表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第1話   人間万事塞翁が馬 【前編】

 ――――橘 公太郎  享年27歳

 

 職業上長生きは出来ないとは思っていたがまさかあんな形で命を落とすとは思っていなかった。いつどこで死んでもそれが自分の運命だと達観していたものの、いざ死んでみるとやはり未練はある、まだ今週号のジャンプを読んでいないし来週の相棒も見たい、しかし最たる懸念は自宅のパソコンの隠しフォルダがどうか見つからずそのまま処分されますようにと思ったところで死んだはずの自分に意識があることに気付き、そこで目を覚ました。


「お目覚めになられましたか地神様」


 それはふくよかというにはあまりにも大きすぎた。大きくぶ厚く重くそして大雑把過ぎた。それは正に○ツコだった。


「マ・・・」

「○ツコと言ったら許しませんよ。ていうか何でベルセルク?」

「すいません。徳州会の長女さん」

「ほぼ○ツコじゃねーか」


 公太郎あたりを見渡した。自分は確か死んだはずだ、もし何かの奇跡で蘇生したのだとしたらそこは病院のはずなのだが、目を覚ました場所は病院ではなくあえていうのなら寺…どちらかというと神社の社のような場所で自分の姿も入院服ではなく平安風装束だった。そしてこの場にいるのは神祇姿の○ツコと両隣にいる高校生ぐらいの、同じく小袖を身に着けた緑髪の短髪の少年と、二十歳前後のこの場には似つかわしくない、メイド服姿をした赤毛の女性の三人の人物であった。


「あの・・・ここは一体何処なんでしょうか?徳州会に入院した覚えはないんですが・・・」

「徳州会にも離れて下さい。私の名はバーバラ、このお社の管理を任されているものです。そしてここは地球ではない別の世界ノア、その中の国の1つえんのお社でございます」


 ○ツコもといバーバラの言葉を聞いたとき、公太郎の頭の中に浮かんだのはドッキリだった。


「え・・・ちょっと待ってください。頭の中が混乱して・・・どういうことですかバラ肉さん」

「バラ肉ってなに?いいかげん私の体格から離れないと殴りますよ」


 バーバラの説明ではここ異世界ノアは地球の神イザナミと別の異世界の神アダムが創った世界であり、この世界を維持するためにはそれぞれの神がいた世界の魂が必要で、その魂が楔となって世界を維持しているのでこの世界ではその楔となった魂の人物を神柱みはしらと言い、アダム側の神柱みはしらを天神、イザナミ側の神柱みはしらを地神と呼ばれている。だが神と言っても身体能力は元いた世界の頃とまったく同じ状態で普通に年を取るし病気や怪我もする、もちろん死も平等に神にも与えられる。


「そして現役の神柱みはしら様がお亡くなりになられると天神様の場合はアダム様が、地神様の場合はイザナミ様がそれぞれの世界の天へと召される魂をこの世界まで引き連れてこられ、その魂が新たな神柱みはしら様へとなられるのです」

「天へと召される魂?それってようするに生きた人間ではなく死んだ人間をここへ連れてくるということですか」

「その通りでございます」


 公太郎の問いにバーバラは肯定した。

 その説明で公太郎は何故死んだはずの自分が生き返ったのか納得した。さらに生きた人間が連れてこられたのならば拉致されたと言う事で元の世界に帰せとゴネられるが、死んだ人間を生き返らせたのならば感謝こそすれ、非難のしようがない。現に自分が死んだ時は未練たらたらだったのだ、ならば大人しくこの世界で神様として第二の人生を過ごすしかないと悟った。

 

「そういえばまだ後ろの者たちを紹介していませんでしたね、この子達はこれから身の回りの世話をする私の部下です」

「メイベル・フォーンといいます。よろしくお願いしやす」

「・・・はざま平助です」


 何やら怪しげな敬語を使うメイドに明らかに不服そうなむっちゃ日本名な少年に公太郎は一抹の不安を覚えた、特に平助には何か質問をしたら「別に・・・」と答えるのではないかという思いがあったがその考えを押さえこちらからも自己紹介をした。


「あーと・・・神さまになった橘公太郎です。それで神になって異世界に暮らすことになった僕は何をすれば良いんですか。奴隷娘を引き連れて迷宮に潜るんですか?それとも種馬として食っちゃ寝してれば?」

