表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/53

第48話: 衝撃の真実


 私は気の向くままに一軒の家の前に立っていた。

 毎日毎日我が家に帰る様に通い詰めた高哉の家。


二年が経った今でもその道のりははっきりと覚えている。


 此処まで何も考えず来たものの私は戸惑った。

インターフォンを押し、今更玄関から入ったらいいのか…。

昔の様に高哉の部屋へずかずかと上がっていいのか…。


 迷った挙げ句、さすがに玄関からは避けた。


 裏へと周り高哉の部屋の方へと向かった。


 この家には高哉と高哉の義母の二人だけ。

義母に出会さない様願った。


しかし家に人の気配は感じず、慣れ親しんだ高哉の部屋の前に着いた。


 高哉が留守の事は分かった。

でも私は窓に手を当てた。


…この窓を玄関の様に出入りしていたなぁ。


 あの頃を思い出し、窓を開けた。鍵は掛かっておらず、少し躊躇った後部屋に足を踏み入れた。


 昔は誰が居なくても平気で入った部屋に、初めて緊張感があった。


 それ程時は過ぎ、私と高哉の距離が出来、お互い変わってしまった証拠だ。


 誰も居ない部屋に座り込んだ。



ベット、テレビ、吸い殻の溜まった灰皿。

変わっていない部屋の構図に私はあの頃にタイムスリップした。




 高哉はいつもこのベットに寝転がって漫画を読んでいた。


 決してお世辞でも綺麗とは言えないこの床に、遊び疲れ知らない間に寝てしまっていた私。



そして最後に見た高哉は此処に座っていた。


 楽しい思い出も必ず最後の高哉が出てくる。


 私はここに来た意味を思い出し、立ち上がり押し入れへと向かった。


高哉は必ずこの押し入れに締まっていた。


ラベルを破がしたベットボトルにシンナーを入れ、何本と並べてあった。

葉っぱもパイプも…

注射器もシャブも…


 この中に無ければ、高哉は今新しい道を見つけた筈。


 あれば、高哉はまだあの頃に居る。



 全てが無くなっていて欲しい。

私は押し入れを開けた。


 ゆっくり目を開き、押し入れの中を見て私はほっとし、腰を抜かしその場に座り込んだ。


 全てがなかった。


 あるのは山済みにされた本。アルバム。


 私は今日ここに来て良かった。

高哉を最後にみたあの日からずっと胸にあったつっかえがスッと溶けていくのを感じた。


 私は立ち上がり、高哉にサヨナラをした。

二度と会うことの無い高哉に…。



 私と高哉が過ごした時は、お互い支え合うと言いながらただ薬物に溺れた時だった。




 高哉とはそう言う出会いで別れ。


今になって会った処で、お互い思い出は薬物。


このまま静かな別れがいいんだ。



 現在、聡士と葉っぱを吸ってる私が何だろうと笑みが零れた。

 窓から出ようとしたとき車のエンジン音がこの家の前で止まった。


 私は体が固まってしまった。

だって留守中の他人の家に勝手に入り込んでいるんだから。


 そして足音がこの部屋に近付いて来る。

私の心臓はバクバクと音が外まで聞こえそうだ。


でも、高哉が帰ってきたのかも…。


それなら私がここに居ても許してくれるよね。



 等々外の人物がこの窓を開けた。


『……っ』


私は目の前に居る人物に驚いた。


窓を開けたのは、広香さんだった。




『…梓?』


広香さんも驚きを隠せない。



『…広香さん』


『どうしたの?こんな所で』


広香さんは気を取り直し、部屋に上がった。


私も帰る足を戻し、広香さんとテーブルを挟み向かい合い座った。


 煙草をくわえると広香さんは部屋を見渡した。


『梓元気してた?』

『…はい』


 広香さんとは引退以来連絡が減り、沙童解散と茂貴との別れ以来、少なかった連絡は途絶えていた。




『茂ちゃんとも別れたんでしょ?』


『はい。…達也さんから?』


『うん。大体の話しは聞いた。茂ちゃんも頑張ってるよ』


『…そうですか』


何事にも真っ直ぐで、偽りのない広香さんに、茂貴との別れ時の偽りだらけの自分を見透かされない様に必死だった。


 広香さんの前では、高哉を大切に思った梓。

身を削ってでも茂貴に付いて行く、あの頃の梓でいたかった。


『ところで此処で何してたの?』


『あ…あの…高哉を思い出して…』


『心配してくれてたんだ』


広香さんの優しい綺麗な笑顔は健在だ。

この笑顔を向けられると今でも嬉しい。


『実は…ずっと気になってて…あの日の高哉がずっと頭から離れなくて…高哉を一人置き去りにして…あれから高哉がどうなったのか気になってたけど、来る勇気がなくて…』




 誰にも言えなかった思いを広香さんに話していると、涙が込み上げて来た。


広香さんは黙って私の話しを聞いてくれている。


『でもっ今日此処に来て良かった。高哉は今何しているんですか?』


私は涙を拭った。


『梓知らないの?』


『……』


広香さんの表情が変わった。

何だろう…。

でも広香さんの顔を見れば良い事でないのは分かる。


『高哉ね。半年前に死んだよ』


『はっ……』


喉が詰まった様に言葉が出ない。

それ処か理解出来ない。

高哉が死んだ?

何で?何でなの?何があったの?


『伝えようとしたけど、梓に連絡取れなくて』


私は携帯を変えていた事を後悔した。


愕然とする私を余所に広香さんは話しを続けた。




『梓が高哉を見た最後の日からも高哉はシャブを止めれなかったんだ…。出来る限りは高哉の所に来てたけど、仕事や沙童の事で高哉を監視することは限られてたんだ』


広香さんは一呼吸おき、煙草に火をつけた。




『シャブ漬けになった人間は酷いよ…醜い。知性や理性全て失うんだよな。高哉は幻覚に追われ道路に飛び出したんだ。車に跳ねられ即死だった』


『うっ……』


いつも簡単に出る涙がこんな時に出ない。


狂ってしまいそうな自分を止めることで一杯だ。


『だからもう高哉を想うのは止めな!高哉に拘り、自分を責めるのはよしな!梓はあれで正解だったよ。あのまま高哉と居たら梓も高哉と同じ目に合ってた。高哉自身が招いた結果だよ』



 広香さんの言うことはいつも正しい。

私も広香さんの様に割り切れたらいいといつも思わされる。


『梓は今何してるの?』


『……』


唐突な問いに気持ちの切り替えが出来ない。


『まぁ何しててもいいか!』


広香さんは無理に明るく振る舞っている。


『でもね梓。何をしてても自分の想いを大切にするんだよ!自分の気持ちを曲げちゃいけない。見失っちゃいけない。負けちゃいけないよ』




 広香さんは達也さんと来月結婚するらしい。

そしてお腹の中には今小さな命が宿ってる。


そして高哉も義母も居なくなったこの家に住むそうだ。


またお邪魔しますと広香さんに別れを告げ、家を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