表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第3話   魚は殿様に焼かせよ、餅は乞食に焼かせよ

 神は国から生活費を支給されるので基本的に働かなくて良い。

 正確に言えばこの世界に存在してくれていることが神のお仕事であり、国からの支給はそのお仕事に対するお給料なのだ。

 だからといってそのまま働かずにいるのは体裁が悪いからなのか、はたまたアダムやイザナミがそういう気質の人物を選んでいるからなのか、現在現存する神々は皆、何かしらに従事している。

 その中で最も多いのは居住している神社の手伝いである。神という肩書きが最も生かされ、神が参加する祭事などはやはり受けが良く好評に終わるので、宮司達は新しい神が降りるとまずこの仕事を勧めてくるのであった。

 だからといって皆が皆、神社に就いているわけでもない。燕国の天神、フォーミラ・ゲイル・ロブウェイもその1人である。彼女はその持ち前の戦闘力を生かし、ギルドから斡旋される魔物退治といった仕事をこなしている。

 ギルドとは簡単に言えば冒険者を管理する組織の事を指し、冒険者の主な仕事内容は魔物退治である。ここ異世界ノアは地球では見かけない凶暴な獣、いわゆる魔物が存在する。この魔物は人間を襲うのだが、各都心には魔物を寄せ付けない魔法結界が施されている。

 しかしこの結界には欠点がある、ひとつはこの結界はいわば上からフタをかぶせるようなものなので範囲内に魔物がいる状態で結界を張ると、逆に魔物は結界の外へと逃げられない檻に閉じ込められる状態になってしまうのである、そのため一般的に結界を張るときは未開地の土地で魔物を一掃してから結界を張り、その結界内で開拓していくのである。

 さらにもうひとつの欠点は結界をゴム製の網に例えると、結界の中心から離れれば離れるほど網の目が広がっていき、網の目は魔物の力が小さければ小さいほど通り抜けられるようになってしまう、その為必然的に結界の中心には人口が密集し富裕層を良く見かけ、中央へ離れれば離れるほど貧困層が目立っていくのである。

 ギルドはこのような未開地の開拓の場合は国から掃討作戦の為、軍以外の戦力として冒険者を派遣してもらうよう依頼をされたり、打ちもらしたり結界に入り込んだ魔物を退治してもらうため、付近の住人や自治体が依頼をしてくるのである。



 公太郎が地球で死に異世界に神としてよみがえり、ここの生活にも慣れてきたとある日、公太郎は町外れのとある場所に向かっている車中にいた。今走っている車は以前乗ったバンとは違い今回は一回り小さいミニクーパーである、では何故、前回乗ったバンを使っていないのか、その最たる理由は今回はバーバラが乗っていないからである。

 車中には運転席にメイベル、助手席に平助、後部座席の左右に公太郎とフォーミラが座っている。今回バーバラは宮司という本来の仕事の為、神社で留守番をしており、何かの用で車を使う場合、バンでなければサイズ的に彼女が乗り込めないからだ。

 では彼らはどこに向かっているのかというと、ある日フォーミラがギルドの仕事をしていると聞いた幸太郎が自分もどんな仕事か体験したいと言ってきた。その為メイベルはギルドから魔法を使えない公太郎でもできる仕事がないかと依頼したところ、今回の仕事を斡旋してもらったのである。

 ギルドとしても、なにせ神なのだからこれ以上にないくらい身分がはっきりしている上、フォーミラの武勇は他国にも知れ渡るほどの腕前で現にいくつもの魔物退治の依頼をこなしている、そんな彼女がついているのなら、下手に得体の知れない冒険者に依頼するよりも安心して任せられるのであった。

 そうして請け負うことになった依頼内容はとある牧場の「害虫駆除」で、公太郎たちはその依頼主がいる牧場へと向かっているのであった。



 車を走らせて約一時間、たどり着いた場所は人里から離れた草原地帯で、目の前には山と森が広がる大変のどかな場所に目的地である牧場があった。

 周りに民家がないためか申し訳程度に作られた木の柵の中に牛が放牧されており、牧場の入り口にはこの牧場の主であり、今回の依頼主が待っていた。


「ようこそお越しくださいました、天神さま、地神さま。私が依頼をした牛山ホル夫と申します」


 そう言って公太郎に握手を求めてきたが、差し出されたのは手ではなく蹄であった。そう依頼主は人間ではなく牛の獣人だったのだ。

 ホル夫は公太郎が自分を奇異な目で見ていることに気付いた。


「おお、そういえば地神さまはまだこの世界に降りられたばかりでしたな。では獣人を見るのは初めてでございましたか。ならば珍しがるのも無理もないこと、しかし基本的に牛の姿をした人間だと思ってください。獣人のことについて何か気になることがお有りなら遠慮なく聞いてくださって結構ですよ」