「後半当たってます、食っちゃ寝が正解です」

「マジで?」


 まさか正解するとは思わなかった。文字通り『存在する』だけでかまわないらしく、国から充分な生活保護費が支給されるのでそのまま食っちゃ寝してても暮らして行けるらしい、またそれを元手に何か仕事、商売を始めても良し、中には国を治めている神もいるとバーバラは説明を加えた。


「すぐ隣にこれからお住まいになられる屋敷がございますので生活に関してのお話を含めてその他諸々な事はそちらでご説明致しましょう、メイベル」


 呼ばれたメイベルは公太郎の前に跪き雪駄を差し出した。



 社から出るとまずは境内にキジトラ柄の猫がいた、ここの飼い猫だろうか、猫は公太郎に気付くと目の前の参道の奥にある階段を降り逃げていった、そして視線を少し上げると鳥居、そこはまさしく自分の知る神社の風景であった。社の中では気付かなかったがもう夕方らしく小高い山の上から見下ろす景観はまばらに街の光が見え始めている。おそらくこれから生活していくであろうすぐ隣にある屋敷は旅館といっても差し支えない日本家屋だが、街の方では故郷と似た町並みに混じり、明らかに愛ホテル的ではない西洋風の城や建築物が目に付き、改めてここが日本ではないと思い知らせた。

 外観どおり屋敷の玄関は日本と同じ靴脱ぎ場がありそこでスリッパに履き替え、三人の後をついていく途中、公太郎が何か思いつき袴の中を覗き込みながらバーバラに尋ねた。


「ところで昇天してく魂を連れてくるのはいいとして肉体はどうなってるんですか?おそらく肉体というか死体?は元の世界に残っているんでしょ?だけど見た感じは自分の体まったくそのもの・・・いや下半身の神柱みはしら様はもっと大きかったような・・・」

「何セクハラな見栄張ってるんですか・・・神の肉体に関しては実はよく分かってはいないのです。病気で亡くなられた場合はその病が消えた状態で、怪我で亡くなられた方は致命傷に至る前の状態で今着ていらっしゃる袴姿であのお社に現れるのですが、現れた直後に老衰で亡くなったというケースも御座います。しかし何故魂だけを連れて来るのに肉体を持って現れるのか、アダム様とイザナミ様は何を基準として神をお選びになられているのかまさに『神のみぞ知る』ものとされております・・・どうぞこちらへ」


 そういって通された部屋は応接室のようで十畳程の畳部屋には対となって置かれてる三人掛けと一人掛けのソファーとテーブルが置かれ、部屋の隅には液晶テレビらしきものも置かれていた、メイベルはお茶を淹れてきますと退出し、上座の三人掛けソファーに公太郎を座らせ、その対面にバーバラらが座り(三人掛けのはずなのに二人が座ったらもう座るスペースがなくなってしまった)、まずは名前や地球の住所、職業や自分がなくなった原因など地球にいた頃に関する経歴書を書いた後、この世界について大まかな説明がされた。

 講義が一段落ついたところでメイベルがお茶と菓子を持って戻ってきた。さすがにメイドの姿をしているだけあって手際良くポットからカップにお茶を淹れ公太郎達に差し出した。


「へいお待ち」

「・・・」


 だがやはり口調は残念だった。しかし肝心のお茶は公太郎の知る紅茶の香りで、同じく差し出された砂糖壷らしき物の中には砂糖が入っており、味も自分が知る紅茶の味でクッキーらしきお菓子もクッキーそのものであった、どうやら味覚は地球と同じみたいなようだ。バーバラもこちらの考えていたことが分かっていたのか。


「食べ物を始め生活は日本と何ら変わらないと思ってもらって結構ですよ。あちらに置いてあるのはテレビそのものですし外に出れば車もあります。ほらNHKもこの通り」


 そう言ってバーバラはテレビのリモコンを付けると確かに相撲が放映されていた、四股名や相撲取りの顔を見る限り日本の相撲放送に間違いなく、どうやら本当に地球の電波がこの世界に届いているようだ。公太郎はこの事実に感動したが。


