第44話: 蘇る恋
中絶後も恵里は変わらず翔次を想い続け、隠すこともなくその想いを翔次に伝え続けている。
しかし未だ恵里の想いは届かない。
翔次からしたら恵里は都合の良い女だ。
翔次に『会おう』と言われれば、恵里は会いたいのだから勿論会いにいくが、付き合っていたた頃とはまるで違った。
会えば、翔次は恵里の体を求め、恵里は好きだから翔次を受け入れる。
翔次の欲情が満たされれば、恵里の存在は必要とされなくなる。
誰が見ても恵里が利用されているのは明らかだった。
《惚れた方が負け。》
恵里を見てるとよく分かった。
そして、恵里自身も分かっていた。
翔次が他の女とも会っている事も。
恵里は全て知った上だった。
好きだから…。
体を求めるだけでもいい。
翔次に愛はなくても、体を重ねてる間は幸せだから。
体だけの関係でも繋がっていれば、いつかは戻ってくくるかもしれない。
みんなは恵里を『遊ばれてるのに』『分かんないのかなぁ?バカじゃん』とか言う。
でも恵里はちゃんと考えて、後悔ない恋愛をしてる。
恵里の行動でどういう結果になるのかは分からないけど、好きな人に夢中で向かって行く恵里を私は素敵だと思う。
そして季節も変わり、私達の高校生活も終わりに近づいた。
恵里は希望大学への入学が決まった。
私は進学も就職もする気はないから呑気なもの。
恵里の様に夢中になれる人は現れないが、男は尽きる事なくいる。
その場の雰囲気や寂しさを紛らわす為に付き合ったり、抱かれたり。
誰かと居れば寂しさは感じないから。
けど、夜になると寂しさや虚しさや不安が溢れてくる。
私は夜が嫌い。
昼間の雑音も消え、沈と静まり返った部屋に一人でいると、自分が世間から取り残されてる様な気が押し寄せる。
今の私は何も満たされていない。
心底好きな相手でもない人と付き合っていても、一人になれば寂しい。
セックスで甘い一時を送っても最後は虚しい。
私は贅沢なのかな?
そんな私に恵里は決まって言う。
『彼氏が居て想ってくれる人が居て、梓は幸せだよ。私なんて一人追い駆けてるだけなんだよ』
先が見えず、追いかけている恵里からしたらそう思うらしい。
好きなのか分からない相手とただ時間を潰す様に過ごす私からしたら、自分をさらけ出し突き進む恵里が羨ましい。
そんな事を考えていると、決まって思い出すのが慎悟だった。
あの時の私は、慎悟が全てだった。
何の理屈も考えず、慎悟自体を愛してた。
慎悟と別れ、何人もの男と出会ったが、勿論慎悟の様な男は居なかった。
慎悟を愛した様に愛せる男も居なかった。
今の恵里を見てると、私には後悔ばかり。
あの時、どうしてもっと素直になれなかったのか…。
自分の気持ちをくだらない維持の為に抑え付けたのか…。
あの時…。あの時…。
思い出せば出す程、慎悟が蘇りあの時に戻りたくなる。
慎悟に会いたくなる。
別れてからも、慎悟は私の中にずっと在り続けている。
常に男を比べる基準は慎悟だった。
慎悟に勝る男は居なかった。
慎悟と歩いた街を歩けば、会えるんじゃないかと期待していた。
慎悟を探す自分がいた。
私は気付かない振りをしていただけだった。本当は知ってる。
私はまだ慎悟を想っている。