 ホル夫は屈託ない笑顔で言ってくれた。

 それならばと公太郎は考えた、彼は獣人ならば美少女が牛耳と尻尾を生やした姿を想像していたのだがホル夫を見ると彼の言うとおり牛が2速歩行をしている外見である、ということはメスの獣人も・・・と、この質問は現実を知るのが怖くてとても聞き出せない。それでも公太郎はどうしても聞きたいことがあった。それはこの世界に来る前から、それどころかこの世界に来て見てからさらに気になってしまったことをホル夫に聞いてみた。


「女性の牛の獣人の方はあそこで牛を見てる牛チチ娘並のバストなんですか?」

「お前は何を聞いてるんだ?!」


 平助のツッコミを無視し、公太郎は少し離れたところで牛を眺めているフォーミラを指差し尋ねた。


「いえ、その・・・天神さまのモノと比べるなんて畏れ多い」


 するとホル夫は困った顔になりそう答えた。それは神と言う地位に対してなのか、それともサイズに対して畏れ多いのか気になったが、答えてくれそうにないので公太郎は、また別の気になることを聞いた。


「ここが牧場ということはホル夫さんはあそこにいるを牛を食べてるってことだよね、それって倫理的にどうなの?」

「それなら心配は要らないです。確かに私は牛肉も食べますが魚だって小さい魚をエサにしているでしょう。だから気にするようなことじゃございません。それにここにいる牛は全て乳牛ですので」


 今度の質問はホル夫はちゃんと答えてくれた。乳牛ということは、ここの牛は牛乳を搾るためだけの牛で食肉には使わないということだ。


「いやそれでもオスの牛が生まれたり、メスでも何らかの理由で食肉にしてしまうこともありますね。ああそうだ、ちょうど昨日処理した肉がありますのでよろしければ食べてください」


 ホル夫はそう言うと公太郎たちを自宅まで招待した。



「どうぞお待たせしました」


 自宅の食堂に案内したホル夫は公太郎たちをテーブルに座らせ、自分は台所へ肉の調理をしに行った。そうしてしばらくすると調理したステーキを持ってきた。


「うおーこれはうまそうですね」


 平助はその蹄でどうやって料理をしたのか気になったが、そんな疑問はステーキから漂う香りによってあふ出る唾液と共に飲み込んだ。


「はっはっは、なんと言っても愛情がこもっていますからね。さあ冷めないうちに召し上がってください」


 ホル夫は上機嫌に勧め、それではと平助が肉を口に入れようとした瞬間、隣の部屋からホル夫の子供らしき小さな牛の獣人が入ってきた。


「なーとーちゃん、かーちゃんはどこ行っちゃったんだよ?」


 するとホル夫は急に大量の汗が噴き出し、子供ではなく何故かステーキに視線を向けた。


「き、昨日も言っただろ、お母さんはちょっと遠くへ旅に出てると。そ、それよりもお客さんが来てるんだ!ほら、部屋に戻りなさい」

「でもかーちゃん、昨日の昼までいたけど、旅行の準備なんてしてなかったよ?」

「いいから部屋に戻るんだ!」


 ホル夫は凄まじい形相になり子供を部屋に押し戻すし興奮して乱れた呼吸を整えると、先ほどまでの形相とは打って変わった笑顔で平助たちの方へ振り返った。


「さあ冷めないうちに召し上がってください」

「食えるかぁー!!」


 平助は手に持っていたナイフとフォークをテーブルに叩きつけ、慌てふためいた。


「え、何?このステーキがそうなの?この肉がお母さんなの?」


 だが幸いにも平助は口をつけてはいなかったのですぐに落ち着きを取り戻し、ならば他の者はどうなっているのだとメイベルの方へ顔を向けると、200gはあったはずの肉はすでに平らげられており、ナプキンで口を拭いている最中であった。