「やったーこれで相棒がみれるぞー・・・って、これって電波泥ぼ…」

「さらにこのように日本の情報が流れてくるので書籍も完備!」


 公太郎の言葉を遮りどこかから取り出した漫画はまさしくONE PIECEであったが。


「だからこれはいわゆる海賊ば…」

「まあ公太郎様。何を仰っているか分かりませんがワンピースと海賊をかけていらっしゃるのですね」

「かけてねーよ!だから僕が言いたいのは…」

「と・に・か・く、生活に関しては日本にいたときとなんら変わらないと保障いたしますわ」


 公太郎のツッコミを聞いていないのかあえて無視いているのか分からないがバーバラはこの話を無理やり切り上げた。


「それでは相方の天神さまをご紹介いたします。少々お待ちになって下さいませ」


 そういうとバーバラは部屋から出て行った。

 ―――気まずい。

 目覚めてから今までずっとバーバラだけがしゃべり続けていた為、彼女がいなくなると応接室は気まずい雰囲気になってしまった。公太郎はメイベルの方を見ると、そんな空気にお構いなく自分の淹れた紅茶とクッキーを味わっている。どうやらマイペースというか図太い娘のようだ。対して緑髪の少年は相変わらず不機嫌そうにこちらを睨みつけている。公太郎は居た堪れない気持ちに耐え切れず平助に話しかけた。


「平助クンは僕の何が気に入らないのかな?」

「・・・別に」


 ―――はい別にきました。

 想像していた通りの返事がきたが、それでは答えになっていない為、公太郎は改めて問いただした。


「別にはないだろ。君は僕の世話役なんだからこれから嫌でも付き合ってゆくことになるんだ、不満があるんだったら今のうちに言っといた方がいいだろ。ほれほれ、おいたんに言って見なさい」

「特にねーよ」

「そんなはずないっしょ。もしかして僕は恋人に寝取られた相手にでも似ているのかい?」

「ちげーよ」

「ハッ!それとも似てるのは恋人の方・・・」

「何でそーなる!?」

「いやまあ・・・ここの法律がどうなっているのかとか同性愛が寛容な環境なのかはしらないけど、僕はノーマルで男のも受け付けない派だから、それに寝取られはないにしろ振られたのにも何かしらの原因がきっとあるはずだぞ」

「顔赤らめながらモジモジしてんじゃねーよ!てかなんで男に振られた前提で話進んでんだ?」

「じゃあ、お前に前任者の代わりが務まってたまるかと思ってるのかな?」


 公太郎の不意に発した言葉に平助は驚き目を見開いたが、すぐに元の不機嫌な顔に戻ると目を逸らしそのまま黙ってしまった。一方の公太郎はまるでいたずらが成功した子供のような満足した顔になっていた。そうすると今度はメイベルの方が公太郎に話しかけてきた。


「何でそう思ったんですかい?」

「ん?いやノーマルとは言ったけど腐女子視点で見たらきっとあいつは受けだなと…」

「そっちじゃねーよ。前任者の方」

「あーそっち、いやホラ僕はこの世界に来たばかりじゃない、しかも神さまだよ。そんな初対面の神さまに対して不機嫌になる原因は僕自身じゃなく、前の神さまにあるんじゃないかなと思っただけだよ」


ふーんとメイベルは公太郎を見定めるように眺めるとまたお茶を飲み始めた。そうしてしばらくするとバーバラが戻ってきた。


「おまたせ致しました。天神さまをお連れいたしました」


 バーバラと共に入ってきたのは金髪の女性であった。その金髪は流麗に腰の所まで伸ばしており何より目を引くのはそのロール上の巻き毛、ただでさえ神社に似つかわしくない容貌なのに服装は宝塚に出てきそうな麗人の格好で、その容姿はまさしくテンプレ通りの金髪縦ロールお嬢様であった。


「ワタクシの名はフォーミラ・ゲイル・ロブウェイ。ここ異界ノアの国がひとつ、えんの天神を務めていますわ!」


 部屋に入るやフォーミラは間髪いれず、そのただでさえ自己主張されている胸をさらに突き出して名乗り上げ、言葉を続けた。


「あなたが新しい地神ですわね。あなたが先ほど書かれた経歴書をひと通り読ませてもらいましたわ、お名前は橘ハム太郎でしたわね?」

「公太郎です。あの経歴書って縦書きだったっけ?」

「公務員で仕事中の事故で亡くなったあなたが異世界で蘇り、いきなり神になれと言われ、とまどうなと言う方が無理な話ですわ」

「あれ?僕の声小さかったかな?てか公の字読めてるよね」

「だけどハム太郎、悲観することはありませんわ!あなたは数多にある昇天して行く魂の中で、この世界に12の席しかない地神の座を見事イザナミ様より選ばれたのですから!!」

