第42話: 汚い自分
親友だった真弓が居なくなったのに、私は今、寂しさなど感じていない。
そして、何時も一緒だった茂貴にも何の未練もない。
愛情は無くなっても、あれ程一緒だったのだから情ぐらいはあってもいい筈だし、寂しさもあってもいい筈。
それが今の私には一切ない。
それどころか、本心は清々している。
親友だった真弓。
愛した茂貴。
私は二人を利用しただけだったのかもしれない。
実際、結果的にそうなのだ。
真弓は不良っぽく目立つ存在で、真弓と仲良くなった事で、学校での今の私の地位がある。
茂貴は沙童の前総長である広香さんの知り合いで、彼氏の親友でもあった。
そのお陰で、沙童での地位も築けた。
学校での地位も掴み、沙童が解散した今、二人は必要なくなったのだ。
だから私は簡単に二人を切り捨てられたのだと思う。
私はふとこういう事を考えるが、自分のことが狡く汚く思え、直ぐに頭からかき消してしまう。
その癖、私は寂しがり屋で常に誰かに側に居て欲しいと思う。
彼氏が居れば、友達なんか居なくてもいいと思い、彼氏が居なければ友達は良いと思う。わがまま野郎だ。
自分でも分かっている。
この自分のわがままさが二人を無くしてしまった原因なんだ。
そして気付けば私の周りには誰も居なくなっていた。
でも、唯一残った人がいた。恵里だ。
恵里もまた友達を作る事が苦手で、真弓が居なくなり、三人から二人になった事で、私達の仲は一段と縮まった。
そして幸いと言えば恵里に悪いが、私が茂貴と別れた後、恵里も長年付き合った彼と別れたのだ。
私達は今まで居た人が居なくなり、一人になったという寂しさがあり、この同じ状況が私と恵里を一段と仲良くさせた。
私と恵里は常に行動を共にした。
二人が別々に居る時が返って不自然な位に。 恵里と一緒に買い物に行ったり。
恵里と一緒に男達と遊んだり。
恵里とは男に関しての感覚が良く似ているから、楽だった。
気になる男が居れば、お互いを気にする事なく行けばいい。そんな感覚だ。
ナンパをされて恵里と合図をし、その時次第で付いていき、私か恵里、どちらか気に入れば、そのまま男と抜け出す事もあった。
その内、恵里に彼氏が出来た。
ナンパで知り合い、恵里の一目惚れだった。
名前は翔次 私達と同じ年の17歳だ。
高校には行っておらず、鳶職をしていた。
恵里は彼氏が出来ると、一途な子。
二人で、男漁りをする事もなくなり、ナンパに付いて行くこともなくなった。
でも、私も翔次と顔見知りとあり、翔次の友達も交えて良く遊び、彼氏が出来た恵里と私の関係は変わることはなかった。
私から見ても翔次は見た目も格好良く、女が寄ってくる雰囲気を持っていた。
実際かなり遊んでいたみたいだ。
恵里はそんな翔次が心配でならない。
翔次も恵里を好きだが、翔次よりも恵里の思いの方が大きく、恵里は翔次を離さないと必死になっていた。
しかし、恋愛にはバランスが大切で、翔次と恵里はそのバランスが合わなくなってきた。
恵里の気持ちが重すぎ、翔次が別れを告げた。
恵里は泣いて縋ったが、これもまた男と女。
どちらかが、無理だと言えば付き合いは成り立たない。
恵里は別れを受け入れるしかなかった。
別れても翔次を引きずる恵里の心境は痛い程分かる。
好きな相手を無くし、寂しい筈。
一人で居れば崩れ落ちてしまいそうな筈。
そんな恵里の気持ちを察し、私は出来る限りの時間恵里と過ごした。
そしてまた恵里を追い込む出来事があった。
翔次と別れ2ヶ月が経とうとする時。私達は何時ものファミレスで暇を潰していた。
『…生理が遅れてる』
突然の恵里の告白。
『え?どれ位?』
『もう直ぐ三週間…』
恵里はもう妊娠を確定している様子に見えた。
『三週間だったら間違いかもよ。ただ遅れてるだけかも…』
私は恵里の妊娠を否定した。
否定したかった。
年頃の私達。
普段からセックスの話しはしていた。
恵里が翔次とやるとき、避妊をしていない事も、中で出す事も知っていた。
だから、生理が遅れてると言われて《妊娠》の二文字が直ぐよぎった。
否定をしながらも、私の気持ちは妊娠で一杯だ。
妊娠していないで欲しいという私の願望だった。
だって余りに惨いから…。
妊娠した処で、産めないのは恵里も分かってる筈。
《中絶》
中絶の辛さは実際体験して痛い程分かる。
それに、時期が悪い。
付き合ってる時ならまだしも、別れてから分かるなんて…。
『検査した?』
恵里は泣きそうな顔で首を横に振った。
『なら検査してみようよ』
私達はその足で妊娠検査薬を買いに行った。
ファミレスに戻り、恵里はトイレに向かった。
『梓…居てね』
恵里は頼りなく呟いた。私は恵里に付き添った。
結果は陽性。
もう間違いじゃないかという言葉など出ない。
恵里は席に戻り、持っていたハンドタオルで顔を覆い時々肩を揺らし、声を殺し泣いている。
私は胸が締め付けられる思いで、掛ける言葉も見当たらず、泣く恵里を見つめる事しか出来ない。
妊娠していたのは事実。
恵里が泣いている間にもお腹の子は着実に育っている。
今此処で立ち止まってはいられない。
『…翔次の子だよね?』
私は話しを切り出した。
恵里は俯き顔を隠したまま頷いた。
『恵里はどうしたいの?』
『…産みたい』
私には意外な返事だった。
恵里は進学を考え目標を持って今行動している。
それに私達はまだ17歳。
現実的な恵里から産むなんて言葉が出たのは意外だった。
それに私達はまだ17歳。
現実的な恵里から産むなんて言葉が出たのは意外だった。
それに私達はまだ17歳。
現実的な恵里から産むなんて言葉が出たのは意外だった。
私が妊娠したとき。産むなんて考えた事なかった。
妊娠した事実を受け止める事も真間ならぬ間に事が終わってしまった感じだった。
私に比べ恵里は強かった。
さっきまで泣いていたかと思えば、涙を拭い顔を上げた。
『私産みたい!翔次の子を産みたい!』
恵里の決意は固かった。
『今から翔次に言うね!電話するから梓一緒にいて…』
強い口調ながらもやはり恵里に不安はあった。
私自身十分に味わった辛さだけど、結婚→妊娠なら喜びだろう。
しかし、妊娠を先にしてしまったら喜びよりも不安が大きい。
この先どうなるのか。
増してや高校生。
相手に対し、親に対し、自分に来る反応が怖い。
もし中絶になるのなら、恐怖心さえある。
自分自身が招いた事と言われればそれまでだが、前を向き現実を受け止める恵里を私は凄いと思った。
恵里を応援したくなった。何も出来ないけど、前向きな恵里を見守りたいと思った。