「ベルさぁーん?!」

「火の通りが甘い」

「鬼畜か!!」


 次に公太郎を見やると、メイベルのように完食とまでは行かないが、それでも4分の1ほど食べてしまっていた。


「これは父の精、母の血液、捨ててなるものか!もぐもぐ」

「なんで夏侯惇?目玉でもねーだろ!」


 ではフォーミラはどうしているのかと見てみると、なぜかフォーミラの席には誰もおらず、どこに行ったんだと立ち上がると、席の下でうずくまっている彼女の姿を見つけた。やはりこの得体が知れない肉が原因なのかと近づいてみると、彼女はお腹ではなく胸を押さえていた。なぜお腹ではなく胸を押さえているのだろうと平助は疑問に思った。


「大丈夫ですか、フォーミラ様?くそっ、やはりこのステーキに使われている肉は…」

「それは違うぞ平助。このステーキは間違いなく僕が知る牛肉の味だ。ミラがああなっているのは肉の方ではなく皿の方に問題があるんだ」


 公太郎はフォーミラがうずくまっている原因が特定できたようで何やら神妙な顔をしている、平助は改めてテーブルの上を見てみる。

 テーブルの中央にはガーリックや香辛料といった調味料が置かれており、彼女が座っていた席の前には問題のステーキが置かれている。肉の方は手付かずで一切れも口にしていないようで公太郎の言うとおり肉を食べてうずくまったわけではないようだ。では原因である皿の方はというと、家庭では余り見かけないが、専門店やファミレスでは使われる本格的な鉄板のステーキ皿で、ソースなどで冷めた肉を温めるペレットも乗っていた。と、そこで平助は信じられない答えに辿りついた。

 つまり彼女はテーブルの中央に置いてある調味料を使おうと手を伸ばし体を前屈みにしたところ、本来ならステーキ肉を乗せるはずのペレットに自分の乳肉が乗っかかってしまい火傷を負ってしまったのである。

 平助は視線を上げるとメイベルやホル夫は口を開け驚愕の表情をしていた、おそらく自分と同じ答えに行き着いたのだろう、そして自分も彼女達と同じ顔をしているのであろう、一同は自分達では決して起こりえない事故に只々愕然とするしかなかった・・・




 公太郎たちは現在ホル夫の家から歩いて10分ほど離れた森の中を歩いている。結局あのステーキに使われていた肉はちゃんとした家畜乳牛のホル美ちゃんで、奥さんのホル子さんではないとホル夫から説明を受けた、その後本来の目的である害虫駆除を行う為にここまで案内された。

 公太郎は害虫駆除というのでてっきり畑まで案内されると思っていたが、付近にはそれらしきものがないのでホル夫に聞いてみた。


「ホル夫さん。仕事の内容は害虫駆除と聞いたけど、こんな所に駆除したい虫なんているんですかい?」

「ええ、駆除してもらいたい虫はミミズなんですが、あ、ほらあそこにいました」


 そうしてホル夫は何故か山の方へ指を指した。公太郎は指差す方へ見てみると、森の木々の間から10メートルはあろう巨大なミミズが頭を出した。大ミミズはこちらに気付いたらしく、木々をなぎ払いながらまっすぐこちらへと向かってきた。

 公太郎はそのまま数秒、大ミミズを眺めるとホル夫の胸倉を掴んだ。


「オイコラ、ホル夫!害虫駆除というか怪獣駆除じゃねーか!こんなんウルトラ警備隊なり然る所で対応しなきゃアカンやつだろ」

「ヒィィ、スンマッセン。けどどうしても内密に処理をしてもらいたかったんです。息子に、ホル介には絶対知られたくはないんです」

「?どういうことか教えてくださる」


 フォーミラがそう尋ねると、公太郎は胸倉を放した。


「実は息子には神様が来たのは牧場見学ということにしていて、あのミミズの事は何も言ってないんです」

「そりゃまたなんで?」

「先ほど妻がいないことを話してましたよね。その原因があの大ミミズなんです。家では家族の目もあるのでいつもこの場所であいつと2人きりの時間を作っていたんです。そして昨日もいつも通り2人きりでいたところにアレが現れたんです。私は思わず大きな声を上げてしまいました。そうしたらミミズが襲い掛かってきてあいつが・・・私の愛するあいつが奴の下敷きに・・・」


