善の使者 偽
あぁ・・・私たちは。
どこで踏み外したんだろーね?
あ、あの子困ってる。ほっとくか。あんな雑魚をかまってたら疲れるし。…けど。昨日部長助けたから雑魚も助けとかないと…なんか言われるかもだしなぁ。めんどくせぇ。
「手伝おーか?安西さん。」
私は 善の使者。
一文字隠した偽善者。
不器用な人が好き。
自分にはないものを持つ人が好き…逢いたい。
捨てて…何処まででも行きたい。
あぁ。善の使者。
「ありがとうございます!あ…ここまでで。」
「ううん。私、暇だったから。いいのよォ。」
この笑顔が動く源だ…なーんて。欠片も思えない。この笑顔が…この雑魚が言い回ってくれたら。私の価値がまた上がるだろう。
すべては計算で回っている。この世は良い人が負ける様に出来てるんだよ。けど良い人に逢いたいと欲するのは私の我儘だ。
「君。ちょっと社長室へ来てくれないか?」
昨日助けた部長から呼びかけられる。いい知らせだろう。なにせ昨日助けたし。
「はいっ!何でしょうか?」
「今日限りで辞めてもらおう。」
社長は冷たく言い放った。
「は?な、何でですか?」
「分かってくれ…。この会社はそろそろ潰れる。だから一握りの優秀な社員以外は辞めてもらうことになった。」
この世界は…いい人が損するように作られている。
お父さんは過労死だった。この平成の世に、過労死?!どんだけ働いたんだ。最後の言葉は
「人に優しくあれ。」
だった。お父さん。あなたは人に優しくあり続けてそれが原因で死んだんですよ?娘にもそうあれと言うのですか?
葬儀には一社員のくせに溢れんばかりの人が来た。これが人に優しくあった結果か。…お父さん。私は過労死しない程度に人に優しくあります。お父さんより多くの人に葬儀に来てもらいます。たとえそれが偽善と呼ばれるモノであっても。
「いっつもヘラヘラしててウザいんだよ。」
「この偽善者が!」
高校でそう言いながら殴られた。私は殴られるために善の使者をしてる訳じゃない。
「ふん、偽善って突き通すと善に成るんだよ。」
私はいつもの笑いを引っ込めてそいつらを睨む。あぁ。けど、分かってくれている人もいたんだ。私がやっているのが偽善だと。偽善者だと。分かっている人もいたのか…。じゃぁ。消さなきゃ…。
「けど。私は偽善を突き通すつもりはまるで無いのよ。」
私は笑いながら殴る。分かってくれた少なき人々を。
「お世話になりました。」
「寂しくなるね。」
残れた奴がどんな同情をかけるかなんて想像は出来たけど。ウザい。
「えぇ。今までありがとうございました。」
笑顔で手を振る。明日からどうしよう。もうニコニコする必要も偽善をする必要もなくなった。
私は自由だ。けど…自由になるために偽善をしてた訳じゃない。飲もう。こんな日にはヤケ酒だ…。下戸だけど。
「あれ、お前…確か。うちの会社の人じゃないか?」
整った顔をした女が唐突に話しかけてきた。
「誰?私は辞めさせられたんですけど?」
「済まん…私は不器用なものでな。私は一昨日解雇にされた。」
「うざいのよ。私は負け犬同士で傷を舐めあう主義は無いわ。群れたくないし。」
さすがに彼女は気を悪くしたようで、顔を歪めながら私の横に陣取った。
「…なんで座るのよ。」
「思い出した。お前はうちの…今は私の会社でもなんでもないがな。の、有名な偽善者だ。」
「え…?何それ?」
「優しいんだけど、偽善者めいていると同僚が言っていた。」
生暖かいモノが目から零れ落ちてくる。なんだ。みんな知ってたのか…。
善の使者のもなれなかったけど。
偽善の使者にまでなれなっかたわ。
「不器用な子。そんなの普通本人には言わないわ。」
私は吐き出すように言った。
「あぁ。そう思う。けど、私は君のように器用な子に会いたかったのだ。」
「あぁ・・・私たちは。どこで踏み外したんだろーね?」
これからは善の使者になろうかしら。
読んで下さり、有難う御座いました。
ちなみにコレの続きっぽいのも書く予定なので。善の使者辺りで検索して下さると嬉しいです。