第9話:さようなら
涙は止まることを知らなかった。
電車の中でも流れた。きっと周りの人は不思議に見ているだろう。
今の私には周りなど見えなかった。
地元の駅に付き改札を抜けると
『梓』
咲美が立っていた。
敬の家を出てすぐ泣きながら咲美に電話をしていた。何を話したか覚えていないが、泣きながら電話をした私が心配になり、駅まで迎えに来てくれたのだ。
咲美の顔を見てホッとし、その優しさに涙は量を増した。
咲美に抱きつき、声を出して泣いた。
今夜の12時前だ。咲美も夜出れるはずがない。きっとこっそり抜け出して来てくれたのだろう。
今日は咲美の家に泊めてもらうことにした。
家は真っ暗、家族は寝ているようである。そっと家の中に入り、咲美の部屋に入った。
その時にはもう涙も止まっていた。
『今私に話したい事ある?』
おばさん達にばれないように小さな声で咲美は言った。
私は大きく首を横に振った。
今話してしまうと、きっとまた声をだして泣いてしまう。
『じゃあ,今日は寝よ。明日話せたら、話して。ゆっくり休んで…。おやすみ』
『うん。おやすみ』
ありがとう。ありがとう咲美。
心の中で何度も何度も言った。
私達は早く起きた。
咲美の母に私が夜来た事を誤魔化すために。
夏休みとあっておばさんもゆっくり寝ている。朝7時...咲美はおばさんの寝室に行き『今梓来たから』と言いに行った。これでOK!
私達はホッと一息ついた。
『昨日なにがあったの?話せる?』
『ちょっと待って。トイレ行かせて』
パンツに違和感があった。トイレに行って見てみると、血が付いていた。昨日の一件で付いたのだろう思った。
部屋に戻り、昨日の一部始終を咲美に話した。
私が拒んだときの敬が怖かったこと。
エッチをするために私の誘いを受けたこと。
『…ひどい…』
咲美は私にかける言葉がなかったのだ。
『私は咲美に感謝してる。ありがとう』
『……。』
咲美は目に涙を浮かべている。
私は泣かない。
私は咲美に話したことで気が楽になった。
咲美には感謝してる。一緒にいてくれたことに、感謝で胸がいっぱいだ。
『私はもう大丈夫だから!』
敬のことはもういい。…忘れよう。
もっと強くなろう。
そう心に決めた。
私は携帯から敬を消した。
さよなら敬。。