 そういってホル夫は蹄で顔を覆いうつむいてしまった。話を聞き終わったフォーミラは、そのまま無言で大ミミズの方へ歩いていった。


「ミラ、1人で大丈夫なのか?」

「ハム太郎、ワタクシを甘く見ないでほしいですわね。良い機会ですので魔法がどんなものか教えてさしあげますわ」


 公太郎はメイベルの方へ顔を向けると、彼女は無言でうなずいた。どうやら心配は要らないようだ。


 ファーミラは一同から数メートル離れたところで立ち止まると、腰に下げてるレイピアを抜き構えると目を閉じ、精神を集中した。

 すると彼女の体からうすぼんやりと淡い光が発せられてきた、おそらく大気中のマナを魔力に変換しているのだろうと公太郎は推測した。そうして体中から発せられる光はやがてレイピアの先端一点に集まってきた。

 そうしているうちに大ミミズは彼女の間近まで迫ってきていた、大ミミズは獲物を叩きつぶそうと前身を直角に起こした。後は起こした前身を獲物にたたきつけるだけだったのだが結果そうはならなかった。その瞬間フォーミラはレイピアを突き出し、ミミズの頭に魔力弾を打ち込んだのだ。魔力弾を直撃したミミズの頭は爆散し、その反動で頭を失った巨大なミミズは仰向けに倒れると、やがてその巨躯は消え去り、石ころだけが残ったのであった。



 これが動物と魔物の大きな違いで、動物は死ぬと遺体はそのまま残り、やがて土へと還るのだが、魔物の場合は死ぬと肉体は消失し、魔石と呼ばれる石が残る。この魔石はギルドが買い取ってくれ、買い取ったギルドは然るべき所に卸し、魔力をエネルギーとする品の動力やバッテリー、ケーブルなどに加工されるのだ。



 大ミミズを一撃で倒したフォーミラは公太郎に笑顔で振り返ると、腰に手を当て巨大な胸を張った。公太郎はあまり怒らせたらいかんなと思いながら彼女に拍手を送るのであった。




 その後仇をとってもらったホル夫は感謝の言葉を述べ、家の肉をお土産に渡したいと再び公太郎たちを自宅へと招待した。


「おーい、ホル介。悪いが冷蔵庫に入ってる紙袋を持ってきてくれ」


 だがいつまで待ってもホル介はこなかった。不審に思ったホル夫は公太郎たちをその場で待たせ、ホル介の部屋へ尋ねに行ったが、しばらくすると顔面蒼白のホル夫が部屋にはいなかったと告げ戻ってきた。

 事態の深刻を感じた公太郎たちはひとまず家の中を探してみようと手分けして家捜しを始めた。やがてステーキをご馳走になったテーブルの上に、出かける前には見かけなかった封筒を見つけた。

 一堂に緊張が走った。公太郎が代表して封筒を空け中の手紙を読んでみると、


『ホル介は実家につれて帰ります。二度と近づかないで下さい   ホル子』


 という内容と共に離婚届が同封されていた。


「・・・・・・」


 公太郎たちはジト目で、いつのまにか窓際に離れてあさっての方向を向いているホル夫をにらみつける。


「おいホル夫・・・これはどーゆーことだ?」


 平助が尋ねると表情は見えないが滝のような汗を流しているホル夫は答えた。


「どうやら実家に帰っていた女房が子供を連れに戻ってきていたようです」


「何で実家にけえったんだ?」


 メイベルが尋ねると表情は見えないが小刻みに震えているホル夫は答えた。


「昨日妻に浮気現場を見られたからです」


「じゃあ、あの時仰っていたミミズが原因と言うのも・・・」


 ファーミラが尋ねると表情は見えないがさっきよりも激しく震えているホル夫は答えた。


「あのミミズが森の中からひょっこり頭を出していたのを妻が偶然目撃したみたいで、私の事が心配で探しに行ったら不倫現場にバッタリと、私が驚いて悲鳴を上げても妻は何も反応せず無言のまま家の方へ・・・それが妻を見た最後の姿でした。一方私はズボンをはくのに手間取っているうちに私の悲鳴を聞きつけたミミズが現れ、その時に浮気相手が襲われてしまったんです」


「ちなみにその浮気相手とは?」


 公太郎が尋ねると汗や震えがいつの間にか止まっている何かが吹っ切れたのだろう、そうしてやっとこちら側を向くとホル夫は答えた。


「家畜乳牛のホル美ちゃんです」


 直後、公太郎たちはホル夫を袋叩きにした。


「なに家畜相手に浮気をしてるんじゃー!」

「そりゃ子供にはとても伝えられねーわなー!」

「返せ!!1600字前のワタクシの気持ちを返せですわー!」

「てゆうか不倫現場って、お前はいったいナニしてるところを目撃されたんだー?!」


「ギャアァー!!・・・」




 こうして公太郎の初仕事は終了したのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