「だからハム違うとゆーてるだろ。どこのとっとこだよ?」

「そう、ワタクシこと、フォーミラ・ゲイル・ロブウェイがアダム様から天神に選ばれた事と同等に名誉あることなのですわ!!」

「おーい、フォーミラさん」

「しかーし!それ以上に光栄なのはこのフォーミラ・ゲイル・ロブウェイの相方に選ばれたということ!!」

「おいコラ、フォーミラ」

「本来ならあなたのようなネズミ相手、ワタクシの事をフォーミラ様と呼ぶべきなのですが、まあ名目上は対等な立場!」

「・・・」

「さあハム太郎!特別にワタクシ、フォーミラ・ゲイル・ロブウェイをあなたの好きな呼び方で呼ぶことを許して差し上げますわ!!」

「ありがとうゲロ道さん」

 ・

 ・

 ・

「好きに呼んで良いって言ったじゃん」


 公太郎は(グーで)殴られた頬を床の畳で冷やし・・・もとい、もう片方の頬をフォーミラに踏み潰されながら弁明した。


「常識の範囲内で、ですわ」

「だからちゃんとさん付けしたじゃん」

「気を使うところが間違ってますわ」


 と、フォーミラは公太郎をさらに踏み潰した。


「ふう、どうやら仲良くやっていけそうですわね」


 その様子を見ていたバーバラはほっとしたようにつぶやくと


「どう見たらそうなる?!」


 隣にいた平助はバーバラのつぶやきに思わずツッコミを入れた。


「平助、あなたこそよく見なさい。あの見た目通りにプライド高いフォーミラ様が自ら歩み寄り、対して公太郎様もそんな相手に気後れせず、フォーミラ様の要求を快く受け入れ、対等な立場で接しているじゃありませんか」

「どこが対等?もうすでに立派な上下関係が出来上がってるだろ!」


 そんなバーバラの答えに、平助は倒された公太郎と、未だ彼を踏みつけて悠然と立っているフォーミラの姿に指をさした。


「ああ見えてフォーミラ様は人見知りだったのですよ。フォーミラ様がこの世界に来たばかりの時はそれはもうカグヤ様も…」

「バーバラ!!」


 フォーミラはカグヤという名を出した途端、バーバラを怒鳴りつけた。怒鳴られたバーバラも失言したことに気付き、平助もフォーミラが怒鳴ったことよりもカグヤという名に動揺を見せていた。再び応接室には気まずい空気が流れ込み、フォーミラは公太郎を踏みつけていた足をどかし解放すると


「・・・お風呂に入らせていただきますわよ。それと食事は部屋で取ります。メイベル、後で食事を持ってきてくださいませ」


 そう言うと、フォーミラは足早に応接室から出て行った。公太郎は解放はされたがこの重い空気に立ち上がれずにおり、おいどうすんだこの空気、何?僕が悪いの?と途方にくれていると、我関せずとお茶を飲んでいたメイベルが立ち上がった。


「それじゃあお茶菓子も食べつくしたので食事にしやしょうか」

「図太いなオイ」


 だが彼女のおかげで張り詰めていた空気が緩み、晩御飯を取るため公太郎達は居間へと移動した。案内された居間は応接間と同じ畳部屋だが、大きな違いはテーブルとソファーではなく長方形のちゃぶ台と座布団が置かれていた。公太郎は上座の座布団が2枚並べられた左側に案内された、おそらく右側は普段フォーミラが座っているのだろう、そして向かいにバーバラが座り、左側に平助、そして食事を用意したメイベルが残りの右側に座った。メニューは白飯にわかめの味噌汁、豚肉のしょうが焼き、ほうれん草のおひたしと湯豆腐。髪は緑だが顔立ちは日本人寄りの平助だけではなく、髪も顔立ちも日本人離れしているメイベルも箸を器用に使いこなしていた。衣食住から見てやはりバーバラの言うとおり文化は日本のそれとまったく同じのようで、文化の違いで困るようなことはなさそうだと公太郎は安心した。

