狙い王子の私室に侵入するとは卑怯千万の上、親衛隊の名折れケジメだけはつけさせていただく」


 それと自分たちがいなかったとはいえ王宮に侵入できたその実力を確かめてみたいという私心も彼にはあった。


「ようするにケンカしたいってこと?俺たちが城にいたらこんなこと起こらなかったはずだっていうことか」


 その時家の中に入っていったメイベルが二振りの剣と1本の槍を携え戻ってきた。その内の1本の剣と槍はマシューたちが家の中に入るときに預けた自分の得物であった。


「まあこっちもそう言うだろうと思って、ベルさんに預けた武器を持ってくるように頼んでおいたんだけどね。後腐れない様、真剣勝負だ本気で掛かって来い」


 そう言うと公太郎はメイベルから預かっていたマシューの剣と自分が使う剣を受け取った。


「真剣勝負って本気ですか?」


 平助はこの命に関わる勝負方法を止めようとしたが、バーバラが平助を制した。


「おやめなさい、平助。私たちがやることは公太郎様を信じることだけです。それに止めるとすればあちらの方でしょう」


 見るとマシューは笑いながら殺気を放ち、すでに臨戦態勢であり、もはや彼を止めることは不可能であった。


「うらみっこなしの一本勝負、勝敗がついたらどんな結果だろうとお互い黙って引き揚げる。いいな」


 マシューがうなずくと公太郎はマシューの剣を持ち主に向かって放り投げた。マシューがそれを受け取るとそれが開始の合図とばかりに公太郎はマシューに向かって突進を始めた。


(まっすぐこちらに向かってくるか、その心意気やよし!ならばこちらも一太刀で楽に?)


 彼の思考はそこで止まってしまった。なぜなら自分の剣を抜こうとしても鞘から抜けなかったのである。マシューはたまらず自分の愛剣に顔を向けると鍔のところがうっすらとてかってる。

 やられた。おそらくこれは接着剤だろう。あの時地神がメイドに囁いていたのは武器を取りに行くことではなくこの仕込みを指示していたのだろう。

 そう思い至った瞬間、マシューの首筋に鞘に収まったままの剣がのせられた。


「はい一本、勝負ありだな。それじゃあ約束どおり大人しくお帰りください」


 公太郎がそう告げると、マシューは怒りの形相で顔を上げ何かを言おうとしたが、公太郎はさらに言葉を続けた。


「親衛隊というからには、悪い魔物相手のゴリ押しだけでなく悪い人間相手も経験しな、そうしないといざ肝心なときにこうなってしまうぞ」


 それを聴いた瞬間マシューは顔を真っ赤にしてなにも言わずにそのまま鳥居をくぐり階段を下りていった。

 マシューを見届けた平助とバーバラはあの時彼が言おうとした台詞を代弁するかのようにつぶやいた。


「きったねー」


 だが他の者は違った。確かにマシューは隙を見せたが、それは公太郎がまだ隙を見せる余裕がある距離にいたためである。彼が虚を突かれたのは公太郎が想定外の速さで間合いを詰めた為であり、決して卑怯な手だけで彼に勝ったわけではないのである。だからマシューはなにも言わず大人しく引き下がったのだ。

 ただ1人残されたのノサップもその事実に気づいた一人でメイベルから預かっていた武器を返してもらい一礼をして王宮へ帰る前に振り返りこう言った。


「できれば仲良くやって行きたいですね。それじゃ」




 その後「耳なしライオル」の隣に青みが強いネコ型ロボットが移った手配書が燕国に出回りだしたのはそれから数日後のことであった。

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