 食事を済ませた後、お風呂を入り、風呂場から出ると着替えらしきものの上にメモが置かれていた。


『着替えを置いておきました。本日、この後の予定はもうないのでこのまま御自由にお過し下さい。公太郎様のお部屋もご用意してあります、間取り図を置いておきましたので場所はそちらをご覧になって下さい。そのままお休みになられてもかまいませんし、何か御用があるようでしたら私の部屋をお訪ね下さい。P.S.神と言っても公太郎様は健康な青年男性、晩御飯のおかずだけでは物足りないと思い、夜のオカズも用意しました、ご自由にお使い下さい』


 メモが置かれていた場所を見てみると、寝巻きに間取り図、そして3Lサイズのショーツが置かれていた。

 公太郎は着替えた後、ショーツを焼却する火種を求め、台所へと向かうのであった。




「何がオカズだよ。残飯じゃねーか、残念なパンツ、略してザンパン」


 ブツクサと文句をつぶやきながら台所に入ると先客がいた。


「公太郎様、どうしたんですかい?」


 そこには洗い物をしていたらしいメイベルと夕方見かけた猫がエサを食べていた。しかし彼女は洗い物をちょうど済ませた後なのか公太郎が来た時はコンロの換気扇を回し、その下で一服しているところだった。


「いやちょっとゴミを燃やしたくて・・・ちょうど良かった、ライターを持ってたら貸してくれない?あとフライパンも、それでちょっとその場所も使わせてもらうよ」


 公太郎の頼みにメイベルは多少いぶかしんだが、コンロの下の引き出しからフライパンを取り出し、ライターを手渡して場所を譲ってくれた。

 ちなみにこのコンロはガスではなく魔法で火をだしているらしい。またガスだけではなくこの世界のあらゆる機械は魔法で動かしている。

 魔法とは魔素と呼ばれる元素が空気中に存在し、その魔素をマナという名のエネルギーに変換した力である。魔法は火を出したり電気代わりにしたりするだけでなく、身体強化や物質創造などあらゆる応用が出来る、通常変換には特殊な道具や方法でマナに変えているが、自らの肉体で魔素をマナに変換することもできる、しかし肉体で行うにはある程度の精神力が必要で、失敗するとマナが暴発し、体内で爆発してしまうという危険があるため、肉体のマナ変換は国の許可が必要となっている。そしてそのマナ変換が長けている者がこちらの世界では魔法使いと呼ばれるらしい。

 魔法は天神がいた世界でも一般的ではあるが、文化レベルは中世並らしく、天神はこの世界の技術に最初は驚き、地神は最初に魔法の存在に驚くそうだ。

 かくして公太郎はその魔法ライターでショーツに火を付けフライパンに置いた。そして振り返り、洗った食器を棚に戻しているメイベルに声をかけた。


「メイベルさん、僕の先代のカグヤってどんな人だったんだい?」


 メイベルは作業を止め、応接室のときと同じく公太郎を見定めるように答えた。


「アタイも詳しくは知らないんです。カグヤ様が亡くなった後すぐに、前のメイドが辞めちまってアタイが代わりにここに来たんでさぁ。だけど存命中の地神様どころか歴代から見ても屈指の素晴らしい人物だったという話らしいですよ。ま、あの人たちの反応を見たら、どうやら噂通りのかみさまだったようですね」


 神と崇められてはいるが、実際は何か特別なことをするわけではないので、神個人の知名度は余り高くはない。一般人は自国の神ならともかく、他国の神の名前は5、6人知っている程度だそうだ。


「それで公太郎様はどうするんですかい?」


 メイベルは何に対してどうするのか明確な表現をせず公太郎に尋ねた。


「さあね、ただいきなり神様にされた初日でどうにかできる人・・・いや、神様なんてそれこそカグヤさんでも無理だろ。とりあえずもう寝る、そして知る、そして考える」


 公太郎も何に対してかは言わずに答えた。


「・・・それもそうですね。フライパンと燃えカスはアタイが片しときやす。お休みなさいませ公太郎様、あなたがこれからどんな答えを出すのか楽しみにしています」

「ありがとう。おやすみベルさん」


 こうして公太郎の神様生活1日目は終了した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